B級冒険者【暴風】アレクシス。
屈強な身体とその膂力から振るわれる大剣で数多くの迷宮を踏破してきた彼は、永遠の命と財が眠ると謳われる『無限迷宮』に挑み、その深層で罠により意識を刈り取られ、直後、薄暗い石室で目覚めたアレクシスは……金髪碧眼の華奢な美少女となっていた。

そんな彼の姿を心底嬉しそうな微笑みで迎えるギルドの受付嬢。
エレフィナと名乗った受付嬢は、自分こそが迷宮の主にしてエルダーサキュバスであり、男として成熟した冒険者が非力な女へと変えられ惑う様が性癖だと明かす。
そしてアレクシスにアレクサンドラという名、女としての生と"性"を与えるとほくそ笑むも、アレクシスは提案の一切を無視し、再び迷宮へ。

性を変えられた者が落とされる真なる迷宮『夢幻迷宮』へ足を踏み入れる。


その果て。
生まれ変わったばかりの身体を取り返しがつかぬほど嬲り尽くされるなど――それこそ、夢にも思わずに。


※skebでご依頼頂いた短編となっております※
※ノクターンノベルズとマルチ投稿しております※

1 / 1

 当作品は、skebにてご依頼頂いた短編となります。
 この度はご依頼、誠にありがとうございました。



筋骨隆々豪傑戦士が金髪碧眼つるぺた美少女にTSしたと思ったらその日の内に豊胸トラップで爆乳化の後デスアクメをキメる話

 

 

 アレクシスは、それなりに名の知られた冒険者だ。

 数多くの迷宮へ潜り、幾つかは開拓、踏破までしてみせた歴戦のB級冒険者であり、身体も精神も充実し脂の乗りきった(よわい)三十。

 

 精悍(せいかん)な顔立ちには経験と自負が刻まれ、鍛え上げられた大柄な体躯は肉の鎧と呼べるほど。いざ(いくさ)となればその膂力(りょりょく)で身の丈ほどの大剣を振り回し、敵対者をなぎ払う様は正に暴風。

 

 守るも攻めるも前衛としての理想を極めた、豪傑(ごうけつ)そのものな男であった。

 

 

 ……つい、先日までは。

 

 

◇◆◇

 

 

「っ!!」

 

 その日、アレクシスは薄暗い石室で目を覚ました。

 魔力灯のか細い光量のみが照らす閉所は窓一つなく、漂う邪気が警戒を誘うと同時、街中を思わせるほど空気はひたすら穏やかに……あからさまなほど(いびつ)な空間と化している。

 

 空どころか外すら覗けぬ異質な領域の直中(ただなか)、直前まで迷宮に潜っていたことも手伝い今が昼か夜かすら分からない状態で、アレクシスは霞がかった記憶を辿(たど)る。

 

 アレクシスは、永遠の命と財が眠ると謳われた迷宮都市、エレフィナに挑んでいた。

 

 富や秘宝ではなく、ただ名誉のみを――己が最初に踏破者となることを――求め、踏破階層が七十を越えても全容が知れぬことから『無限迷宮』と呼ばれるダンジョンへ、いつものように単身で挑み。

 

 

(……しくじったな)

 

 

 七十六階層。

 公表された最深を二階層も更新したその果て……巧妙に隠された仕掛け罠に、意識を一瞬で刈り取られた。

 

 アレクシスの記憶は、そこで途絶(とだ)える。

 

 

「おかえりー♡ 新記録樹立おめでとーっ♡♡」

 

 

 記憶を手繰(たぐ)るアレクシスに気の抜けた、甘ったるい声が投げられる。

 

 聞き覚えのある声に、覚えのない媚びが熔けたもの。

 声を瞬時に分析しながら顔を向ければ、アレクシスにとって、見覚えのある顔が立っていた。

 

「七十六階層っ! 一気に二階層も更新なんて、すっごいねぇ♡」

 

 ギルドの受付嬢。

 つい数日前、迷宮へ挑むアレクシスを見送った際は穏やかに笑んでいた少女が、今や咲きほこる花のよう、満面の笑みを浮かべている。

 

 ――見送りの際は、大人しくも芯のある生真面目な少女だったはず。

 

 アレクシスは強烈な違和感を抱きながら少女の顔を睨みつけるも、受付嬢は怯むことなく、薄紫の――出立前に見た茶褐色とはまるで異なる――瞳を笑みに歪めた。

 

 

 露骨なほどに変化した受付嬢の素振り。

 その姿を訝しげに眺めながら、アレクシスは戸惑うよりもまず思考を回し、現状把握に意識を向ける。

 

 

 恐らく、受付嬢は今の態度が生来のそれ。

 そして彼女やギルドだけでなく、迷宮……いや、この街そのものが。

 

