魔王討伐の「報酬」として行き遅れたお姫様を娶って幸せにする話 作:D・炒飯
オリジナル:ファンタジー/恋愛
タグ:R-18 女主人公 ファンタジー 和姦 イチャラブ 中出し 処女 三人称視点
最早自分はこのまま老いていくだけなのだろうという諦観を持って迎えた28歳の誕生日、彼女の前に運命の人が現れる。
10年自分を想い続けてきた青年に抱かれて初めて感じる女の悦びと幸福。
「勇者はお姫様と結婚して、末永く幸せに暮らしました」
イチャラブハッピーエンド小説です。
※小説投稿サイト「ノクターンノベルズ」様にも掲載しています※
https://novel18.syosetu.com/n3890im/
とにかく王道な、勇者とお姫様のイチャラブが書きたいという情熱を形にした作品です。
楽しんでいただければ幸いです。
金の髪と瞳を備えた美女が、しかし憂いを帯びた表情で、豪奢な部屋の、豪奢な椅子に座っていた。
美女の名はマリアンヌ・サークという。かつてはその美しさを以て国一番の宝だと言われた、このサーク国の第一王女である。
彼女は今、28度目の誕生日を、しかし誰に祝われるわけでもなく一人部屋で過ごしていた。
マリアンヌは、未婚である。この世界では15歳が成人の基準で、20歳までに結婚する者も相当数いる。ましてや王族。ともすれば生まれる前から婚約者がいてもおかしくない立場の者が、28歳になるまで独身というのは異常事態と言えた。
「はぁ……」
窓から外を見て溜め息を吐くマリアンヌ。ガラスの向こうの抜けるような青い空が、彼女の溜め息を素知らぬ顔で受け流す。
別段、マリアンヌの性格や素行に問題があるわけではない。この世界では男が死滅しているというわけでも、当然ない。
ならば何故彼女が未だ独り身なのか。話は10年前に遡る。
◆
10年前、マリアンヌがまだ18歳の頃。悪しき魔王が現れ、世界は魔物の脅威に晒されるようになった。
18歳まで結婚相手が定まらなかったのは、その時までは確かに、第一王女として大事にされていたからだろう。だが魔王の出現は、彼女の父親である国王を焦らせた。
10年前の時点では、魔王の脅威は民衆にそう知られてはいなかった。故に楽観視する者は多く、その風潮は王宮にも蔓延しようとしていた。この国は魔王の拠点である城から最も近く、戦いが始まれば最前線になるだろうことが火を見るよりも明らかだったのにも関わらず。
国王は聡明だった。あるいは過ぎたのかもしれない。遅々として進まぬ各国との連携や国内の気の緩みに業を煮やした彼は、民を焚きつけるため、1つの触れを出した。曰く。
『魔王を討伐した者には領地と、そしてこの国の第一の宝である王女マリアンヌを与える』
と。
こうしてマリアンヌはあっさりと『大事にされている第一王女』から『魔王討伐の報酬』へと様変わりしてしまったのだった。
最初の頃はマリアンヌも、素敵な勇者様が自分を迎えに来てくれるかもしれない、と期待したこともあった。しかし1年、2年経ち、魔王討伐が果たされず、そして戦いが長引きそうだと理解した時には、そんな期待も持てなくなった。
国内の緊張感が高まり、当初の予定だった国民の士気を上げるという目的が達された後に、触れを撤回出来ればよかったのかもしれないが、1度出してしまったものを撤回するのには手間がかかるし、それよりも優先すべき事項はたくさんあった。そうしてなあなあになっていく中でマリアンヌは年齢だけを重ねていき、今更嫁の貰い手もなくなった、という事情である。
◆
1人いる兄はもちろん、弟妹達さえもが結婚し、それぞれ旅立つのを見送ってきたマリアンヌの中には、最早諦観だけがあった。仮に魔王討伐が果たされたとて、28の年増を嫁に貰いたい者はいないだろう。いや、そもそも討伐者が女性を結婚の対象として見ていない可能性もある。
