アイマスのアイドルが童貞をもらってくれるシリーズ 作:ふりーじ屋/家庭内禁書
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『いつもなら志保が止めてくるころなのにね』
アイドル・北沢志保のスマートフォンの仕事用グループチャット画面で、彼女の名前が表示された。しばらくぶりのことだった。
志保が履歴を遡ると、同僚アイドル――島原エレナ、伊吹翼、星井美希――の服を着崩し肌や下着をちらつかせた自撮りがズラズラ並んでいる。
どういうことかと――『ミキも混ぜてほしいな……これ、あげるね』という言葉の後に続くのは、ショートパンツのボタンを外し、下着のレースの縁をギリギリまで露出させた美希の姿――『エレナだけずるい〜。プロデューサーさん、こっちのほうがドキドキしません?』と、キャミソールの胸元を大きく広げて谷間を強調し、潤んだ瞳で上目遣いをしてそつなく便乗する翼――『暑いから脱いじゃったヨ!』というテキストと共に、レッスン着のTシャツを捲り上げてお腹を丸出しにしたエレナの写真は、引き締まったウエストのラインと小麦色の肌がまぶしい――10枚でカウントを止めた。
タイムラインを見直す限り発端はエレナだったようだが、もうどうでもよくなった。志保の見る限り、3人の自撮りの大胆さ、際どさが五十歩百歩であったし、志保の気分ももうたくさんだった。
「彼女らのご期待に応えてあげたほうがよろしいでしょうか、プロデューサーさん」
志保の目前で渋面のまま椅子に座っているプロデューサーは見るからに悩ましげだった。
年齢が20代半ばか後半で、芸能事務所のプロデューサーとしては珍しくかっちりした風采――美希からは〝お姉ちゃんの同僚さんみたいな……コームインの人にちょっと似ている〟とまで言われた――どおり普段なら企画立案、営業、進行管理そつなく仕事をこなす彼が、今志保の前ではしおしおとデスクに肘をついて首を垂れていた。
「……いつも志保にそういう役回りさせちゃ、なぁ」
そのプロデューサーが担当しているアイドルのうち、今は志保だけが仕事の都合で彼と同じ部屋にいた。765プロダクション事務所の一室で窓の外が暗くなっていて、志保もそろそろ帰るころだった。
「気にしないでもいいのに」
志保は、自分の言葉が空々しく聞こえた。言葉ではプロデューサーの気遣いを固辞するようだが、内心がまったく違う。
志保とプロデューサー以外の3人がグループチャットでお互い張り合いながら際どい自撮り写真を続々と投稿して乱舞させる、その始まりから志保はプロデューサーの反応を見て、彼の内心を察している。
例えばこうだ。いくらクローズドな場とはいえ、スキャンダルになるような自撮り写真を送ってくる彼女らをきつく叱りたい。
彼女ら自身が勝手に送信していたとしても、その家族や友人にのぞき見られたら、プロデューサーとしてどう言い訳すればいいのか。
けれど、こちらがあまりきつくたしなめればヘソを曲げられてしまう。
「……まぁ、そうなりますよね、プロデューサーさんだと」
「いけなかったかな」
志保は自分のスマートフォンの通知を指先で感じた。プロデューサーが3人を心配する体裁で、もう送らないようにと釘を差していた。
「こんな言い方じゃ、あの子たちはうれしくなって、懲りずに送りつけてきますよ」
「ノリが悪くて口うるさいとか、プロデューサーとして女の子のセクシーな姿を切り売りしている商売のくせにダブスタだなとか、思われるはずなんだが」
「あなたと出会って1週間だったらそう思われたでしょうね」
「出会って1週間でこんな自撮りを送られるようだったら、俺はとっくにあの子らの担当を降りてるか降ろされてる」
志保は知っている。
あの3人は生まれてこのかた親兄弟からずっと可愛がられ友人にも恵まれている。アイドルとしても実績を積んでおり、良くも悪くも余裕がある。軽率――よく言えば陽気で楽観的――だが、彼の言い方に忍ばされた機微を察せられるだろう。
そして彼は地味な――アイドルに比べれば、というだけで世間的には地味ではないが――仕事をそつなくこなす、いつも落ち着きのある身近な年上の男性である。こういった人間をからかったとき独特のくすぐったさを、志保も理解はしている。
「ご心配なら、私からあなたの反応についてあの子たちに教えておきます」
「どんなことを教えられちゃうのやら」
「あなたの今の様子。あの子たちはきっとうれしがります」
「いっそ志保が今の俺を撮ってあいつらに送ってみるか?」
志保の提案に乗るかプロデューサーはためらったらしい。スマートフォンの画面と、目前の志保の姿との間で視線を往復させる。志保はもちろん服をきちんと着ている。淡いベージュと黒いボーダーのシャツに、黒猫をあしらったフリルスカート。彼女がよく着ている私服で、デザインがところどころ少女趣味だが全体としてはコンサバである。
志保は中学に上る前から、同年代より大人びた服装を好み、それ以上に大人びた雰囲気をまとっていた。
「……いいえ、あなたを困らせるようなことは、言いません」
大人らしくしなければ、と思っているから言わない――(今、スマホに映っていた自撮りのあの子たちと、私の格好やスタイルを見比べましたか? そう見えましたよ)――自分までがあの3人のようなことをしてみせたら彼はどうなるのだろう、と思う。
似合わない、と自重する。自嘲もする。
「うわぁ」
また通知で二人のスマートフォンが同時に何度か振動した。
「やっぱりうれしくさせちゃったみたいですね、あの子たちのこと」
画面の向こうの3人に振り回されているプロデューサーが堪えられなくなり、志保は部屋を後にした。
「私にはどんな反応をしてくれるんでしょうね」
志保がプロデューサーとのプライベートスレッドにたどたどしい自撮りを送りつけるまで、数時間とかからなかった。
※
『志保』
プロデューサーはそれだけのメッセージを送った。見てすぐ何か返さなければ、と思ったがこれ以上何も思いつかなかった。アプリで志保からの通知を受けてすぐ開いた時には遅い帰りの電車に乗っていて、端末を取り落とさないようにするだけで精一杯だった。
翼や美希とは比べ物にならないほどつたない自撮りだった。前開きのパジャマらしきシンプルな着衣のボタンを2つ外して胸元をフレームの端に収めている。背景から、志保が自室のベッドに腰掛けて撮ったと察せられた。志保と少し離れて映り込む黒猫のぬいぐるみが彼を揺さぶった。彼は志保の素肌を水着グラビアなどで見慣れているのに、それとは違うと理解させられる。
