「サンチョさん!! 勃起した男性器には血が集まっているので……そこから吸血すればたくさん血を飲めますよ!!」
「………………」
サンチョが夜の公演を終え、与えられた楽屋に戻って服を着替えようとした時。彼女の自室の前で、その男は意気揚々とそう言った。
興奮とも恐怖ともつかぬ、冷や汗にまみれた顔で笑みを作り、夜風を受ける裸の下半身をわずかに震わせながら。
*
ラ・マンチャランドが深夜の公演を行うようになったのは、つい最近のことだった。
きっかけは理髪師が気まぐれに少しばかり露出の多い服を作ったこと。それからある時、その踊り子のような服を見た室長がいたく気に入り、いえいえ着る者がおりませんわと理髪師が答えたところ、ならば俺が着ると室長。肉体をみしみしと女体に変化させた室長が露出の多い服を着こなして普段通りの公演に臨んだところ、さすがに幼子に見せるには刺激が強すぎると眷属たちの意見を受け、『では限られた日の真夜中にだけ、こういった催しをしてみよう』と決めたのがきっかけであった。
これが理髪師や姫が行うものであったなら、姫と同じ第二眷属の彼女も普段のように気にかけることはなかった。
しかし、いの一番にそれを行ったのが自分の父上とあらば黙ってはいられない。さすがに止めさせるべきと直談判に足を運んだところ、すでに採寸を終えた理髪師が自分用に仕立てた衣装を持ち、隣でそれと同じものを着た父上が自分を待っていたのである。
結局、第二眷属……サンチョもまた、露出の多い水着とも踊り子のそれとも言えぬ衣装で深夜の公演を行うこととなる。
彼女の劇は、顔を赤くしながら自分が仕立てた服を自分で着て舞い踊る理髪師のダンスや、自身を姫や騎士と見立てて劇を行う室長のそれとは違っていた。とうに無くしたと思っていた恥じらいを改めて抱くような薄布に身を包み、即座に血を変形させることで行う『剣舞』が彼女の演目だった。
理髪師や室長の劇、そして姫のパレードと比べると、その演目は無骨で華がなく、サンチョの顔つきも深夜の遊園地で舞台を占有する女の顔ではなかった。
しかし、しかしである。その体つきは引き締まりながらも確かな女体の膨らみを帯びており、それを包むのは薄布であるが故に、彼女が剣や槍、鞭や傘を振るう度、ふるん、ぷるん……と、柔らかな部位が揺れ動いて軌跡を作り、朝露のような汗が散るのである。
故に……サンチョには、そんな彼女の剣舞を好む物好きなファンがつくことになり。
彼もまた、その中の一人であった。
*
「……はぁ」
そして今。自分の前で半勃ちの股間を露わにしているその男を見て、サンチョはため息をひとつ。
抱いている感情は、当然ながら嫌悪である。周囲をちらと見回すが、幸いにも人の気配はない。深夜であることや、この楽屋の存在を知るものが少ないためだろう。
となるとこの男の……この行為は入念に下調べを行った上でのこととなる。自分の楽屋、与えられた部屋、時間帯。いつならば可能かと。
改めて男の顔を見て、だからこそサンチョは嫌悪した。同時に困惑もした。深くは素性を知らぬとも、少なくともその実力や存在感から自分とは隔絶した領域にある存在を前に股間を晒す。死を覚悟し、その上で恐怖も抱きながら、まるでその恐れを飲み込むかのように――股間は屹立している。
彼女のその見立ては正しく、この男は死やそれ以上の凄惨な結末を覚悟した上で、サンチョに対して抱いていたどうしようもない性欲に命をかけることを選び、ここに立っていた。
少なくともラ・マンチャランドにいる以上、彼は来場客だ。手を出すわけにはいかず、「何をなさっているのですか」とか、「去ってください」と一蹴するのが正しい対応と言えるだろう。
サンチョが心の内に抱く嫌悪。それは彼の行為や軽率な判断にもよるものだが、何よりも。
「…………勃起が……足りていないのでは、ありませんか?」
この男に対し、小さくない興味を向けている自分自身に、嫌悪していた。
彼の前に膝をつき、つんと上を向いているそれを抱き寄せるように指を這わせて、自らの頬に押し当てる。
その自己嫌悪からなる無表情の睨みを上目遣いに見せつけ、すり、すりとそれに対して頬ずりをし始めると、手と頬に挟まれたそれがびくびくと動くのがよくわかった。
当の本人は、誰よりも困惑していた。
殺されるか牙を立てられるか、その覚悟で立っていたにも関わらず、彼女の対応は『頬ずり』だったからだ。
「確かに、男性器には海綿体と呼ばれる、血液を溜めてとどめるためのスポンジ状の組織が存在すると聞きます。興奮し、勃起したそこに牙を突き立てれば……頸動脈を探すよりも容易く血を補給できるでしょう。ですが」