自分が最早王族の女としての機能を果たせないと理解してから、マリアンヌは慈善事業に私財を投じた。戦災孤児や夫を失った女達の支援に力を入れ、治安向上のために、時には自らスラム街に向かうこともあった。
だがそれらの行動は、国民からの支持を得られることはなかった。行き遅れた女が、何を無駄なことをしているのだと、時には直接言われることもあった。
年を重ねるにつれ、未来への希望は失われていき、暗い未来が脳裏に浮かぶ。
「……」
そうやって悪い想像ばかりが働くとき、マリアンヌには決まってやることがあった。鍵のかかった引き出しを開け、中から1つのものを取り出す。鞘に入った短剣だった。
それは、いつか誰かに貰ったものである。そんな曖昧な表現になるのは、マリアンヌ自身その記憶が曖昧だからだ。正式な……たとえばそれこそ誕生日の贈り物として渡されたものではない。そもそも、こんな無骨な贈り物をする者は、貴族たちはおろか騎士団の者達の中にもいないだろう。
けれど、だからこそマリアンヌにとって、それは特別な品物だった。
短剣を胸に抱いてベッドに寝転がり、目を瞑る。
そうしていると、マリアンヌの胸の内には勇気が湧いてくる。女が政治に口を出すなと自分を口汚く罵る王宮の男どもや、行き遅れ、年増と嗤う女どもに、毅然とした態度を取る自分をありありと想像出来る。
しかし、その時間は長くは続かなかった。部屋の扉がノックされ、マリアンヌは最早くすんでしまった自分に帰ってくる。短剣を片付け、扉を叩いた者を部屋に招く。
入ってきたのは、侍女のエリノアだった。マリアンヌが幼い頃から世話をしてくれている人物であり、そのせいで彼女もマリアンヌ同様婚期を逃している。彼女の顔を見るとマリアンヌは申し訳ないような気持ちになり、最近は関係がぎこちなかった。
そんな彼女が、興奮した面持ちで部屋にやってきたのだ。
「どうしたの、そんなに慌てて」
エリノアは王族に仕える女性だ。ちょっとやそっとのことでは動揺しない。これほど慌てる彼女を見るのは、それこそ10年前にあの触れが出された時以来かもしれなかった。
「マリアンヌ殿下、落ち着いて聞いてくださいまし」
「え、ええ」
落ち着くべきはそちらです、という言葉を、マリアンヌはギリギリで飲み込んだ。茶化せるような表情ではない。
「魔王が、魔王が討伐されました……!」
◆
マリアンヌがエリノアに聞いた話によれば、実は数週間前に魔王は倒されていたという。前線から王国まで連絡してくるのに時間がかかったのは当然のこと、その魔王が、たった一人の男によって討伐されたことによって、情報が錯綜したのが情報の遅れの大きな要因だったという。
魔王の討伐はめでたいことだが、それでめでたしめでたし、とはいかないのがマリアンヌの状況である。果たしてその男は、そして国王は、10年前に出された触れのことを覚えているだろうか。覚えているとして、マリアンヌとの結婚を良しとするだろうか。
ともあれ、魔王の討伐者……すなわち勇者が国王に謁見する運びになり、マリアンヌもその場に出席するように言伝された。
謁見の間で、なるべく目立たないように壁の傍に立っていると、やがて扉が開き、1人の男が入ってくる。彼は凛とした足取りで進み、どんな騎士も敵わないほど見事な動作で跪く。このあたりでは珍しい、烏の濡れ羽色をした髪が、謁見の間にいる者達の目を引く。
「面を上げよ」
国王から声が掛けられて、黒髪の青年が顔を上げる。
溜め息が出そうな美貌である。年の頃は20歳といったところか。瑞々しい若さが漲っている。怜悧な印象を与える切れ長の目、鼻筋の通った顔、引き結ばれた唇。髪と同じ色をした瞳が、冷たい光を放つようだった。
少女達の間で交わされる美男子の噂など、とうに遠くのものになっているマリアンヌでさえ、まじまじと見てしまう程だ。
しかし、それ故にマリアンヌの胸の中には諦観が溢れる。この若く美しい青年が、自分のような女を欲しがることはない。何か理由をつけて、自分との結婚は断るだろう、と。