画面をブラックアウトさせても、彼の中が変わらずぐらぐらしている。
(……もしかしたら、志保はもう寝ているかも)
プロデューサーのメッセージに志保からの既読はつかない。それが救いでも生殺しでもある。
志保は自撮りがつたなくとも、被写体としてのレベルはエレナにも翼にも美希にも引けを取らない。涼やかで意思の強そうな目鼻立ちと口元、少女らしく艷やかな肌と髪、少女らしからぬメリハリのきいた体はスリーサイズ83-56-84を公称しており、パジャマを少しはだけただけで谷間がしっかりと映る。パジャマの向こうの素肌まで想像させてしまう。中学生レベルではない。
プロデューサーは、数時間前に3人の自撮りと目前の志保の姿を見比べてしまっていた。志保がここまで撮って見せてきたらどうだろう、と想像してしまっていた。彼を動揺させる威力で比べれば、志保の自撮りは3人を上回った。
「志保、昨日の写真は」
「何のことですか」
夜が明けても動揺が残っていて、翌日のプロデューサーの矛先が一瞬でへし折れた。3人にはまだ気づかれずに済んだ。
「……何でもありませんよ」
翌日以降も志保から自撮りがプロデューサーに届いた。趣味や男女の交際より仕事を優先させがちな彼は、志保が寝支度をする寸前の時刻まで事務所で仕事をしていて、彼はだいたい帰宅途中に志保の自撮りを見る羽目になった。
最初の数枚はたどたどしかった。下乳や鼠径部などの際どいところをチラリと見せて煽情的だが指先や肌がどこか緊張を帯びている。表情はうかがえない。ネットで他の少女の自撮りを研究したのか、志保は顔を隠すように撮っている。ぬいぐるみで顔を隠している1枚を見せられたときのプロデューサーはめまいがした。
もう〝つたない〟とは言えない。
「志保……!」
毎晩自撮りを送り続け1週間が経って、プロデューサーの煮えきらない反応をどう見たか、志保はじわじわエスカレートしてきた。
自撮りの舞台が自室から家のトイレへと移った。シンプルな白いブラジャーの肩紐を一本だけ肩から二の腕に落とし、デコルテからバストの上半分まで収めた一枚が届いた。プロデューサーは『何がしたいんだ』とだけ返した。もう一本の肩紐も落としている写真が届いた。
さらに下着が変わった。透け感のある黒のレースだったり、バストのフロントや腰を紐できゅっと結んだビキニに寄せたデザインだったり、ベビードールとガーターベルトだったり。それらは志保の肉体を隠したりホールドしたりするより、男への誘惑を役目としている。彼は志保がそれを買ったところまで想像してしまった。志保は売れっ子アイドルだ。専門店に買いに行くなら変装が必要だろう。オンラインショップだとしたら届いた箱を同居する母親に見られる前に自室で開けなければならないだろう。
万が一他人に知られたら言い訳できない。
(志保は、俺に何をしてほしいんだ……?)
志保はついに顔も隠さなくなった。レンズを睨む瞳には、切迫感さえにじんでいた。そのくせ頬が赤らんでいた。プロデューサーが最低限の反応だけに押さえていると、志保はますます過激になった。ギリギリ乳首や女性器を隠しただけのほぼ裸の写真だったり、乳首の勃起や秘所からの愛液を示唆させる写真まで送られてきた。
「……私たちのようすがおかしいんじゃないか、ってずいぶん詰められたようですね」
「志保……見てたんなら、お前、助けてくれたって」
それからまた日が経ったある日、エレナ、翼、美希も志保とプロデューサーの間がどことなくおかしいと確信したらしく、3人がかりで事務所にいた彼に――『プロデューサー、絶対に何か知ってるよね?』と3人から10回は追求され――尋問して、ただでさえ憔悴気味の彼をげっそりさせた。
「あなたがどうなだめてあげるのか興味がありましたので」
「俺を見世物にしても誰も儲からないぞ」
入れ替わりで待ち構えていたように現れた志保が、彼へ追い打ちをかけてくる。
「見られるほど面白い反応をしてくれるとは思ってなかったんですが……私のせいですか?」
「ほかにお心あたりがおありですかね、志保さんや」
「グループチャットであんな自撮りを見慣れているとなると、プライベートならもっとすごいのを見ているだろうと思いまして」
志保の言葉は的外れだった。からかってわざと的外れを言ったのか否か、プロデューサーは判断しかねた。
「……志保もたまには子供っぽいことをするんだな」
「子供っぽいでしょうか」
「自分を安売りして人の関心を買おうとするのが、まぁ、子供っぽいかな」
「で、見ていらっしゃらないんですか?」
「それ聞いてどうするよ」
プロデューサーは、志保に対していつになく刺々しかった。志保の自撮りを見せられていたり3人に尋問されたりが、よほど堪えているらしかった。
「あなたのことが気になりますので。あなたが私のことを気にするのと、ひょっとしたら同じぐらい」
ここまでの自撮りに対する彼の返信も、普段の彼と比べればつっけんどんだった。『何がしたいんだ』『もうやめなさい』といった、困惑と理性で塗り固められた短い言葉ばかりだった。
「新しい下着を買いました。プロデューサーさん、気になりませんか?」
プロデューサーはもぞもぞと言葉に詰まった。目が泳ぎ頬も耳も赤くなった。いつも自撮りを送られた直後にスマートフォンを見ながらこう反応しているんだろうか、と志保は想像した。
自撮りでカメラと向き合ったときより心臓がうるさく感じられた。
「……もう遅くなっちゃってる、志保、送っていくよ」
ようやく聞けた彼の言葉がおかしくて、志保は笑ってしまった。プロデューサーとして担当アイドルたちをうまくマネジメントしているようでも、一対一で向き合うとこんなにも――(見ちゃいけないんですけど、見たいんですよね、送っちゃダメって言えないんですよね、あなたも子供みたい)――むしろ、かわいらしいぐらいだった。
プロデューサーから手を握って外へ連れ出そうとされて、志保は笑ったまま無言で首を横に振った。子供のような相手なら自分も子供っぽくなったっていい。
「志保……」
軽く拒絶された彼が、志保の目をしつこいほど凝視していた。志保の体を見てはいけない、と彼が自身に言い聞かせているのが丸わかりだった。