 

「あ、そうそう。忘れてたぁ……ようこそ、裏ギルドへ♡」

 

 

 冒険者を絡め取るための、大掛かりな罠だ、と。

 

 

「はい、鏡」

「む……?」

 

 問い質す前に、受付嬢より差し出された手鏡。

 アレクシスはそれを受け取ろうと手を伸ばし……鏡を見るより先にまず、違和感を抱いた。

 

 

 伸ばした腕が、手が、やけに細身のそれであり。

 

 

「…………」

 

 受け取った鏡の中には、自分の代わりに……(うるわ)しい少女が映っていた。

 

 元は短く刈り揃えていたはずの黒髪は、金色に(きら)めき腰まで伸びて。

 浅黒かった肌は見る影もなく、きめ細やかな白を帯びた滑らかなものへと色を変え、細身となった身体と合わせ、触れるのも(はばか)られる(はかな)さを宿している。

 

 そして、鏡を注視し細めているはずの両の眼……こちらは色こそ変わらず碧眼のまま、だが元のそれよりずっと大きく、意識して女のように微笑んだならさぞ愛らしい眼であろうと試すまでもなく分かるほど。

 

 どこを切り取っても、アレクシスが知る自分とは程遠い美貌(びぼう)が不審げに眉をしかめ、鏡を……己自身を睨みつけていた。

 

「どーぉ、産まれ変わった感想は♡」

「……オレ自身でなければ、求婚してたかもわからん」

「そっかぁ、好みの姿になれてよかったねぇ♡」

 

 軽口を交わしながらも、アレクシスはしかめっ面を浮かべたまま。

 それでもなお美しさの損なわれぬ少女を、見慣れぬ自分を見つめながら思考を回す。

 

「気に入ったならよかったよぉ♡ そう簡単には、てゆーかぁ、もう一生元には戻れないし♡♡ これからあなたは、この迷宮街で女の子として暮らすか、女の子として迷宮探索を続けるか、ふたつにひとつ♡」

 

 

 生きたまま、人間の性を裏返す魔術など一時的であっても稀少(きしょう)なものだ。

 

 それを長期間、ましてや永続的に仕掛けるならば。

 容姿や体躯に留まらず根本的に構造そのものを取り替える以上、変質による影響を抑える術は実に(とぼ)しく、文字通り、産まれ変わらせるほうが容易だと言えるほど。

 

 無限迷宮は、迷宮の内で命を落としてもギルドにて目を覚ますと言われている。

 

 自分が踏んだ罠もまた、命を落とす類のそれ。

 死して産まれ直した姿こそ、今のこれ。

 

 

 もう一度死ぬような思い……いや。

 それこそ、もう一度死にでもしない限りは、元に戻ることはないのだろう。

 

 

「あなたは確かぁ、アレクシス、だったっけ……じゃぁ、サンドラちゃんっ!♡ 今日から、アレクサンドラちゃんね♡」

「そうか……悪くはないな」

「あれ、意外~♡ 思ったより物わかりイイ感じぃ?」

「この身体で不釣り合いな名を名乗るほうが余程不様だ。アレクサンドラなら、まあアレクで通せば大差もない」

 

 アレクシスはアレクサンドラの名を事も無く受け取り、浅く溜息を吐き出した。

 受付嬢はその様を――見飽きているとでも言わんばかりに――気にもせず。

 

「……改めてようこそ、エレフィナへ♡」

 

 しかめっ面のアレクシス……アレクへ、緩んだ笑みを投げかける。

 

「表向きはただの迷宮街、でもその実態は深ぁい迷宮を誘い火に、釣られて来た獲物からイロイロ搾り尽くすための餌場。コッチが真実、アッチは幻想♡ 真なる迷宮、そう、言うなれば――夢幻迷宮のために作られた、常夜の街へ♡」

 

 アレクの聴覚は、受付嬢が持たせた『含み』もしっかりと聞き分けた。

 正しく『夢幻』に辿り着くことはなくとも、彼女の発したそれが『無限』ではないと瞬時に悟り、だが、それを問い返すことなく思考の端へと追いやると……心底楽しそうに笑む受付嬢を。

 

「お前は……なんだ?」

 

 それが受付嬢ではないと、確信を抱きながら問い掛ける。

 

「あっ、そっかぁ♡ コッチに来る人珍しぃから忘れてたぁ♡ 受付嬢してる時は自己紹介もしないからね♡」

 

 受付嬢――『女』は、舌を覗かせおどけた後、その舌でそのまま唇を舐め上げ、咲きほこっていた笑みを妖艶に……細めた目にも、口元にも、嗜虐心の灯ったそれを浮かべることで、睨むアレクへの返事と代えた。