いや、それでも良い。昨今この国に蔓延している行き詰ったような空気が改善されるだけでも、自分にとってはやりやすいはずだと、既に自分で自分を慰めはじめてさえいた。
「して、勇者よ、名をなんと申す」
「ロラン。ただのロランでございます」
家名が無い、ということは、何かの事情で名乗れない場合を除けば貴族ではない。平民の男が魔王を単独で討伐した。その鮮烈な事実に、諦観しながらも彼に興味を持つことをマリアンヌは止められなかった。
「ロラン。そなたが魔王を討伐したという話、まことであろうな」
「は。マリアンヌ王女殿下の誕生日というめでたき日に、この報告が出来たことを嬉しく思っております」
「……!」
マリアンヌは、この若き勇者がこの場で自分の名前を出したことに驚いた。ほとんど壁と同化しているような心持ちで話の行く末を見守っていたのに、突如として舞台上に引っ張り出されたような感覚に陥る。
同時に胸に去来する希望。もしかしたらこの男は、自分との結婚を望んでくれるのではないか、という、10年間でどこかに捨て去ったはずの、少女のようなときめき。
見れば、国王もマリアンヌの名が出たことに動揺していた。彼自身、娘の誕生日など忘れ去っていたのだ。ごまかすように、国王は言葉を紡いでいく。
「う、うむ。確かにめでたい。魔王は10年以上にわたってこの国を、ひいてはこの世界を脅かしていた悪の元凶。それが討伐されたとなれば、これから世界は平和へ向かうことが出来ることだろう。そしてそなたは魔王討伐の最大の功労者。望む褒美を言うが良い」
望む褒美、という言葉が出て、マリアンヌは生唾を飲み込んだ。その中に自分が含まれていることを期待してしまう。
今日初めて会った男にそんな期待をするのは間違っている、と頭ではわかっているのに。
「はて。私の記憶が正しければ10年前から、魔王を討伐した者への褒美は決まっているはずですが」
「何?」
国王は首を傾げたが、マリアンヌは胸が痛くなるほど高鳴らせていた。運命、という安っぽい言葉を、今ばかりは信じた。
「魔王を討伐した者には、領地と、この国の一番の宝であるマリアンヌ王女殿下を与える、と。10年前私は耳にしました。望む褒美というなら、私が望むのはそれだけです」
マリアンヌは、自分が夢を見ているのではないかと疑った。この場で頬をつねるわけにはいかないから、何度も瞬きをしてみたり、こっそりと深呼吸をしてみたりしたが、一向に夢から覚める気配はない。
そうしている間に、勇者は国王と二言三言言葉を交わし、退室していた。藍色のマントを翻して歩くその後ろ姿を、マリアンヌは呆けた顔で見送ったのだった。
◆
その後、マリアンヌと勇者ロランの婚約は正式に決まり、ロランは魔王軍の占領地となっていたガザフソニアという土地を与えられ、それに伴って伯爵位に就くことと相成った。ロラン・ガザフソニア伯爵の誕生である。
とはいえ、ロランは魔王を倒した時の人である。しばらくはパレードをやったり、彼と一目会いたいという貴族達の相手をしたりで忙しく、自身の領地に出向くことはおろか、妻となるマリアンヌと会う時間すら無かった。
その間に、マリアンヌの耳にはロランに関する様々な噂が入ってくる。
曰く彼は魔王討伐の旅の最中、1人の供もつけず、また、彼に助けられた村や町の人々がその礼にと美しい娘などを差し出そうとしても、1度たりとも抱くことはなく“清廉の勇者”と呼ばれている、ということに始まり。
しかしそのせいで男色家である、とか。性的不能者である、とか。
またあるいはマリアンヌを妻とすることで、若い娘には興奮出来ない異常性欲者である、などという噂も広まっていた。
やはりマリアンヌとしては、そういった彼の女性に対する欲望についての物事が気になった。
そしてこういう噂を聞いていると、またマリアンヌの後ろ向きな思考が巡り始める。ようやく婚儀を挙げられるという頃には、マリッジブルーと言って差し支えない状況になっていた。