仕返しのように、彼の喉元を凝視してやった。ごくり、とツバや息を飲めば丸わかりだし、ひょっとしたら拍動がうかがえるかもしれない。
いくらか視線を浴びせ合って拮抗したあと、彼のスマートフォンに指先を伸ばしてやる。慌てて制止された。
「どうしたんです? 女の人のいやらしい写真が保存されていても、私は驚きませんが」
「……志保、もうあんな写真はやめるんだ。俺もお前も、どうかしてる」
「私はともかく、プロデューサーさんがどうにかなっちゃっているんですか」
これまで志保は、プロデューサーがそれなりの――きっと一回り年下の自分など軽くあしらえるほどの――女性経験を持っているだろう、と思い込んでいた――小学生メイドの演技をしてやったときは少し疑った――実はそう思い込ませているふだんの彼が演技だったとしたら。本当はもっとうぶで女に不慣れな男だったとしたら。
「志保、その……志保は、魅力的、だから」
「私の体で、どうにかなっちゃうんですか?」
彼の胸元に強引に顔を寄せた。もうこのぐらいしてもいいと思えるぐらい、志保は彼と自分を重ねていた。
「いや、志保……違う、そのっ」
「プロデューサーさん」
異性の肉体や欲望に興味があるけれど、それを表に出してはいけないと押さえつけている。そのくせ自分で否定している性欲を本当は他人に受け入れてもらいたい。信頼できる相手から異性として意識されて、共鳴するように自分も欲情し体を持て余してしまう。もう体を重ねているようなものではないか。
「してますよね、オナニー、私の写真で」
「志保……!?」
「まぁ、止めてもいいですけど」
プロデューサーの手を強く握り返してから、志保はぷいっと背中を向けて彼を部屋に置き去りにした。言いすぎた、と思った。いきなり、〝自分を安売りして人の関心を買おうとする〟という彼の言い草が、胸でズキズキ痛んだ。
※
『プロデューサーさん』
志保とプロデューサーのプライベートスレッドで、自撮り以外のメッセージを志保から送るのは久しぶりだった。
『私の担当を替えるよう願い出るつもりだったのでしたっけ』
自撮りに負けないぐらい動揺してほしくて、あえて言葉を強くした。
『担当アイドルでオナニーするようなあなたはプロデューサー失格だから、とかなんとか、そこまで説明するつもりだったんですか』
もしそんな告白をその場で聞いていたとしたら、と志保は思う。私は何をしでかしてたやら。一人にしないで、私にはあなただけなのに、とか聞かせたくないことまで言ってしまったかもしれない。
『……担当プロデューサーを興奮させて困らせて気持ち良くなってしまうアイドルには、失格どころかお似合いだと思いますよ』
けれど、まだ彼にそう聞かせていない。
「志保には不本意だろうが、俺とここでカンヅメだ」
「これも天の助け……なんて言ってしまったら、プロデューサーさんは私に幻滅しますか」
その日は首都圏に季節外れの大型台風が直撃して、あちこちで鉄道は運休、道路も通行止めとなっていた。平常時でさえキャパシティぎりぎりで流れている交通機関などひとたまりもなく、人の動きがすっかり麻痺していた。
765プロ事務所は天気予報を見てなるべくアイドルや職員たちを在宅勤務にしたり、未成年のアイドルは保護者に連絡して早く帰らせたりしていた。
今は、プロデューサー――『事務所に寝泊まりするのも初めてじゃないし、建物の丈夫さなら自宅より当てになりそうだったし』――と、志保――『お母さん、りっくんは迎えに行って家まで連れて帰れたけど、あとはもう電車も道路も詰まっちゃってたそうです』――だけが事務所に残っていた。
「……いやらしい視線で見てくる男と二人きりなんて、志保ならごめんだろ」
「担当替えの話を黙って進めようとするプロデューサーさんの言うことなんか、知りません。それより」
志保は言葉を放り投げたきりにして、プロデューサーの目の前で私服のボタンを外す。肌だけでなく、息遣いや火照った匂いまで届く至近距離に迫る。
彼に後退りされる。
どうしても湧き上がる笑いを押し殺しながら、もう一歩近づく。
「体のほうが素直、とプロデューサーさんもご存じでしょうし」
「……志保、ダメだ、それ以上は」
「知ってます。あなたが私の体で困ってくれるのがうれしかった。ごめんなさい」
すでにボーダーラインを超えたと思っている。
「志保、お願いだ、もう」
「それより前だったら良かったんですか?」
初めて送りつけた自撮りと同じように、前開きのボタンを一つ、二つと外す。しかし今はプロデューサーの目の前で、彼と二人きりの事務所だった。
自分の一挙手一投足が彼の意識をどうしようもなく捉えていると感じる。アイドルとしてのライブパフォーマンスでも似た感覚はあったが、それよりもっと危うい。
「服を……」
「……ねぇ、もっとご感想を、プロデューサーさん」
ファンはどれだけ魅了されてもアイドルに手を出せばつまみ出される。
目の前にいる男は、志保に手を出してしまえる。
スカートもはらりと落としてしまった。以前プロデューサーに見せたセクシーランジェリーと、それに包まれた自分の女体を晒してしまっている。
透け感のあるレースで彩られたブラカップやクロッチだった。紐で結ぶタイプだった。志保が買おうとした時、ランジェリーショップのほかのラインナップよりまだ手を出しやすいものだった。ビキニみたいなものだ、と言い聞かせて、買って、着て、見せた。
「紐、引っ張るだけで、脱げちゃいますね」
彼が女性経験なしだったとしても脱がせてしまえる格好だった。彼の表情で改めてそう自覚して、あんまり興奮も緊張も煽りすぎて痛いぐらいだった。
彼はいつかのように志保の目ばかり見ている。どこまで素肌から目をそらせているかは怪しかった。
そのまましばらく息が詰まって、ざぁざぁびゅうびゅうと二人を閉じ込める風雨だけがうるさく聞こえた。
「ああ、もう、それじゃあ、これでおしまいです」
志保が自分のスマートフォンを取り出し、プロデューサーへとカメラを向けた。この場に不釣り合いな軽く楽しげな電子音が一拍だけ鳴った。
「最近はスマホのカメラも高性能らしいですよ。プロデューサーの瞳に、何を見ていたのか映り込んじゃったかも……これで一蓮托生ですね」
※
「志保……俺は、もう我慢できない……!」
プロデューサーが踏み切るまでの数秒が、志保の目にスローモーションのように見えていた。けれど焦れったくはなかった。彼が確実にこちらに向かう、という確信が志保の胸を一杯にしていた。