 

「……アタシも、エレフィナ♡ てゆーか、街を作った時にアタシの名前を使っただけでアタシのが先ぃ♡ 迷宮に冒険者を集めて、美味しい空気と精力をたーっぷりと吸ってる、悪い悪ぅいサキュバスちゃんでーす♡♡」

 

 確信そのままの回答に、アレクは思わず眉を(しか)めた。

 

 魔物の中でも、知恵と魔術を以てして人を(おとし)める者など限られる。

 サキュバスは真っ先に候補として浮かぶほどありふれた種族だが……街ひとつ、迷宮ひとつを丸々産み出し、運用することで力を得ているとなれば、想定からはわずかに()れる。

 

「アタシね、屈強な男たちが無力なメスになっちゃうのが、そーして不様を晒すのが好みなの♡ アタシが不意打ちしたって勝てないよーな実力者が、かぁわいい女の子になってだらしなぁい顔で鳴き喚くトコを見るのが、だぁいすき♡」

 

 

 それほどの力を持つならば、軽薄な態度とは裏腹にかなりの高位。

 相応に長く生きた淫魔(エルダーサキュバス)であろうと当たりを付け、アレクは睨む瞳をそのまま、不審から警戒へと切り替えた。

 

 

「でもぉ、人間って見た目より中身が大事でしょぉ?♡ 元がヨワヨワだと女の子にしてもイマイチだから、深ぁい層の罠ほどアタシ好みになるよーにって調整してるの♡ サンドラちゃんは、すっごくアタシ好みだよぉ♡♡」

 

 からかいの嘲笑ではなく、心底からの恍惚。

 アレクは言葉に嘘偽りがないと、否が応でも理解できるほどに期待に充ち満ちた眼差しを浴びながら……その嘲りに歯噛みした。

 

「……歪んでいるな、大人しく男を漁っていればいいものを」

「その言葉、そっくり返してあげる♡ その身体で冒険者は無理でしょー♡ 女の子らしー生き方、教えたげよっかぁ?♡ それこそ、男漁りとか♡♡」

 

 アレクは怒りを内に押し殺し、改めて己の姿に目を向ける。

 

 頼りない腕と、目に見えて小さくなった自身の上背(うわぜい)

 アレクが知る範囲の女冒険者よりもずっと小柄で、手折(たお)れそうなほど細身の腕は、その辺の町娘となんら変わらない。

 

 前衛どころか、後衛職でも幾分かマシな身体をしている。

 これまでのよう前衛で大剣を振り回すには、余りにも心許(こころもと)ない四肢と体幹。

 

 

 アレクは改めて自分の身体を見返して、今の自分が生まれ変わった身体でできるであろうこと、できなくなったであろうことをひとつひとつ、頭の内で仕分けしながら……それでも。

 

 

「……考えるまでもない、他の生き方などできるものか。女として生きるなど、尚のことだ」

 

 

 そう、結論付けた。

 例え膂力が足りなくとも、頑強さが(ことごと)く失われても、それでも、と。

 

 ただそれは、冒険者としての自負ではなく消去法。

 アレクには他の生き方など、どうやっても思いつくことができなかった。

 

「女の冒険者も山ほど見てきた、オレにできない道理もない」

「くふふ♡ みーんな最初はそう言うんだよねぇ♡」

 

 まるで期待通りだと言わんがばかりに笑むエレフィナから目を背け、アレクは腕どころか身体全体に響くほど重くのし掛かる大剣を、元のよう背に携えようと……した後に諦め、引き摺るように握りしめ。

 

 己の背後、ご丁寧に『入り口』と記載された迷宮へ。

 ――『夢幻迷宮』に、目を向ける。

 

「あれ? え、ウソ。もう行くの? 身体慣れてからでいいんじゃなーい?」

「むしろ慣らしにいく。オレの想定と実際の動きがどれだけズレるかを知らねば、対処のしようもないからな」

 

 アレク自身、弱体化の実感はひしひしと感じているものの、だからこそ。

 そのことだけを意識して、薄暗い石室よりなお仄暗(ほのぐら)い闇に充ち満ちた入り口を碧眼(へきがん)で見据え……新たな一歩を踏み出した。

 

「ま、止めないけど。精々がんばってー♡ 貸し出し武器もあるから、女の子のカラダじゃ武器が合いませ~ん♡ って時は使ってみてね♡」

 

 

 淫魔が笑う。

 足を止めることも、振り返ることもないアレクの背を見つめながら。

 

 

「無事のご帰還、心よりお待ちしておりまーす♡」

 

 

 投げかけられた気の抜けた一言を背に浴びて、アレクは再び迷宮へと降りていく。

 

 

◇◆◇

 

 

 結論から言えば、エレフィナの提案は正しかった。

 