「で、ですが……っ??」
「……溜める血が、足りていない。もっと、硬くできるでしょう?」
それから扱くでもなく、頬と指で包んだまま、じっ……と彼の目を上目遣いに見つめ続ける。
自分が始めたことでありながら、彼の頭の中は完全にハテナで埋め尽くされていた。殺すでも無視するでもなく彼女はただ、『足りない』と言いながら自分の性器を頬に当てている。
彼女が呼吸をするたびに、小さな鼻息が竿を撫でた。性器が彼女の頬に触れていて、すぐそばに唇がある。尽きる覚悟を決めていた自分の寿命が数秒ずつ伸びていく中、サンチョが要求した通りに、性器はもっとがちがちに硬く勃起していった。それだけに飽き足らず、薄まった恐怖の代わりに占め始めた興奮は、性器の先からとろりと透明な先走りすら垂らし始める。
彼女の顔をそれで汚すわけにはいかないと、腰を引こうとした瞬間。まるで逃げるなと言わんばかりに、サンチョは完全に勃起した性器をぎゅっと細い指で掴んだ。
「覚悟も足りず、縮こまるばかりと思っていましたが……やればできるようですね。これなら十分に……吸えるでしょう」
そう言ってサンチョは性器から頬を離すと、それをぎゅっと握ったまま、「あ」と口を大きく広げた。
唾液で湿った薄赤い口内に、きらりと光る牙が見える。まるでこれからこれを突き立てるのだと見せつけるように。
――ああ、来る、その時がとうとう来る。愛し憧れた、一方的な想いを寄せた相手に自分を捧げることができる。果たして突き立てられる痛みはどれほどか、あるいは齧られて断面から啜られるのか、それとも、それとも……。
屹立した性器。それに迫る開いた口。光る牙。
決めた覚悟と備えた心は、けれども直後の感触がすべてを裏切ることとなった。
「あ――む…………っっ、…………っじゅる、じぅ、ずぢぅぅぅ……ぢゅづっ、ぢゅう、ぢゅぶ、ぢゅぶっ、ぢゅぶっっ」
痛み、ではない。それとは程遠い、柔らかな粘膜が絡みつきながら前後に動いて、扱かれる……あまりにも強烈で予想外の快感。
牙が生えた、血を啜るためにできている口が、痛みではなく快楽を与えている。
サンチョの唇はぴったりと円を描いて性器に張り付き、その内側で舌がぞりぞりと敏感な亀頭をねぶっていた。
巧みに、そして丁寧に性器をしゃぶる口とは対照的に、彼女の両手はがっしりと腰を掴み、相も変わらず逃がすまいとし続けていた。
「ぢぅぅぅぅぅっ…………ぢぅ、づぢゅっ、じゅぶ、じゅぶるっ、じゅっぶ、じゅっぶ、じゅっぶっ…………」
疑いようもなく、抗いようもない。唇の端から漏れ出る空気が淫らな音を立てている。これは食事でも吸血でもなく。
――フェラチオ、である。
死と痛みを覚悟していた男でも、それにだけは耐えられなかった。愛し憧れて一方的な想いを寄せた彼女から受ける口淫、その強烈すぎる快楽には。
彼は絶えず彼女の名前を呼び、叫び、ぶんぶんと頭を振り続けているが、けしてサンチョは離さない。
依然として変わらない、半ば睨むようなじとっとした目線を彼の目に向けるばかりである。時折瞬きを繰り返し、平然とした表情で、その屹立した性器をしゃぶり続けていた。
頭は前後に動かし、鼻で小さく呼吸をしながら、味わうように弄ぶように、あるいは――愛でるように。
「ぐ、ぷ……もぐっ…………。…………づぢぅぅ……」
がくがくと膝が笑い、腰が持ち上がっていくのに合わせ、サンチョも唇の位置を調節する。
やがて掴んでいた両手は腰の後ろにまで回り、彼の腰を両腕でがっしりと抱き寄せるような形に変わる。
頭を大きく後ろへ引き、竿のほとんどを咥え込んでいた唇が鈴口だけに吸い付くまでになった時――ようやく口が離れると彼が思った時。
サンチョは再度、彼の想いと予想を裏切った。
「…………ぐぷ、ぐっぷ、ぐぷ、くぷ、くぽ、くぽっ、くぷ、くぽ、ぐぷ、ぶぷっ……!」
その赤い瞳に彼の顔を映しながら、すぼめた唇が丹念に責め始めたのは、もっとも敏感な先端、亀頭――雁首の裏側。
牙こそ突き立てないものの、その口淫に一切の容赦はなかった。早く出すものを出してくださいと言わんばかりに、一秒たりとも快楽から逃れることを許さない。
嬌声とも絶叫ともつかぬ声をあげながら、刺激を受け続けた性器はようやく絶頂へと至らんとした。
どろりとした精液が股間の奥からこみ上げて、サンチョの口へと放出する瞬間も――必死で『射精する』と叫んでいるにも関わらず、絶対に彼女は口を離さない。
びくん、と彼の体が硬直した瞬間。
「ぢぅぅぅづぢゅるるるぅぅぅぅぅうううっっ……じゅる……じゅるるっ、ぢぅ…………っっ」