◆
「はぁ……」
婚儀に向けてメイクをされながら、鏡に映った自分を見て、マリアンヌは溜め息を吐いた。
「とてもお美しゅうございますよ、殿下」
傍らでそれを聞いていた侍女のエリノアが、髪を整えながら言う。鏡に映るマリアンヌの姿は確かに美しい。
決して派手ではないが上質なレースの施されたエンパイアドレスは大人の女性である彼女によく似合っているし、メイクによって輝く
今日は誰もが彼女がこの国の宝だったことを思い出すだろうし、男達は彼女を妻に出来るロランに羨望の眼差しを向け、女達は彼女の美しさに憧れるだろう。
けれど今彼女が問題にしているのはそこではなく、もっと漠然とした不安だった。
「私、上手くやっていけるでしょうか……」
「ロラン伯爵が非道な方とは思えませんが」
エリノアの言葉は全くもってその通りである。様々に噂はあるが、現状ロランは瑕疵の無い人物だ。容姿端麗、頭脳明晰、礼も知っている彼は、会った貴族達から好感を得たという。
もちろん、平民の小僧が何を一丁前に、と考える者もいないではなかったが、それを表立って言える者がいないほどには、ロランは人格面も評価されている。
「何より、これからは夫婦になられるのです。気になることがあるのなら、直接聞いてしまえばよろしいではありませんか」
「あなたときちんと話して励まされるのも何年振りでしょう。ありがとうエリノア。私、きっと幸せになります」
「はい。エリノアもそれを望んでおります。さ、そろそろ式が始まりますよ」
それを聞いてマリアンヌは立ち上がり、今の自分の姿を鏡で見て満足げに頷いた。
式はつつがなく終わった。式というのはどうしてもスケジュールをなぞるものになりがちで、マリアンヌは傍らにいるというのにロランと話すことがままならなかった。
結局、彼との対話は後日、マリアンヌがガザフソニア領に出向いた後になる。
◆
ガザフソニア領へ向かう馬車の中、マリアンヌはロランと向き合って座っていた。道中は平和そのもので、これまでならば警戒を厳にしなければならなかった魔物の襲撃などは1つも起こらない。それを以て、目の前の人物が世の中に及ぼした影響をマリアンヌは実感する。
ロランの方はというと、窓枠に肘を突いてのんびりと景色を楽しんでいる。そんな姿でさえ絵になるのだから、マリアンヌとしては余計に緊張してしまう。
「……魔物を警戒しているのなら安心してください。魔王を倒したことで彼の放っていた邪悪な気は消えました。凶暴化していた魔物達も今は大人しくなっていますよ」
彼女の緊張を見抜いたロランの方から声をかけてきた。落ち着いた、低い声である。その若さにそぐわない、修羅場をくぐってきた故の深みと、聞く者に無視させない魅力が含まれている。
「いえ、魔物の襲撃が無いことはここまででよくわかっています。その……正直に申しますと、ロラン様とこうして顔を合わせて話すのは初めてなものですから、どう話しかけようか、悩んでいたのです」
「――――――初めてでは、ありませんよ」
「え……?」
ロランの呟きに驚いて、マリアンヌは声を上げたが、ロランはにっこりと笑みを浮かべただけでその言葉については何も語らなかった。
「もうすぐ領内の屋敷に着きます。お話は、それからでも」
彼の言った通り、平原にポツンと建っている屋敷が窓から見え始めていた。
◆
ガザフソニアの屋敷は、その館の主に相応しい、過度な装飾を省いたもので、常々王宮内の華美さに辟易していたマリアンヌにとっては嬉しいものだった。
「食事を用意させます」
とロランが言うが、使用人の姿は見えない。そもそも屋敷に入る時も出迎えは無かった。一体誰に用意させるのだろう、とマリアンヌが首を傾げていると、ロランは手のひら大の赤紫色をした宝石を懐から取り出すと、何やら呪文を唱えて地面に放った。
宝石は光を放つと宙に浮いて、やがてカタカタと震えると、宝石の手足を形成し、人型になった。驚愕するマリアンヌをよそに、彼(?)は台所に駆けていく。