 アレクの想定よりもずっと貧弱な身体は彼の記憶との誤差(いちじる)しく、探索や戦闘どころかそもそも、まともに武器を振るうことすら困難といえるほど、見た目そのままの細身、細腕。

 

 実地で慣らすにはあまりにも、頼りないものと化していた。

 

(覚悟はしていたが、こうも馴染まぬとは……もはや邪魔でしかないな)

 

 元より埒外(らちがい)の強大さを宿していた大剣も。

 今の身体では体躯を遥かに上回り、片腕どころか全身を駆使して持ち上げるのが関の山。長年の経験により辛うじて振り上げ、振り下ろすことこそ叶うものの、それが限界。

 

 身体の成熟、膂力の成長に合わせる形で幾度かの新造を経て辿り着いたアレクのためだけの業物は文字通り、身の丈に合わぬただの重しとなっている。

 

「……ふぅぅうぅ……っ」

 

 その重さだけを頼りに大剣を地に刺すと、アレクは荒く、長い息を吐く。

 

 迷宮探索を主とする冒険者だったアレクは、魔物討伐も慣れたものだ。

 鉄塊にも似た剣と、同じく無骨な身体をもってオーガや、それどころかミノタウロスすら幾度となく、そして容易(たやす)く打ち倒してきた剛の者。

 

(今や、ゴブリン程度でこのザマか)

 

 アレクは弾む息を整えようと試みながら、己の周囲。

 或いは叩き潰され、或いは半身を抉られ、手ずから打ち倒したゴブリンの残骸を見下ろしながら、その遺骸からも伝わる自身の変化に……笑うしかない。

 

 これまでなら一刀のもと斬り伏せてきた小鬼どもに、相応の苦戦を強いられた。

 

 それだけでも、無力感に打ちひしがれるには十分だった。

 

 

「……妙だな」

 

 

 だが落胆に留まらず、違和感と不信も同時に抱く。

 様子見がてらと浅層に留まってこそいるものの、それを加味したうえでなお、裏の迷宮と言うにはあまりにも敵が弱すぎる。

 

 その、弱すぎる魔物に苦戦している現状、むしろ助かってもいるにはいるが。

 

 今はまだしも、ある程度身体に慣れさえすれば難なく探索が叶うとさえ思うほど手ぬるい迷宮の様に、アレクはむしろ警戒を強めるも……。

 

 

 警戒のみで回避できるような罠など、それこそ『裏』にあるはずもなく。

 

 

「……ッ! な、しまっ……」

 

 慎重に踏み出した足下、つま先に違和感を覚えた直後。

 周辺から薄紫の煙が吹き出し、アレクの全身を包み込んだ。

 

「ッ、く……! 毒か……!?」

 

 瞬時に鼻と口を押さえた故に、吸い込んだそれはわずか少量。

 だというのに次の瞬間から心の臓が絶え間なく高打ち、身体が爆ぜ飛びそうなほど、内から熱が込み上げる。

 

「か、はッ……! ッぐ……こ、れは……っ!」

 

 正常では起こり得ない鼓動と、火が灯ったような熱。

 体内で暴れ狂うような奔流に――また絶命するかと――恐怖すら抱いた次の瞬間。

 

 

「ぐぅ……おおぉっ!! ッがァああぁあっ!!」

 

 

 彼の覚悟そのままに、アレクの身が爆ぜた。

 ただ、想定した最悪とは異なり、爆ぜたのは身体の一部分。

 

 

「っ……ぅ……? は……ぁ?」

 

 

 見下ろす眼に、膨らみきった脂肪が上衣を押し上げる様がはっきりと映った。

 

 視界一面に映るもの。

 アレク自身――元の長身故、背後から女を抱く際に――見覚えのある光景に、どうしても思考が止まってしまう。

 

「いや、これは……ん……? ……むぅ」

 

 またしても身体を『変えられた』ことを確信し、それを見られるのを無意識の内に忌避(きひ)し、思わず周囲を伺っていたアレクが見つけたそれ。

 

 おあつらえ向きに用意されていた全身鏡に目を向ければ……再度の変質を遂げた己の身体が、上から下まで映っていた。

 

 

 ――未だ違和感の強い美少女の様に、特大の乳房が()えている。

 胸元の布地が悲鳴をあげるほど持ち上げられ、上衣――元は鎧の下に纏っていた男物であり、体格差から相応に長かったはずのそれ――は寸足らずとなりヘソが思い切り露呈(ろてい)して。

 

 これまではなだらかそのものだった胸部に、悩ましげな曲線が……それも、特大の膨らみが(しょう)じていた。

 

 

「……参ったな」

 