まるでストローからジュースを吸い上げるように、びゅくびゅくと吹き出る精液を尿道から引きずり出すような、強烈なバキュームで射精を迎え入れた。
粘性の高く量も多い、糊のような精液。『こういった行い』が都市においてこの上なく貴重であることと、一方的に寄せていた想いが塊となって含まれているためか、彼のそれは一般に観測される射精の量と質を容易く凌駕していた。
そして、だからこそ――射精が終わると共に、ひどく名残惜しそうに頬の内側に亀頭をこすり付けながら、今一度サンチョは彼の顔を見た。蕩けて放心しきった、だらしのない顔。
「つぽ――」
長い口淫がようやく終わって、解放された性器は彼女の唾液でてらてらと濡れており、精液は一滴も付着していなかった。
それらはすべて、サンチョの口内でもぐ、むぐと舌で転がされている最中である。彼女がゆっくりと目を閉じて、ふぅぅ……と熱い鼻息を吹き出す時。
「ごく……っ、ごく、ん、っく…………ごくんっ……。…………ぶはっ……」
再び見せつけるように、サンチョは口を開く。唾液で濡れた薄赤い粘膜。塩基のような臭いをかすかに立ち上らせながらも、そこにも精液は一滴もない。
あれほど淫らな行為をして尚、彼女の顔つきには一片の歪みもなかった。舞台の上で見る、あの勇ましい顔とまるで同じ。
これは夢ではないか、あるいは別人ではないかと彼は取り戻した理性で考えもしたが――やはり彼女は、ラ・マンチャランドのサンチョなのだと、いやでも実感させられる。
公演の数こそ少ないものの……きちんと露出の高い衣装をしっかりと身に纏い、淫らさなど微塵も感じさせない剣舞を披露してくれる彼女だと。
一方的な恋心を勝手に寄せていた、その女性が。
たった今、自分が吐き出した精液を一滴残らず搾り取り、飲み干したばかりである。
「……自ら差し出すだけあって……ずいぶんと、余裕がおありの様子ですね……」
先程までの強烈な快楽と、どういうわけかしてもらえたという理性で覚える実感が、今まで以上の興奮を沸き立たせ、彼の股間はみるみるうちに硬さを取り戻していく。
疲労の色を形で表していたそれが少しずつ頭を持ち上げ始めていくのを見つめながら、サンチョは両腕を彼の腰から離し、おもむろに自分が着ている衣服に手をかけた。
豊満な胸を包んでいるビキニのような衣装、その中心の紐に指先をかけて、必要最低限の動きで――くいと、ずらしただけで。
「お忘れないように、お客様。あなたは私に、これを、差し出したのです」
ぶ、るんっ――と。裸の胸が、上下に揺れながら露わになる。
困惑、快楽、そのどちらも休む間もなく与えられ続ける。乳輪ごと膨らんで硬く勃起した、彼女の乳首。剥き出しのおっぱい。
硬く勃起しきった性器にそれが近づき、ずぷ、ずぷぷっ――と柔らかく熱い乳房に飲み込まれていくのを、ただただ見つめる彼に向かい、サンチョは言った。
「――二度と。返しませんので」
み、ちっ……と、口内とは違うすべすべとしていて柔らかい肌の感触に包まれながら、先端が谷間から現れた瞬間。また、サンチョの口がゆっくりと開く。
きらりと光る牙。いつそれが突き立てられるとも知れぬ、命がけの、凶悪な――。
「れ、る……れるれるれるれるれるっ…………ぇあむっっ」
そこから伸びる舌がざりざりと亀頭の裏筋や鈴口を丹念に舐め転がした直後、覗いた先端部分だけがまた彼女の口の中へと導かれる。
絶えず、恐怖はあった。それは彼女の牙によって命を奪われるほどの痛みを与えられるかもしれないという恐怖。だが今は、それに加え。
「ずぢぅぅううぅぅっっ……ぐぷ、ぐぷっ、くぷ、ぐぷ、ぶぷっ、ぶ、ぢゅぶっ、ぢゅぶるっ、ぢ、ぢゅっ、ぢゅぅぅぅう…………っっ」
竿は乳房に包まれながら、先端は唇と舌に蹂躙される。とっくに砕けっぱなしの腰がまた笑うような、巧みで容赦のない責め。
本当に、一滴残らず、搾り尽くされてしまうのではという恐怖があった。本来は喜んで陶酔すべき事実が、あまりの容赦のなさに恐怖と変わる。
いつまで続く、何度出せば終わる、どれだけ差し出せば満足してもらえる――? ある意味、血を差し出すよりもずっと――辛い。
たぱ、たぱんっっ、と小刻みに揺らされる乳房に扱かれるのが。
それとは互い違いに上下に動く頭が、ぶぽ、ぐぽと淫らな音を立てて先端だけをむしゃぶるのが。
たまらなく心地よくて、気持ちよくて、ただ、ただ――。気を、失ってしまうほど。ああ、いや。きっと。
「ずっぢぢゅぅぅぅうぅううううっっ…………! ぢゅぽ…………っ」
“びゅ、びゅる、びゅぐっ――びゅるぅぅぅっ…………!!”