彼の両腕が志保の背中へ回り、体ごと引き寄せられる。スーツの胸元に顔が埋まった。彼の鼓動がワイシャツ越しにも志保の頬を打った。
「……汗、かいちゃってますのに、そこは」
彼の息遣いが志保の額へ降りてきた。額へのキスが、想像よりもたどたどしくて、微笑ましくて、志保の喉の奥がくつくつ笑ってしまった。
「ねぇ、こっちを」
志保からも手を回し、首を傾げて、担当アイドルと一線を引き続けてきた男のくちびるを狙って奪う。くちびるがかさついてしょっぱくて、本当に今の今までキスするつもりがなかったんだと確信した。こちらの鼻から荒くなってしまった呼吸も彼の頬に伝わっているだろう。
「えぅ、ん、ちゅっ……ん、ぅ……もっと、触って」
彼の手が背中から肩へ、肩から脇腹へ降りた。ウエストで止まってしばらく動かなかった。
「志保……」
「写真だけじゃ、満足できなかったんですよね……私も……!」
志保が彼の手首を掴み、彼の手のひらをブラカップへ押し上げた。ふにゅ、と柔らかく沈む感触が伝わった瞬間、彼の呼吸が乱れた。
「あっ……」
「くすぐったそうな声、です、ねっ」
彼の息遣いが揺らぐだけで、志保の背筋に快感がむずむず這い上る。くすぐったいのは彼女自身でもある。
「プロデューサーさん、あなた、今、担当アイドルの胸を揉んでいますよ……」
あえて毒づいた言い回しを聞かせないと、すぐ甘く蕩けてしまう。それぐらい体の芯から熱が広がっている。あっという間にくすぐったいどころでなくなる。とうとう節度をかなぐり捨てた彼の興奮が、視線だけでなく体温からも体臭からも伝わってくる。彼の節度を知っている自分だからこそここまで感じ取れるんだ、と気分が飛躍する。
胸を包む彼の指がぎこちなく姿勢を変えて、レースと肌の間でしゅるしゅる衣擦れが漏れる。
「……ん、ふっ」
乳首が直に触られるまでもなく尖りはじめていた。
彼の指が乳首の位置を見つけた瞬間、動きが止まった。彼が迷っているらしき間に志保が息を呑む。レース地ごとつまむ指先に、不慣れさがありありと見える。
「これが初めてですか、おっぱい」
初めてだ、と彼の手が語っていた。愉快すぎて息苦しい。そのくせ飽き足らない。彼の初めてのすべてが欲しくてたまらなくなる。
「……プロデューサーさん」
「志保、俺は」
「もっと触って」
プロデューサーがあれほどきちんと勤めていた職もそのほかの社会的立場も振り捨てて、志保の体を求めてしまっている。ビジネスパートナーとして志保を大人のように頼りにしてくれたが、まだ中学生であるようにどこか一線を引いていた。そんなもどかしい態度を踏み越えている。
「ほら、紐、引っ張ってみてください。どちらからでも……」
年下の人に促すような声音を作りながら、くちびるの端が緩んでしまう。彼の指がブラの結び目をつまみそこねて、笑いを堪えつつひゅっと妙な声を漏らしてしまう。担当アイドルをマネジメントする彼の手際はどこへ行ったのか、とも思う。両方が本当の彼なら、今までの自分も他のアイドルも、彼の半分しか知らなかったのか。
「外してくれちゃいましたねぇ」
「……綺麗だ、志保」
「お、お褒めにあずかり光栄です」
あまりにじっと見られて照れくさくなって、また彼の手首を掴んで揉ませてやる。直に、自分で彼に触れさせた。レース越しとは全然違う、指の腹の体温と感触が、乳首の尖りへどうしようもなく届いた。声が出た。声が出てしまった羞恥と、声を彼に聞かせられた解放感が、志保の中で混ざって渦巻く。
「遅かったんですよ、本当に、私が何回……」
体がしゅわしゅわ泡立っているかのように浮つく。プロデューサーがこれまで志保の一枚の自撮りに翻弄されて呼吸を乱し、顔を赤くし、返信すら詰まらせてきた気持ちがわかってしまう。乳首をおずおずと指先で擦られるだけで、志保の背筋がびくりと跳ねた。わかっていても抑えきれない。
「あっ、……ん、ぅ」
「志保、あの、くすぐったかったかな……?」
「……あなたが触るから、それだけです」
声音を不満げにした。言葉が甘くなってしまって、志保は頭を抱えたくなるのを堪えた。
「ん、ぅ、あっ……ふふっ、もっと触れますか……?」
彼の指が少し踏み込んでくる。慣れるには早すぎる。ただ怖れが薄れただけだろうと思った。彼の指先が、今度は志保の乳首を転がしてくる。胸で熱が弾けて、頭にも下腹部にもじわじわ侵食してくる。
「志保……」
「もう少し、強くてもっ」
志保は――(鼻息を荒くしてるくせに、すがるような声音で名前を呼ぶなんて)――そう焦れた心に引っ張られてか、体が興奮を白状しようとしていた。恥ずかしくもうれしくもあって区別がつかない。彼の手と指先でいくらか擦られただけでこれだけ乱れてしまう。
「……いいですからっ」
彼の指が強くなった。ぐにゅ、と沈んで戻る感触が、今度は声より先に腰へ抜けた。志保が彼の肩を掴んだ。そうしないと、膝も腰も落ちてしまう。
「……あっ、ぅ、ん……っ」
彼の手があまりに心地よくて志保はまだ驚いている。発端だった3人に見せてやったらどうなるかちらりと想像してしまって頭がおかしくなる。頼りになる大人だった彼が、年少のくせに口うるさい担当アイドル・北沢志保の乳を恐る恐る、しかも一生懸命に触っている。
自分は自撮りに四苦八苦したこともあったけどセックスアピールで金を稼ぐプロのアイドルなんだ、一番近くて一番ほしい異性の心ぐらい奪えていいはず、と言い聞かせても浮ついてしまう。
「……あなたのせいで、こうなっているんですよ」
「志保……!」
「そろそろ、ご感想をうかがっても?」
「夢みたいだ……仕事中も、写真を見せられたときも、触ったらどうだろうって、ずっと」
「よくも今まで仕事になりましたね……お互い様ですが」
胸を揉まれ乳首をくすぐられる。志保が完全に受け身なのに彼を手玉にとっている。彼の震える指先が、志保の乳房に爪痕でもつけようかという勢いで掴んでくる。もし自撮りを送る前にいきなりこんなことをされたらひどく傷ついていたはずなのに、今は恍惚さえ湧き上がる。自分までどうかしてしまったのだ、と改めて悟る。
しばらくさせるがままにしていて、彼のさらなる欲望に気づく。
「……そんなに見ていても、何も起きませんよ」
彼が固まって、じっと視線を注がれたまま数秒が過ぎた。
「吸いたいんですか」
「……はい」
「何を神妙に」
志保が先に折れた。
「……いいですよ、プロデューサーさんったら、しょうがないんですから」