 アレクは両の腰に手を当て、前面がより鏡に映し出されるよう胸を張ると、自身の変化を確かめる。

 

 アレクは相応に色を知る男であり、豊満な乳房は大好物だ。

 

(けど、自分に生えたところで嬉しくはないな)

 

 そう、思わず溜息を零すものの、鏡の内に映るそれ。

 自分の物とは思えない姿――『女』は、抗いがたい魅力に満ちていた。

 

「…………」

 

 絹のような金色の髪は元のそれと似ても似つかぬ美しさを纏い、手入れの作法など知りもしないが、維持するためなら覚えてもいいと感じるほどに華やかで。

 

 肌も白く、やや幼気(いたいけ)ながらも整った容貌(ようぼう)は男の――元男であるアレク自身の――目を惹くもので、受付嬢に手渡された鏡で見た際から、顔もまた彼の好みであった。

 

 相も変わらず、目元が特に険しいものとなってはいるが、表情を崩さぬことでむしろ魅力を引き立て、流れる金髪と細めた瞳が絶妙な調和を成している。

 

 

 だが、あくまで美しいと感じるのみ。

 アレクにとって、自分自身ということを抜きにしても性の対象にはし辛いと感じるほどに、子供染みた体だと感じていた。

 

 

 こうして、胸元が特大に膨らむまでは。

 

 

「……うぅむ」

 

(自分ということさえ忘れたなら、なんともそそる女だな)

 

 思わずそう唸るほど、突如として胸が生じたことでアレクの身体は、彼の性癖的に完成した存在となっている。

 

 目つきこそ険しいものの華のある相貌(そうぼう)と滑らかな金髪に、これまで平坦だった胸板が立派な乳房と成ったことで少女から女へと色を変え。

 

 その上で、アレクはしかめ面の爆乳美少女が自分自身だと未だ受け入れてはおらず、だからこそ顔にも身体にも、どうしても魅力を感じてしまう。

 

「…………」

 

 

 しばしそうして見惚れた後、アレクは試しに、と……生じた胸へ手を添えた。

 

 

「……ふむ」

 

 重量感と釣り合わない柔らかな感触が、掌の上でふわりと弾む。

 

 己の手で乳房に触れる感触そのものは、覚えがあった。

 だが、そうして触れたものが自分自身のそれであることは完全なる未知。

 

 アレクにとっての未知が……触れられた感触と、男の頃、己の胸板に触れたのとはまるで異なる刺激が、胸から内へと伝わった。

 

(思ったより感触が強いな、少し触れただけだというに……)

 

 輪郭を確かめるようになぞり、感触を味わうよう指先に力を込め。

 柔く揉み、少し強め、服越しに伝わる乳首の存在をしっかりと感じて。

 

 

「……これはまた……っ、ん……うぅ、む……♡」

 

 

 新鮮な心地よさに、表情がより(しか)められた。

 

 想像以上に刺激を感じ、こんなことならもう少し優しく揉んでやればよかったか、とこれまで自分が抱いた娼婦を思い返し、過去と現状の差異に気分が落ちて……それでも変わらず、より強まる性感に、やや戸惑い。

 

(……こうも、鋭敏なものか? 罠によって生やされた胸だからか……いや……)

 

 それでも、思考とは無関係に止まらぬ両手。

 凡人ならそのまま浸りきるであろう甘い感触に晒されながら、それを手ずから産み出しながら……。

 

「んっ……♡ く……しまっ……!」

 

 その強靱極まりない精神力で、自身の状況を掴み取った。

 鏡の内で頬を赤らめた美少女の、自分の様を睨みつけ……こうも浸るほど油断をするなどありえない、と。

 

 

(……ぬかった! この鏡そのものが"罠"だっ!)

 

 

 迷宮探索の最中に自分自身を慰めるなど、考えたことすらない。

 いくら身体が変質したとて、精神は未だ元のまま――だと、未だアレク自身は信じている――である以上、自慰に興じるはずがない。

 

 

「ぐっ……ッん♡ っ、う……くそ……っ!♡」

 

 

 尤も、気付いたところで止められるような罠ではない。

 

 まるで自分のものではないかのように……未だ、自分のものだと納得を抱いていないことも作用して、どれだけ険しい表情を浮かべようと手の動きは止められず。

 

 むしろ、鏡の内で拒むよう眉根をゆがめた美少女がより性欲を煽るよう、確かめるよう揉んでいた手は、いつからかはっきりと揉み潰すそれへと変化して。

 

「ふうぅッ、ぐ……♡ 見惚れている場合では、ないだろうに……っ♡」

 

(目を逸らすこともできないか、まったく、冗談じゃない)

 