終わらない。絶対に。気をやったところで。だって、彼女は、たった今。
二発目の――たまらず噴出した精液をまた吸い上げ尽くして、もぐもぐと味わっている最中だ。
数分前からずっと、彼の頭は左右に振られるばかりだった。それをサンチョは、じっと下から見上げ続けていた。
「ん……、……ん、ぐ…………こく、こくっ……。…………れあ」
先ほどよりも、量は多いのか少ないのか、濃度は高いのか低いのか――変わらず気だるげな顔のまま一滴残らず飲み干した後、サンチョはまた口を開ける。
もはや彼にとって、それそのものが凶器に見えていた。自分に絶えず快楽を刻み続ける凶器。牙よりもずっと恐ろしい。蠱惑的で魅力的で――抗えず、終わりがないからこそ。
「はむ……。…………。……………………っ」
大きく開かれた口にぱくりと先端がまた包まれた瞬間の、あまりにも強烈で容赦のない快楽は、彼にしか理解できないものだった。
端から見れば、ただ咥えているだけである。乳房に挟んだ性器の先を咥え、じっと見つめているだけのサンチョがそこにいる。
けれど、その口内で――。
(ぞりぞりぞりぞりぞり、ぞりゅ、れる、れりゅ、れろれろれろれろれろっっ、れぅ、れうっ――ぞり、ぞり、ぐりゅ、ぞりゅぞりゅぞりゅぞりゅぅっっ)
射精したばかりの敏感な亀頭、その裏筋も雁首も鈴口も、激しく蠢く舌でねぶられ続けていた。
口全体を使ったフェラチオ、先端だけをしゃぶる繊細な口使い、乳房で竿を扱く手つき、敏感な部分だけを丹念に舐めしゃぶる舌使い。
あらゆる技巧が彼の性器を襲い、そして幾度となく限界へと迎えさせる。言葉の通り、サンチョはけしてその性器を離すことがなかった。
これは自分のもの。差し出されたのだから自分のもの。もう、あなたのものではありません。
口で、舌で、唇で、乳房で、そして何よりも、その瞳で、そう伝えていた。
――ほどなくして、最後の限界が訪れる。
敏感な亀頭だけを延々と責められ続けた結果、サンチョの口の中には、ぷしゃあああっ――と、男が吹く潮が最後に注ぎ込まれた。
精液と比べるべくもない、薄い体液。それでもサンチョは、精液と同じようにそれを一滴残らず口の中に受け止めて、ごく、ごくっ――と、喉を鳴らして飲み込んだ。
*
更けた夜が過ぎ、朝が近づき始めて空が白んできた頃。
楽屋の入り口に、彼は背中から倒れ込んでいた。精も根も尽き果てた、といったような様子で。
下半身、主に股間にはたっぷりと唾液が付着している。それを見下ろしているのは、赤い瞳の第二眷属。
「……け、ぷっ……。…………」
サンチョは小さく喉の奥から立ち上ったものを口から吐きながら、立てた親指でぐいと口元を拭った。
満腹だった。不本意ながら。人間を傷つけてはならないと父上から伝えられていた以上、この戯れは必然ではあったが。
着崩れた衣装を整えて、周囲を見回した後――おもむろに彼の耳元に口を近づけて、こう言った。
「またのご来園を――心よりお待ちしております、お客様」
そして、彼がまだ辛うじて起きていると気づき。
最後に、こう付け加えた。
「――自慰など致して、『無駄遣い』など、なさらぬよう」