「ありがとう」
「今笑わせないでくださいよ」
彼の頭を両手で胸元へ引き寄せる。乳首に熱い吐息がかかった瞬間、志保の背中がひとりでに反った。
「あっ……ん、ぅ……」
彼のくちびるがそっと触れてきた。確かめるように上下から挟まれた。いつ甘い声が出てしまってもおかしくない。
「……ぅ、あっ、は、ぁ……もっと、ちゃんと……くちびるで、くわえて……」
まずい、と判断したそばから、舌先が乳頭とこすれた。ちゅ、と小さく吸われた。声が先に出て、羞恥が後から追いかけてきた。
「あっ……! ふ、ひゃんっ……赤ちゃんみたい、です、ね……?」
未経験者を誘導してあげるつもりだった。くちゅ、と湿った音が二人の間で鳴った。耳を通り越して脳の芯がしびれた。
また乳首を吸われる。このまま彼に吸われていたら、自分は何でも受け入れてしまう気がした。
「んっ、ふぁぁっ……そ、そこっ、だめ……じゃない、ですけどっ……んっ、んくっ……!」
半分だけの抗議をしながら、彼の後頭部へ回した手に力が入ってしまう。離さないでくれ、と言っているも同然だった。
「っん、ふ、あっ、あぅ、んんっ……!」
素直な彼の舌が、乳輪から乳首の先端まで舐め上げてきた。ぷるん、と弾ける感触の後に、またくわえ込まれる。ちゅうちゅうと音を立てて吸われる。
「あっ、ぅ……ん、ぁ……声、出てしまいます、ねっ」
声が出ても全然おかしくない、と言い張るためだけにわざと実況してみせる。おかげで自分の羞恥と興奮も煽ってしまう。彼の両手が背中を支えてくれていた。そうでなければとっくに崩れていた。
彼のおかげでこんなにあっさり気持ち良くなれてしまう自分が、あらためて気恥ずかしくうれしい。
「あっ……はぁっ……もっと、つよく、していいです、いいですってっ」
プロデューサーの口が、ひたむきに自分の乳首を吸っている。不器用な舌が同じ場所を何度も往復して、どんどん敏感になっていく。
「……もう一方も、ありますから……んんっ……」
指先がもう一方の乳首をくすぐってくる。胸の谷間に彼の鼻先が押しつけられてしまって、彼の息遣いが肌に染みた。
「ん、ぁ……っ」
志保の太ももがびくりと震える。もっと彼の腕に体重を預けてしまう。立っていられるのが志保自身でも不思議だった。
「白状しますよ……あなたにこうされちゃうって、想像したこと、あります……んぁんっ……プロデューサーさん、もっと……!」
彼が乳房の肌に残した唾液の匂いが不意に鼻先まで届いて脳天までじんとしびれる。彼の口が自分の乳首を吸うたびに、甘いしびれが乳房の根元から脇腹と腹の底へ落ちて溜まっていく。
「……ん、ぅ、っ、ふ……♥」
声を絞っても彼に聞こえてしまっているようで、彼が吸い方を少し強くしてくる。腕がもっと強く抱きしめてくれる。強くなるたびに腹の底の熱が脈打ち、内腿が閉じて小刻みに震える。
「ぁ、は……童貞さんなんでしたっけ……? それにしては、おっぱいしゃぶりながら、しっかり支えて、抑えて……練習してきたとか、私のせいで……ふ、ひゃんっ♥」
笑いながら、快感が頂点へひたひた向かうのを感じていた。声を抑える。じっとして、ただ乳首を吸われながら、来る、と思った。
「……ぁ、……ん……ッ!」
期待通りのタイミングで、想像より優しい絶頂が来た。腹の奥から締まるように収縮するのも、息が乱れるのも、妙に馴染んだ感覚だった。
「……どうかしましたか。プロデューサーさんが一生懸命なので、ちょっと、気持ち良かっただけです」
「つい、夢中になっちゃって……」
「わかりますよ、見てるんで」
思い出した。プロデューサーに自撮りを送りつけたあと、自分で彼の愛撫を想像しながら達したあとの感覚に似ていた。
「んっ、んっうぁ……はぅ、んぅっ……だいじょうぶ、です、遠慮しないで……」
意識に上る違いは、自分が立っていることと、彼に背中や腰を支えられていることだった。自慰よりふらふらしている。自慰より支えてもらっている。彼がどうしようもなく近くにいる。
「あっ、ゃ、あ、んんっ……ひぁ……! ちくび、ちくび、ぃい、ですっ!」
くどいかな、と思う声音で煽ってみると、彼が頬をすぼめて強く吸ってきたり、指を曲げてつねったりしてくる。背筋が勝手に燃えて、乳房が溶けるのではないかという快楽に襲われる。
「私、イッちゃうかも……プロデューサーさんに、おっぱい、だけで……ん、ダメ、んっ、はぅ、んっ……んぅうっ……!」
絶頂が来たとき、志保は黙った。
快感が最初より深く、引いていくまでの時間が長かった。引いている最中も彼の舌が止まらなかった。乳首の先端を舌先で押しつぶして、また吸う。その繰り返しが、引ききらない波をもう一度押し上げた。
「ん……ぅ、あ……」
プロデューサーが夢中でしゃぶっていじっている、と志保は思った。そうなると彼女も余計なことを考えず愛撫の感覚に没頭してしまう。
彼の指が乳輪の縁をなぞった。もっと欲しがっていると彼が思ったのか、もう一方の乳首をくちびるでくわえ直してきた。
「……っ、ぁ……ん」
同時に刺激に来られて、腰が沈んだ。素早く彼の腕が支えてきて、少し悔しくなる。期待通りの反応だったらしい。
彼のくちびるが乳首から離れた。乳首が冷気に触れた瞬間、ぞくりと甘い悪寒が走った。離れたくちびるが鎖骨へ移り、鎖骨の窪みへ添えられた。舌先で押される感触に、志保の肩が内側へ巻いた。
「……そこは、別にっ」
最初の自撮りを思い出す。最初でもここは見せていい、と思っていた。きりきり痛みのような感覚がやってきた。
「跡、残しちゃうつもりですか……?」
また快感がおもむろにやって来た。浅くて速くて、波というより揺れだった。じんわり汗が背中ににじんだ。
「んく……くすぐったい、ですって……ふ、ふっ」
想像の中の彼より、実際の彼のほうが熱かった。重かった。匂いがあった。そのどれもが想像を超えていた。超えていたのに、もっと欲しい。
もっとしたい、という彼の気配が伝わってきている。そのせいにすることにした。
「……プロデューサーさん、こっちも……」
顔を上げて、部屋の中でどこか寝転がれる場所を探したが、一瞥だけで煩わしくなって、プロデューサーのデスクの袖机に腰掛けて両腿を開いてみせた。
「んあっ、あっ……ああ、あっ、ぷろでゅ……う、ううっ、うあ……っ!」
志保はクンニが始まってすぐ嬌声を制御できなくなっていた。