 分析を試みる最中にも、鏡の内では険しい表情で堪える少女が頬を染め。

 それどころか、自分自身がしっかりと乳房を慰める姿まで、上から下までつまびらかに映され、それもまたアレクの性欲をほんの僅かに刺激する。

 

「ぐ、ぅう……っ♡ っ、ふぅ……っ!」

 

 アレクは実直な、そして誠実な男であった。

 女と触れ合う際は相手が娼婦であっても最低限の礼は捨てぬよう、言ってしまえば控えめに欲を満たすよう努めてきた。

 

(オレでさえなければ、見応えのある鏡像だな……)

 

 だが、だからこそ。

 拒み、睨みつけるような表情もアレクとしては好みであった。

 

 それを引き出すような行為を避けてきた彼にとって、中々お目にかかれない(へき)の具現化。

 

 浮かべているのが自分自身でさえなければ、アレクにとって悪くない光景に他ならず。

 

「はっ♡ ぁ……っ♡ ッ……くっ……」

 

 視覚からも興奮を煽られながら、手ずから施す刺激にも、緩やかな快感が少しずつ蓄積され、膨らみ……肉棒を扱くのとは異なる高まり方で身体の内を埋め尽くす。

 

(女の、快感か……男の性欲そのままに女の身体を得ると、こうも……っ、悔しいが、悪くない……気を抜くと、溺れかねないな……)

 

 アレクは荒く呼吸を繰り返しながら、思いも寄らない昂揚に戸惑いと理解を合わせて示し。

 

 だからこそ、登り詰める前に行為を止めねばならないと。

 

 

「ううぅ……♡ いい加減、止めねば……っ、……ッ!?」

 

 制御できぬ身体を、その主導権を取り戻そうと歯を食いしばり唸っていると……アレクの耳に吐息や衣擦れとは異なる物音が。

 

 

 素足が石床と踏みしめる音が、耳に届いた。

 

 

「っ……オークか……!」

 

 

 危機に(ひん)し、流石に脳から色も失せ。

 アレクは音から伝わる重量感に接敵したそれを判じながら、呪縛を上回る焦りと警戒。後は純然たる気合いを(もち)い、身体の制御を取り戻すと地に刺した剣に手を伸ばす。

 

「くっ……!!」

 

 その存在感を頼りに余韻でもたれた身を預け、反転。

 腕どころか足腰に響く重量をなんとか引き抜き、持ち上げ……今のアレクに可能な範囲での、最高速で。

 

 これまでなら持つどころか両断を終えていただろう時間をかけて、無理矢理に剣を構えたアレクの前には推察通り、棍棒を手に迫る巨体が……オークの姿が、目前にまで迫っていた。

 

(出遅れた……っ! ただでさえ動作が遅れるというのに……)

 

 アレクは目の前のオークを睨みながら、剣を持つ手に膂力の全てを注ぎ込む。

 

 体躯が縮みきった影響で扱いに難儀していた愛剣はこれまで以上に言うことを聞かず、身体の前に構えることすら叶わずに……細腕を震わせながら、下段にて構えることが関の山。

 

 ――辛うじて振り下ろすことができるだけ。

 

 戦で求められる速度を乗せて振り上げることは難しいと、そのことは既に、これまでの探索で散々思い知らされている。

 

「ぬぅ、ぐ……っ!!」

 

 その、ただでさえ難儀する振り上げに……まるで速度が乗らなかった。

 

 軌跡を目で追えるほどの、緩慢(かんまん)とさえ言える一振り。

 そんなものは回避するまでもないとばかりに、身のこなしだけで切っ先を見送るオークの様を睨むことで注視しながら、アレクは腕に力を籠める。

 

 だが、追撃に移ろうにもこれまで以上に言うことを聞かない身体では、アレクが求めるだけの力を出すことも……それを剣に伝えることすら叶わない。

 

(くそっ! 腕の可動域も、重心も噛み合わんっ!)

 

 つい先ほど、確かに見惚れた己の乳房が、一言で言えば邪魔であった。

 その上、アレクの消耗――特大の乳房を生やすための脂肪を産み出すだけのそれ――が激しく、思うよう身体も動かずに。

 

「なっ!? しま……ッ!!」

 

 落ちきった握力では剣を支えることすらできず、振り下ろすどころか手元から剣がすっぽ抜け、地面の上を転がった。

 

「グゥウゥフ……ッ!!」

 

 結果として無手と化したアレクの様を――否。

 剣を手にする前後、終始……元より、目の前の女は無害な獲物だと認識していたオークが、丸太のような腕をアレク目掛けて振り上げる。

 

 

「ッ! がっ……!!」

 

 

 身を守ろうと掲げた腕ごと、叩きつけるような打ち下ろしがアレクを襲う。

 正面から殴られたなら、どれだけ吹き飛んでいたか分からぬほどの一撃は、アレクの抵抗を許さぬどころか、全身を床へ打ち付けるのに充分すぎた。

 