「ゴーレムです。大概のことは出来るようにしてあります」
「ゴーレム」
マリアンヌも名前くらいは聞いたことがあった。魔術で作られた命なきモノ。作成者の命令を忠実に遂行する人形だ。
「長く一人旅をしていたものですから、あまり周囲に人が多いと落ち着きません。家のことはゴーレムにやらせようと思っています」
ゴーレムは素材によって値段が変わる。木材なら子供の小遣いでも半年貯めれば買える程度だが、あれほど大きく見事な宝石で出来たものなら、それこそ領地の1つくらいは買えてしまうだろう。
目前の人物の底知れなさにマリアンヌは圧倒される。ますます彼が自分なんかを妻にしたことに疑問を覚えてしまう。
「食事が出来るまで時間があります。あなたの疑問に答えるためにも、お話をしましょう」
その気持ちを見透かすかのように、若き伯爵が言った。
◆
「あなたは、私があなたを妻にしたことが不思議でたまらないようですね」
食卓についたロランに苦笑されながらそう言われると、マリアンヌとしては頬を染めてうつむくしかなかった。長年の不遇な暮らしの中にあって内心を表情に出さないようにする術には自信があったが、この男の前では上手く働かない。
「1つ昔話をしましょう。みすぼらしい、男の話です」
そうして、ロランは静かに語り始めた。
◆
最初に告白すると、私は本来、あなたを妻にするどころか、名を呼ぶことすら許されないような身分の生まれです。
親の顔は覚えていません。どこぞの娼婦だろう、と今では思っています。スラム街に子供を捨てていくのは、大概がそういう者なのだそうです。
その場所で子供が生きていくには、盗みをやるか、体を売るかです。幼心に後者がおぞましいものだと思った私は、前者を稼業とすることを迷いませんでした。今では、そこに大した違いはなく、他者を害する分、盗みの方が罪深いものだとわかりますが、スラムの汚い男達の手に体をまさぐられることを、当時の私はどうしても受け入れられなかったのです。
幸か不幸か、私には才能がありました。肉体は強く、敏捷で、頭脳はスラムの複雑な抜け道を寸分の狂いなく覚えてくれました。やる盗みはすべて上手くいき、スラムの子供という存在でありながら、食うものに困る生活とは無縁でした。
しかしスラムで子供が目立って良いことはありません。徒党を組んで仲間もいない子供1人をハメて半殺しにすることは、より長い時間をスラムで過ごしてきた大人たちにとって造作もないことでした。
散々に殴られ、ボロ雑巾のように道端に捨てられた私の頭は、それでも明日の盗みのことでいっぱいでした。もうそう簡単には盗めない、明日からはやり方を変えなければ。浅はかにそんなことを考えながら、しかし体は動かず、いつの間にか降ってきていた雨のせいで、体温は奪われていきました。
ようやく死というものを意識した時、私に近づいてきた人影がありました。スラムには似つかわしくない、上等な布で出来た服を着た少女で、ああこれが、たまに大人たちが言っているテンシとかカミサマというものなのだと、朦朧とした頭で思いました。
少女は、雨の中でもよくわかる見事な金髪が濡れるのも厭わず、私に傘を差し出して、大丈夫?と声をかけました。
大丈夫なはずはないのに、私はこの美しい少女に心配をかけてはいけないと、必死に声を絞り出そうとして、あぁ、とか、うぅ、とかいう声を上げたのだと思います。
少女は随分慌ててしまって、全身をあらためて、ポケットの中から取り出したものを私の口に含ませました。
今まで感じたことのない甘さが口の中に広がり、私は驚きました。それからしばらく、少女は優しく私の頭を撫でてくれていましたが、やがて慌ただしい様子の大人たちがやってきて、少女を連れていこうとしました。