まず、プロデューサーが仕事に使っているスペースの一部だが、志保はそこを尻に敷くつもりで腰掛けて彼を誘惑した。紐の下着だったせいで、志保が腰を上げるまでもなくあっさり秘所からぴらりとクロッチを剥がされた。
乳愛撫で染み出していた愛液が、何度も太腿や下着をこすり合わせたせいで白く細かい泡になっていて、志保は快楽以上に恥ずかしくなった。
その反応に彼がかえって勢いづいて、太腿の間に顔を埋めてきた――『ひ、ぁ……っ。だめ、そんな……汚いところ、舐め、な……っ』――もはやマネだけの拒絶もできなくなった。
「そんなの、ぜったい、おいしくない、ですって……んっ、んっうぁ……」
クリトリスや膣口にキスされたり吸いつかれたりする。気持ち良かったが、染み出してしまった愛液を舐めとられ啜られると、おいしくないだろうに変態みたい、と志保は自分を棚に上げて笑ってしまう。笑うと膣肉が反応して彼を勢いづける。
「はぅ、んぅっ……!」
床を捉えている足指が丸まり、爪先立ちのままプルプルと小刻みに震える。舌を膣口に差し入れられると、プロデューサーの肩や首や頭を掴んでしまう。掴めたところが力強い支えになった。
志保自身でさえ揺るがす欲情を、女性経験が皆無のはずのプロデューサーが受け止め求めてくれている。そう信じてしまう。
「ふぁあ、はぁ、ッ、くぅ、あぁ……あそこ、そんなに、されたら……あふ、あっ、んッ……♥」
デスクの天板が冷たかったはずなのに、志保の体温や汗が移って尻の下だけ温く湿っていた。
彼の頭が自分の太腿の間に埋められている。その事実を志保は数秒ごとに確認した。確認するたびに頭も腹の奥も茹だってしまう。
「……あの、プロデューサーさん、そんなに近くで見なくても」
いつの間にか彼が止まって、しげしげと見られている。鼻息らしき気配がくすぐったい。
「志保の、綺麗だ」
「……どうも」
今言うことですか、と茶化そうとしてできなかった。
またプロデューサーの舌先が触れた。クリトリスの上を一度なぞって、止まる。
「……んっ」
反応してしまった。
彼の舌が同じ場所を二度目になぞった。二度目は一度目より確信を持っていた。三度目でくちびるも加わって、むにゅむにゅ挟まれる。前歯のギザギザを少しだけ立てられる。
「ふ、ぁ……んっ……んんっ♥ へ、変な、声がっ」
「もっと聞きたい……!」
愛液が彼の舌に絡む。絡んだ音が、志保の耳奥までぴちゃぴちゃ響く。膣肉が悶えるほど熱く、愛撫をねだるようにひくついてしまう。
プロデューサーが応じてずるずる大きな音を立てる。舐めとりながら、もっと寄越せと言うように舌圧を強めている。ふだんの志保なら眉をひそめるが、当然クンニされている最中はそれどころではなく、鼻にかかった声を聞かせてしまう。
「あ、あぅ、えぅ、んんっ……! プロデューサーさん、アイドルに、手を出しちゃいけないんでしょう……どうですか、舐めちゃいけない女の子のあそこ、舐めちゃってて」
彼の舌が膣口の縁をなぞって、おずおずと押し入ってきた。そこが焦れったい一方、クリトリスに鼻か頬骨のどこかがずしずしあたって志保の神経を昂らせる。浅いところを何度も往復されながら外を刺激される。往復のたびに愛液が押し出されて、彼の舌がそれを受け止めた。
「んっ、ぅ、あ……啜らないで、ください……っ」
啜られる。
「んぁ……あっ、あ……っ!」
腰が浮いた。志保の両手が再び彼の頭を掴んだ。そのまま手で顔を股間に押しつけた。志保はもう自分の手を止めなかった。
「全部、あなたのせいですっ、プロデューサーさん……!」
声を抑えれば抑えるほど、体が別の場所から快感を吐露してしまう。
膝裏、ふくらはぎ、かかとをプロデューサーの背中へ押しつけて引き寄せる。クンニ以上に強い刺激を食らって悶えてしまう。尻が天板の上でじりじり動く。
「志保、危ない」
彼の両手で、腰骨のあたりを掴まれた。天板の端へ滑りかけた尻を手のひらで押さえていた。
「……机から落ちちゃったら、ここまででおしまいにできますかね、私たち……」
声がかすれていた。
掴まれた腰の感触が、指先の食い込み以上に志保の体の深くへ届いた。手のひらが腰骨の形を確かめるように、少し力を変えた。変えた瞬間に、お尻がひくついた――(伝わりましたね、今っ……)――手でホールドされながら改めてクンニされる。
「ん……っ!?」
彼の舌の動きが変わった。さっきまでの手探りが消えた。消えた代わりに、志保の腰がわずかに浮いた角度へ舌先を合わせてきた。
「あ、ぁ、んっ」
気づけば、太腿が彼の頭を両側から挟んでいた。挟まれた彼が、むしろ深く入ってきた。
「……っ、ぁ、だめ、そこは」
手のひらと舌で全部読まれている気分になる。腰が逃げようとすれば押さえ、浮こうとすれば引き戻される。志保のお尻や腰の反応を手で受け取り、舌の当て方を直してくる。これが今日初めて女性器を目の当たりにしてクンニリングスしている男なのだろうか。
贔屓目でいささか余計に感じてしまっているのは志保自身わかっていた。
「……ぁ、あっ、んっ……来、ます……」
来る、と聞いた彼がくちびるでくわえ直した。舌先でクリトリスの頂点を絡め取って微かに吸った。
「んぁ……あっ、あ、あ……ッ」
波が来た。想像さえしなかったほど深くて、一番長かった。背筋も頭も波に合わせて揺れた。内腿が震えて、足の指が丸まった。彼の手のひらに体重のほとんどを任せてしまっていた。
「あっ……はぁっ……ぁ、ははっ、こっちは、どんな練習、してきてくれたんですか……?」
彼のくちびるや頬がべとべとしているようすから目を逸らさないよう堪えながら、志保は引きつった笑顔を浮かべた。
「志保……それは、さすがに……うぉっ」
「ここまであなたが好きにしてくれたんですから、そろそろ私が好きにさせてもらう番でもいいですよね」
志保は事務所の床にプロデューサーを押し倒してしまった。ベッドやソファですらないのはどうかと思いつつ、してはいけない行為に彼を付き合わせている感覚が心地よくて、自重できなかった。
彼のスラックスを突き上げる勃起が太ももに触れていて、さらに手で撫でさする。目玉が飛び出そうな彼の形相に一瞬だけ吹き出しかけるも、それが行為を止められる段階などもう過ぎた。
「準備はよろしいようですね」
「……待て、ナマは」
「初めてなのにゴム着けたほうがいいんですか?」
「いや、その……どうして俺が……あっ」
「あなたが初めてと言った覚えはありませんが、とにかく」