 地を跳ね転がされたことで剣との距離こそ近付いたものの、その分、叩き付けられた衝撃で全身に痛みが迸る。

 

「ぐっ……この、程度で……っ!?」

 

 

 それでも、と。

 アレクが立ち上がろうとするより早く……その足がオークの腕に捕まれた。

 

 

「ッ……!!」

 

 元の身体ならまだしも、今の……羽のように軽いそれでは、オークの膂力に抗えない。

 

 ――棍棒をそうするよう幾度も地に叩き付けられ、絶命する。

 アレクにはオークがするであろう行動も、その末路にも覚えがあった。

 

「……くそッ!!」

 

 想起した末路を避けようがないと、覚悟を決める。

 

 全身を強張らせ、少しでも身を守ろうと。

 その結果目を閉じてしまうとしても、一撃さえ耐えたなら、二撃目との隙間にまだ勝機は残るハズだと……。

 

「っ……!」

 

 

 目を閉じたアレクに、覚悟した打撃が。

 死が、訪れない。

 

 

「……?」

 

 想定外の空白に、アレクが恐る恐る目を開くと……オークの手が、己の着衣をつかんでいる様が視界に映る。

 

「は……?」

 

 

 次の瞬間、胸元から下腹部へ。

 上衣も下衣もまとめて引き裂かれ……内の裸身が暴かれた。

 

 

「なっ、あ……? へ?」

 

 露わになった裸はアレクが想像したよりもずっと華奢(きゃしゃ)で、そして麗しく。

 顔や手のひらと同色の白い肌はそのまま豊満な乳房を彩り、その頂き、これまで生きてきて見た覚えがないほど色素の薄い乳首はあまりに小振りで、理外の豊胸は乳輪の成熟を加味せず行われたと伺えた。

 

「ぁ……なッ!?」

 

 

 アレクは自身の裸体に思わず欲を煽られた後、その意味を。

 自分が衣服を引き裂かれた理由と……その先に、ようやく気がついた。

 

 

「ふッ、巫山戯(ふざけ)るなっ! 男相手に何を……ッ!!」

 

 ――ただ、身体が変質を遂げただけ。

 そう現状を処理していたアレクは手ずから胸を揉み潰しても、そして今、こうして裸体を見てもなお、まだ、自分を男だと思っていた。

 

(……あッ!? そうか、オレは今……)

 

 

 言葉として吐いた直後、改めて身体が女と成ったことを。

 それが意味することを――理解する。

 

 

「ッ! いや待て、冗談じゃないッ! 止めろ馬鹿っ! ッ……くッ!!」

 

 

 なんとか拘束を逃れようと身を捩るも、掴まれた足はビクともしない。

 それは片手を離したところでなんら変わらず、オークの手は暴れるアレクを気にも止めずに両足首をそれぞれ掴むと、そのまま、いとも簡単に股ぐらを思い切り割り開く。

 

 だが、掴まれたのはあくまで足先のみ。

 この程度の拘束、いくらでも抜けられると思った直後、今の身体では無理だと結論付ける。

 

「グフッ……フッブフ、グフゥウゥ……っ!」

 

 アレクが、気にも止めてこなかったオークの呻き。

 今や、それがやけに不快で……これまで感じた覚えのない恐怖を誘い、背筋が凍るのを感じていた。

 

 今まで幾度となく見てきた女たちは。

 魔物に敗れ、辛うじて命のみを持ち帰った敗者達は……これを、受けてきた。

 

「っ……くそ……っ!!」

 

 立ち向かえ、立ち直れと言うのも酷だと改めて思いながらも、アレクは甘んじて受け入れることはできないと、せめてもの抵抗を試みる。

 

 必死に拳を振り上げ、目の前。

 この体勢でも十分に力を籠めることができるほど適度に離れた胸板へ叩き付ける。

 

「離、せ……っ! このッ、発情するんじゃあないっ!!」

 

 だが、どれだけ殴りつけても意ともせず、オークはただいきり立った男根をアレクの股ぐらから離さない。

 

 アレクは元々、一体多などを踏まえた上で武器を振るっていたに過ぎず、オークどころかオーガが相手だとしても素手で渡り合える男だった。

 

「や、めろっ! 待てっ! っ……くそっ! 止まれ……っ!!」

 

 その豪腕も、今やか弱い女の細腕。

 幾度胸板を殴りつけても動きを止めることはおろか、怯ますことすら叶わずに。

 

「い、いや待て、待てよ。さすがに……それはちょっと、洒落(しゃれ)にだな……」

 