私の方を心配そうに見ている少女を安心させてやりたい一心で、私は力を振り絞って立ち上がり、彼女に短剣を手渡しました。それは数少ない、盗品ではないものでした。母が私に唯一持たせた物です。自分の子供に渡すには物騒な代物ですが、それのおかげで私は何度かあった危機から抜け出すことが出来ました。
……一目ぼれした女の子に渡すものとしても、物騒な代物でしょう。けれど私はそれより価値のあるものを持っていなかった。その短剣を渡すことで、彼女が自分を覚えていてくれたら、そんな願いを込めて渡したのです。
大人たちに連れていかれながら、少女の金色の瞳はずっと私を見つめていて――――――盗みはもう二度とすまい、と誓いました。
1年程経って、まだしもまともな仕事についてから、その少女がこの国の王女だったことを知りました。10年前のことです。
そう、あなたが、魔王討伐の報酬として提示されたお触れの時でした。あの美しい金色の少女と再び会いたい。その一心で、私は剣を握って旅に出たのです。
……10年、かかりました。
◆
ロランが語っていく中で、マリアンヌは次々と記憶が蘇ってきていた。いつか、城下町に出掛けている時にスラム街に迷い込んだこと、そこで行き倒れた男の子を見つけたこと。彼から短剣を……あの、大切な短剣を貰ったこと。
自然と、マリアンヌの瞳からは涙が溢れていた。
「……やはり、そんな卑しい身分の男の妻になるのは耐えられませんか」
寂しげな顔をしてそう言うロランに、マリアンヌは必死で首を横に振った。言葉が上手く出ないのだ。
しゃくりあげてしまいそうなのを耐えて、ゆっくり言葉を紡いでいく。
「い、え。いい、え……私は、嬉しいの、です。まだこの世に、私のことをそんなにも想ってくれる方が、いたのだと。っ、す、少し、待っていてください」
そう言って、マリアンヌは食堂から出ていき、あるものを持って戻ってきた。
「これは……」
「あなたから貰った短剣です。恥ずかしいことに、あなたから話を聞くまで、あなたが持ち主だったことは忘れてしまっていたけれど、この短剣はずっと大事にしていました」
「ああ……」
それは、返事とも吐息とも取れないような、呆然とした声だった。次第に嬉しさが込み上げてきたのか、にやける口元を隠す仕草は年相応の青年のものだ。これまでどこか得体の知れない雰囲気のあった彼からその表情を引き出したことで、マリアンヌの中の警戒心もにわかに解れる。
「ロラン、私はあなたの妻になれたことを嬉しく思います」
「ッ……!」
感極まったのか、ロランがマリアンヌを抱きしめる。「きゃっ」とマリアンヌは驚きの声を上げたが、すぐに緊張を解いて体をロランに委ねた。自然、彼が唇を重ねようとするのだが……
「あの、続きはお食事が終わってからにしませんか?」
ロランが目を見開くと、マリアンヌの背後に膳を持ったままぼうっとゴーレムが立っていた。
勇者は赤面し、ばつが悪そうに頬をかくのだった。
◆
夫婦の寝室は同じ部屋だった。当然といえば当然なのだが、天蓋つきの大きなダブルベッドにはロランが抱く“新婚の夢”のようなものが詰まっている気がして、マリアンヌは笑ってしまいそうだった。
いやいや、自分も若い頃にはこういったものに憧れたものだ、と思い直し、傍らのロランを見る。彼は視線に気づくと、にこりと微笑み、マリアンヌの髪をそっと撫でると、自分の唇でマリアンヌのそれで塞いだ。
初心な恋人同士がするような、可愛らしいキスだったが、それでもこれから始まることについてマリアンヌの胸は高鳴る。
ベッドに導かれ、ロランに押し倒される。金糸の髪がベッドに広がって、雄の瞳でロランに見つめられる。最早あとは肉欲に体を浸すだけ、というところで、マリアンヌは急に恥ずかしくなってしまった。
「あ、ぅ……」
「どうかしましたか、マリアンヌ様」
ロランに名を呼ばれて、頭が甘く痺れる。だがそれは理性を消し飛ばすには及ばず、マリアンヌはロランの胸を押して起き上がった。心配そうな目でロランに見つめられる。
「は、恥ずかしいのです」