初めてがこんな強引に、とちょっと申し訳なく思ったが、その罪悪感は止めるより程よく独占欲をくすぐるものだった。
「私が好きにさせてもらう番ですっ」
避妊具も着けさせず、剥き出しの粘膜同士をこすり合わせ、一度挿入にしくじっても目線で黙らせ、二度目でみっちりくわえ込む。
「あ、ぅううっ……!?」
「中で出してくれなきゃ、絶対に許しません」
志保は保健体育の授業も真面目に受けていたし、アイドル活動として必要な性についての注意点もきちんと聞いていた。妊娠のリスクも承知していたつもりだった。他の誰にも手出しできない関係を刻んでしまえるなら孕んでもよかった。
「は、ぁ……あ゙うっ……お゙ッ……♥」
「志保……ッ」
「は……くっ、はぁっ……ご気分、どうですか、プロデューサーさん……っ」
それどころではなかった。つもり、がただの賢しらぶった思惑だったと思うぐらい、圧倒的で息苦しいほどの快楽に襲われる。
「志保……ふぉっ!? き、きつ……!」
「ご卒業……おめでとうございますっ。こればっかりは、写真じゃあどうにも……ねぇ」
志保の息も乱れる。肩でも喘ぎながら腕をゆらゆらもたげて、プロデューサーの頬を手のひらで覆う。さっきの意趣返しのようで笑いたくなるが笑うとお腹に力が入って彼のペニスをぎゅうぎゅう締めつけ、志保自身も悶絶してしまう。
「志保……」
「もっと、名前、呼んでっ……」
彼のペニスだけでなく全身が張り詰めていて、いつ射精してしまうんだろうと思う。思うたびに視界が白むほど興奮する。下から上に、上から下に、彼も志保も抜き差しがぎこちなくどこにこすれるかわからない。
どこにこすれても気持ち良すぎる。
「ん……ぁ、っはぅ、ほぁっ、はぁっ……あああっ!」
奥が、まだ疼いている。もっと奥まで犯してほしい。
彼が少し角度を変えた。もっと深く快感が叩き込まれる。あんまり強すぎて怖くなって目を逸らす。窓があって、外が暗くて、風雨の音がまだうるさかった。
プロデューサーの胸板に手をつきつつ息を整える。彼の熱い体温と跳ねる心拍が伝わってきていつまでも整わない気がしたが、離せなかった。
「こんなのっ、私たちだけ……ですっ、ねぇ、プロデューサーさんっ!」
「志保っ、だめだ、もう出る……!」
「まだ、まだですっ、もっとっ」
言葉と裏腹に、別に今出してくれたってプロデューサーのことを恨んだり苛立ったりする気はしなかった。ただ我慢している彼を見ていたい気持ちがちょっと上回っているだけだった。その割に切羽詰まった声音で止めた。
「はうぅっくぅっ!? あ、あっ……は、ァ……く、うぁああ、はぁー、はぁあ……っ」
「ふう、う、ふふ……苦しそうですね……気持ち良くなってほしいのですが……」
「志保のが、気持ち良すぎて……」
「知ってますよ、ふふふ、あは、はっ」
わかりきっている茶番がうれしい。ふと、遠い昔に両親をおままごとに付き合ってもらっていた気分を思い出す。幼心が背伸びして、冷静に振り返ってしまうと独り善がりだけど、自分と他人が通じ合っている素朴な恍惚があった。膣奥までペニスで犯される心地が、それとかけ離れているはずなのに少しだけ似ている。
迎え撃って搾り取るように締め付ける。跳ね返ってきた快感で、なけなしの意地も理性も砕けてバラバラに飛び散る。
「き、きもひ、ぃ……いいです、プロデューサーさんっ、私……私のナカが、あなたを……こんなに、欲しがってる……」
「志保……!」
「うれしそうにしちゃって、もう……んっ、ぅ……♥」
腰を深く沈めて、止めて、腹の奥までわざと思いっきり締めつける。
「……出して、いいですよ」
「志保、おっ」
耳元で聞かせる。
彼の両手が志保の腰骨を掴んでくる。志保を気遣っていたクンニリングスのときと違って、手繰り寄せ捕まえてくる。ひたすら志保を自分にものにしておきたい欲望ばかり伝わる。指の形が腰に刻まれればいいのにと思う。思いながら、奥でひくつく感触を待った。
来た。
「お、おく……ぅ、ぅう……あ……ぁ、んっ……♥」
ペニスが固いまま、また震えた。プロデューサーの首や胸の緊張がふっつり緩んで察した。内壁ではともかく、彼の吐息からも膣内射精を確信した。
「ふふ、出しちゃいましたね、プロデューサーさん……ふふ、どうしましょうか……」
この瞬間を写真なり動画なりに撮って永遠に残しておきたいけど、今この気分でセックス以外のことを少しでもするのは惜しい。むちゃくちゃな二律背反の上で息を整えようとして、なかなか整わなくて、しばらく二人とも動かなかった。
「……プロデューサーでいられるのかな、俺は」
「ああ、そうですね、私もアイドルを続けるには……今は薬局で買えるんでしたっけ」
膣内射精されたが、例えば今日のうちにモーニングアフターピルを飲めば妊娠を免れる。副作用でいくらか体調が悪くなる程度で済んでしまう。それに安心して、拍子抜けして、少しだけ悔しくて、プロデューサーといっしょに薬局へ行く夢を見る――『この担当プロデューサーさんは、私に言われるがまま、してはいけない膣内射精をしてしまいました』――薬の濫用防止のため、購入したその場で飲ませる場合もあるとか。自分はどんな顔をしながら飲むところを見せつけてしまうだろう。
「ぁ、あぉ、はぁ、おおおっ……!?」
「んんっ……出したばっかりって敏感なんですね……じゃあ、プロデューサーさんので、撮ってください」
引き抜いたあと、愛液でびしゃびしゃに汚れ、膣内射精で白濁液が垂れてもいる秘所をプロデューサーのスマートフォンに撮らせて、チャットで志保に送信させた。志保たちが送りつけた自撮りは彼が消去できるが、彼から志保に送りつけた記録はもう消せない。
「……やっちゃったなぁ」
「私がたぶらかしたみたいな言い方ですね」
「ごめん」
「いいえ、謝ってもらうことじゃありません」
共犯ですからね、と目で念押ししつつ、彼の足腰に乗りかかる。秘所と同じように愛液と精液で汚れたペニスに手を伸ばして、胸の谷間に押し当てる。
「う、ぉっ!?」
「まだ雨があがってませんし、電車も道路もダメですよ、きっと」
射精して一息ついて萎えかけた感触のペニスを、胸で包み込んでやる。両腕で自分の乳房を寄せて圧力をかけるとむにゅむにゅされるがままで、尿道口に残っていた白濁がとぷんとこぼれた。これがさっきまで自分の膣肉をかきわけ、えぐって、奥まで叩いて頭を真っ白にさせていたのか。ギャップが大きすぎて笑えてしまう。
「志保、それ、は」