「それは……仕方のないことです。互いに慣れていくしか」
「あ、いや、そうではなくて。なんといえばいいか」
「ゆっくりで構いません」
年下の夫にこうまで気遣われているという事実も恥ずかしいのだが、マリアンヌが抱えている羞恥心の本質は当然それによるものではない。
「その、あなたが、あまりに若く美しいから。私の、若さから遠くなった体をあなたの前に晒すのが恥ずかしいのです。もしだらしない体だと思われてしまったら、立ち直れなさそうで……」
顔を真っ赤にしてマリアンヌはなんとか最後まで言い切る。ロランは少しの間黙っていたが、突然にまたマリアンヌの唇を奪うと、そっと背中に腕を回し、耳元で囁いた。
「あなたは、ご自身の魅力を知らないようだ」
その言葉があまりに熱のこもった、雄の獣のものだったから、マリアンヌは少しの恐怖と、それを上回る性感に体を震わせた。子宮がキュンと疼く。
「若い娘達が咲き誇る花だとするなら、あなたは赤く熟れた果実なのです。見るだけなら確かに花の方が楽しいかもしれませんが、食うのなら当然、果実の方だ。芳香を放つ果実を前に、あまり我慢をさせないでほしい」
言うと、それこそ果実を味わうように、ロランが白い首筋に舌を這わせた。ぞくりとした感覚に襲われて、マリアンヌの中の羞恥心はどこかに行ってしまう。
再びベッドに押し倒され、マリアンヌの服にロランが手をかける。薄い夜着をはぎ取られれば、白いレースの下着と、それでは守りきれない肉感的な太ももや、細い腰が露わになる。
それらは確かに、若さゆえの瑞々しさを失いつつあるかもしれなかったが、より丸みを帯びた、大人の女の、濃厚な蜜の如き色気を醸し出していた。
その、
「……お好きになさって?」
こんな、誘うような言葉も、するりと口を突いて出た。それによって、興奮しながらもどこか遠慮のあったロランが、容赦なく体を触り始める。
ごつごつとした男の手。戦士の手。マリアンヌの柔肌に触れれば傷つけてしまいそうなほど荒々しいが、しかし絶妙に、ちょうど心地よい力加減で触れてくる。太ももや腹、背中など、未だ直接的に性感を覚える場所には踏み込んでいないが、愛撫の度に体が熱くなるのを感じていた。
「んっ、あっ、はぁ、はぁ……」
控えめな喘ぎ声が漏れだす。それがまた、男を惑わす。ロランの手がブラジャーのホックを外し、重力に従って大きな胸が少し横に垂れる。
「っ!」
乳房が空気に触れる頼りなさに、思わずマリアンヌが胸を隠した。両腕に潰されて形を変える肉の玉が、男を余計に狂わせるとも知らずに。
「見せてください、マリアンヌ様」
圧のある言葉に、マリアンヌは反射的に首を横に振った。金色の髪が振り乱される。ロランは、顔にかかった髪の毛をそっと払ってやると、胸を隠している手首を掴んだ。
「あ、ぅ……」
抵抗したところで無意味だと悟り、マリアンヌは腕から力を抜いた。両腕が広げられ、乳房と、その上で存在を主張する乳首が、何に隠されることなく晒される。マリアンヌは顔から火が出てしまいそうだったが、顔を隠そうにもロランに押さえつけられていてどうしようもない。
男に支配されるという状況に、しかしマリアンヌは昏い興奮を覚えていた。自分は被虐的な面があったのか、それともロランにならば何をされても良いのか。そんな判断をする暇もなく、ロランが乳房にむしゃぶりついた。
「ひぁっ?!はっ……!?」
まさか口でもてあそばれるとは思っておらず、嬌声と驚愕とが混ざった声が上がる。戸惑うマリアンヌをよそに、ロランは舌で乳頭を転がし、唾液で乳房を汚していく。
体から送られてくる感覚に脳の理解が追い付かず、マリアンヌは体を捩って快楽から逃れようとするが、ロランの腕や足に拘束されてそれもままならない。
「うっ、あ゛、あ゛……!?」
淑女にあるまじきくぐもった声を挙げながら、与えられる快楽を享受するしかないマリアンヌを見て、ロランは胸から口を離し、獣のように嗤った。
“清廉の勇者”などという二つ名とは程遠い、肉欲に浮かされた男の表情だ。マリアンヌにしか見せない表情だ。
マリアンヌは、この男の10年分の欲望を受け止めてやりたいと思った。股を開き、愛撫だけで十分に濡れた女陰を無防備にもロランに晒す。
ロランは一瞬戸惑うような表情を見せたが、マリアンヌが静かに頷くと、服を脱ぎ、足の間に自分の体を滑り込ませた。
ロランの男根は既に硬く勃起していて、幹を這う血管も相まって、マリアンヌにはグロテスクにさえ見えた。
「私、初めて、ですからね」
言外に、優しくしてくださいという願いを込めた言葉だったが、果たしてそれがどれほどの効果をもたらしただろうか。
ロランは亀頭を膣口に当て、そのままずぶずぶと腰を沈め始めた。
「うああっ!」
膣から体内に何かが入ってくるという初めての体験に、マリアンヌは混乱から悲鳴じみた声を上げる。
「大丈夫ですか?」
それを聞いて、ロランは獣の表情から優しい勇者の顔に変わって、マリアンヌを気遣って声をかける。
「平気です。すこし、はぁっ、驚いた、だけで」
「初めては痛いと聞きます。辛かったら、言ってください」
自分も余裕はないだろうに、そう言ってくれるロランにマリアンヌは感謝し、安心もした。異物感はぬぐい切れないが、無暗に入っていた力が抜けていく。
「動いて、いいですよ」
そういうと、ロランがゆっくりと腰を動かし始める。破瓜の血がベッドに垂れて赤いシミを作った。自分は今男に、夫になった人に抱かれているのだと、マリアンヌは得も言われぬ感慨に耽る。が、それも一瞬のこと、膣内から与えられる刺激はこれまでとは比べ物にならないものだ。
「あっ、んんっ、なか、ごりごり、されて、きもち、いいっ?!」
ロランの大きく太く硬いペニスは、膣内を抉り、子宮口にキスをしてなお奥へと進んでいきそうなほどだった。
肉壺のありとあらゆる場所を行き来され、ペニスの形を覚えこまされる。
どんな書類上の契約より、神への宣誓より、自分がこの男のものになったのだという事実を暴力的なまでに教えられていく。
「あっ、ぐうっ、ひゃううっ!そこ、いい、ですっ♡」
喘ぎ声が甘く、高くなっていく。既に軽い絶頂を何度か迎え、マリアンヌの頭は蕩けていた。
ロランの男根が膣内で脈打ち、射精が近いことを告げる。マリアンヌは自分でも腰を動かし、より強くより深く、ロランを受け入れる。
「だして、くださいっ!」
その声が決めてになったのか、ロランは腰の動きを止め、どくどくとマリアンヌの中に欲望を吐き出した。
「くぅぅ、んっ!」
膣奥にかかる白濁液の感触に身を捩るマリアンヌ。ロランは射精しながらもう何度かゆっくりと腰を動かし、最後の一滴まで出し切った。
「っ、はぁっ、はぁっ……」
「ふぅっ、ふぅっ……」
2人の荒い息が、蝋燭の明かりだけで照らされる暗い部屋の中に満ちる。
マリアンヌは、自分の股の間から流れていく粘ついた感触に気が付いた。ついさっき、目の前の男が自分の中に射精したのだということを強く実感する。
「私、幸せです」
この10年の間に、そんな言葉を口にしたことがあっただろうか。慣れていない言葉過ぎて、果たしてちゃんと言えているかどうかもマリアンヌにはわからなかった。
「俺も、同じだ」
ロランが急に砕けた口調になって、マリアンヌは驚いた。しかしすぐに笑顔を作ると、からかうように言う。
「本当はそんな風に喋るんですね。そっちの方が、好きかもしれません。ねえ、マリアンヌ、と呼び捨てで呼んでみてくれませんか?」
勇者は酷く赤面して、口をもごもごさせた後、けれどやはり勇者らしく勇気を振り絞って、愛する妻の名を呼んだ。
「マリアンヌ」
名を呼ばれて、マリアンヌはこの幸せがこれからもずっと続いていくのだろう、と確信するのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。よろしければ評価・お気に入り等してくれると大変嬉しいです。