「パイズリって言うんですよね」
短く返して、ゆっくり動かす。ペニスだけでなくプロデューサーの表情も心地よい。志保の口からパイズリという単語が出る、と真面目に想像する人間などいなかっただろう。
「ぎゅーぎゅー、ぎゅーって……強いほうがお好みですか?」
おどけた口調で呼びかけてすぐ、ペニスがぴくんと返事してくれる。挟みながら上下に動かす。愛液と精液でぬるぬる滑って、強く圧をかけてこすっても彼が気持ち良さそうで志保もつられて浮かれる。加減によって、ずるん、じゅるん、ぬるんぬるんと音や感触が変わるのも楽しい。乳首が彼の腹筋や陰毛でこすれるのが焦れったい。変えるたびに彼の息が乱れる。加減なんて無限に変えられそうだと思う。
「また、大きくなってきましたね」
いきなりパイズリを止めてみた。それから値踏みするように勿体つけて乳房を左右から包み込む。
彼が喉の奥で息を呑む。最初に挟んだときより明らかにペニスが固く熱く大きい。
「んっ……く……」
「このまま、精液を出してしまいますか? 私が自撮りを送ったとき……私の体にかけてしまおう、なんて考えましたか?」
志保もアイドルであり、そういう需要を理解しないまでも把握はしている。汚したいという欲望がこの男にもあるだろうか。ならば自分以外にそれが向かないようここで解消させてしまおう。
「う、ぐ……く……ぅッ……ぁ、ぅ……ッ」
「いいですね、プロデューサーさんが気持ち良くなっているところは、パイズリのほうが見やすいかも」
パイズリを続けながら、秘所がまたぬらつくのを感じる。膣壁がもぞもぞ疼きだす。一度セックスして収まるどころかちょっとした弾みで再燃してしまう、と気づく。
音がまたぬちゃぬちゃしてきた。勃起が再び先走りを漏らしながら復活して、パイズリの強い圧と摩擦にも応じるようになってきた。
「……また変な音がしていますよ、プロデューサーさん」
「志保がやってくれてるんじゃないか……!」
彼の声と仕草からまた余裕を奪ってしまえた。
「ええ、まぁ」
亀頭の先に顎の下を擦り付ける。ここで彼が射精したら、ちょうど最初の自撮りで見せつけたデコルテを汚してもらえるだろう。
「ぅ……志保、それ」
「見ていてください」
乳房を強く寄せて、そのままゆっくり引いた。透明な糸が何本もネバネバ引いて落ちた。
「また出ちゃいそうですね」
「……まだ」
「強がり、ですか」
それだけ言ってパイズリを再開する。彼の腹筋やペニスや太ももが、過度の快楽のせいらしき緊張を帯びてびくびく震える。それを自分の皮膚や粘膜ごしに感じ取るたびに、志保の心中で得意げな熱が膨らむ。
「担当アイドルの胸の谷間で、そんなに必死になっていますが」
「ぅ……くっ……ぁ」
「そんなに好きですか、私のおっぱいが」
口でなじりながらまた動きを止める。彼が胸板を浮き沈みさせながら息を整えようとするのを聞いていると、安堵と興奮が混じった妙な心地がした。
パイズリを少し速くする。
「ちゃんと気持ち良くなっていますね」
頬が緩みすぎてしまうと思って、視線をペニスへ落とした。
「はぷっ、んはぁ、あんっ……ちゅるぢゅ、んふ、ちゅ……!」
「志保……! これ、以上、はっ」
舌とくちびるで覆う前からひどい匂いだと気づいていた。咥えこんでみたら鼻や目にしみるほどえぐい。人の生殖器とはこういうものか、さっきの彼がよくクンニなんてできたものか、と感心する。染み出してきた唾液でそれをぴちゃぴちゃ薄める。
「れぅ、はむ……んくっ、ちゅ、ちゅっ……んぷ、はぁ……っ」
「あ、うぁ、く、う……も、もう、志保……」
「これで終わり……には、できませんよね」
志保が急にプロデューサーの上から下りて、床に四つん這いになってお尻を向ける。自撮りでは見せてやれなかったポーズで、汗と愛液を垂らしながら誘う。
「今度はプロデューサーさんから、入れてください」
腰を掴まれ、ペニスの切先を入り口にあてがわれたとき、志保は腕を曲げて両肘と額を床につけた。お尻だけ高々と上げる体勢になってしまったが致し方ない。こうでもして支点を増やさなければ、膣肉が疼きすぎて震えて彼が手間取ってしまうだろう。
「志保……行くぞ……!」
「んあ、ァア、あ゙……っ♥」
奥まで届く。届いた深さが騎乗位と似たりよったりでも、届かせてくる力が彼だけのものだと思うと、はるかに強く濃い快楽に感じられてしまう。
「おォおお゙……ッ!! ふかいっ、ふかっ、ぐ、くっ……!」
汚いと思いつつ、突っ伏して声を床に吸わせる。嬌声と言うにはあんまりな雌吼えを必死で押し殺す。
「志保……すまない……」
「ハッ、ハッ、ぅはっ……イケないってわかってても、しちゃうんですよね……プロデューサーさんは……ふ、ふふっ」
彼が言葉を一往復させたあと、手で志保のウエストを掴み直し、引き寄せる。
「っ……!」
引かれた。当然、奥に強く叩きつけられる。
「んぐぅうっ、うううっ……はぁっ、はぁっ…き、つっ……♥」
声を絞っても腰が応えていた。彼が押しつけてくれるならやり返す。自分の一番弱くて欲しいところを教えてやる。されるがままにしたいれば彼ががつがつ膣奥まで責めてくれるとわかりきっている。なのに腰が動く。ねだってしまう。声も抑えられなくなる。
いつのにか彼の両手が伸びて乳房をがつんと掴まれ、しこりたった乳首をつねられる。頭の芯がしびれっぱなしで、後のこともどうでもよくなる。
「らんぼう、ですよ、プロデューサーさん……ぁあ、ああっ……止めたら、ダメ……ッ!」
これだけの欲望が、彼にも自分にもあったのか、と思った。自撮り一枚で鬱憤をためていたころがウソのようだった。
「んぐ……うっ、あお゙……ぉお゙ッ、きっ、来、ます……!」
波が来た。騎乗位のときより、深い場所から来た。来たまま引かずに、押し上げ続けた。体がバラバラになったかのような絶頂感に溺れる。
「志保……!」
志保を呼ぶ彼の声がかすれていた。こんな暴力的な快楽を味わわせているくせに、弱々しい。
(私のせいですよ、全部)
優越感も快楽も、ほんの少しの後悔も混ざり合って波に飲まれる。失禁じみた勢いで愛液を垂れ流してしまう。
「ぁあ……あっ、ま、まらっ、っく……なか、だして……っいっ、イク、ううゔ……っ♥」
「志保、俺も……ああぁ、出る、また……ッ!」
二人が我に返って、めちゃくちゃになった事務所の床と自分たちの格好をどうまともにしようか途方にくれるのは、もう少しだけ先の話。
(おしまい)