 アレクの自認は、未だ男。

 それがオークであろうが、ゴブリンであろうが、その辺の男だろうが、美丈夫(びじょうふ)だろうが、醜男(ぶおとこ)だろうが。

 

「く、そ……ッ! これは……死ぬより、キツいぞ……っ!」

 

 

 どのような存在であっても、ただひたすらにおぞましく、不快でしかなかった。

 

 

「待てッ! おいっ、聞け! やめろッ、やめて、くれ……ッぐ!!」

 

 幾度となく胸板を殴られながらも、オークは一切怯むことなく、添えたモノをそのまま押し進め。

 

 

「――――――――ッ!!」

 

 

 アレクの、作りかえられたばかりの股ぐらを。

 指先はおろか、視線すら向けたことのない未踏の純潔を……無理矢理に、割り裂いた。

 

 

「がッ、ぁ゛……!!」

 

 

 幸か、不幸か。

 アレクの不快感など消し飛ばすほど、耐え難い苦痛が胎に生じる。

 

 より正確には今正に破瓜した膣口がひたすらに痛むが、貫通し膣奥まで打ち据えられた今、痛みがどこで生じたかなどアレクにとって些事(さじ)でしかなく。

 

「うぅ゛……ぐッ! ッ……う゛ッ、ぁ……!!」

 

 そのまま、オークが遠慮のないピストンをはじめたことで、絶望どころか思考を重ねる余裕さえアレクの頭から奪われた。

 

「ぎッ、ぃあ゛ッ! ぐッ! あァ゛ッ!! はッ……お゛ォおぉッ!!」

 

 自分自身が女になり魔物の逸物に犯される状況は身にも心にも理外の苦痛を叩き込み、痛みの他に知覚できるものが失せるほどに感覚を鈍らせ……だが痛みだけなら、慣れてさえしまえばある程度なら耐えられる。

 

「ンン゛うぅッ! ぎぃ……ッうぐ、ぁッ! あッ……ッぐ、ううぅう!!」

 

 愛撫どころか興奮すら微塵もない状態での、剛直による破瓜。

 その激痛は、アレクにとって『ある程度』の範疇を超えることなく。

 

 数度のピストンで痛みにも慣れ、思考する余地を取り戻した。

 

(……痛みは、凄まじいが……恐らく行為で死ぬことはあるまい。だが、止める術が……ッ!)

 

 気を確かに保ったまま、アレクは腰を振る豚鬼を睨みつけ抵抗を試みようとするものの、その術は身体どころか喉にすら残されてはいなかった。

 

「ぐ、ぅう……ッ! や゛めッ!! ふぐゥッ!! ッこ、の……っ!! はがッ! う゛ッぐ! ぐぅう……ッ、ァああぁあっ!!」

 

 悪態を吐くことすらままならず、オークが腰を打ち付けるたびに息が詰まる。

 

 内臓を内から殴打されるようなもの。

 事実、その通りの行為を浴びながら、アレクは己の状況を解釈し、嫌悪と絶望を感じながらも……同時に、だからこその冷静さも残していた。

 

(今もだが、終えた後も抵抗する手段がまるで浮かばん……叶うなら斬り殺したいところだが、満足に腕も振るえぬ状態でこうも、下腹部をヤられては……まともに動くことも難しいな)

 

 アレクはそう、どこか他人事のよう己の状況を鑑みることで、気をやらぬよう意識する。

 

 

 もっとも、そのような努力をせずとも……まるで開発のされてない未踏の膣を、暴力で陵辱されて達するなどと、よほどの才がなければ叶わぬが。

 

 

「ぎ、あ゛ッ! ぐ、ぅ゛……おッ! おッ……ぐぁ、あァアッ!!」

 

 現に、アレクにもそういった才は、快感を感じる余地はない。

 ただ激痛と嫌悪感のみに支配された時間が、アレクの精神、そして身体を。

 

 華奢でしかない細い腹部を絶え間なく襲い、突き穿つ。

 

「ぐぅううぅ……ッ! う、ぎッ……いッ!? あ゛……っ、あ……ッ!!」

 

 アレクは自身の、まだ自分のものという感覚の乏しい腹が歪に膨らみ、元の形を取り戻す様にオークの動きを視認しながら……その頻度が小刻みなものになっていると気付く。

 

 

 ……気付いてしまった。

 

 

「ッ、ぐ! う、そだろ……ッ! ま、待てッ! やッ、めろ……ォッ!!」

 

 

 射精が近いと理解したアレクが、必死に拳を打ち付ける。

 先のそれ以上に力の篭もったそれも、オークからすれば差異はなく。

 豚鬼は生殖本能ただひとつに全てを支配された腰振りに少しずつ勢いを乗せていき、アレクの膣内を容赦なく蹂躙しながら終点を。

 

 

 膣内での射精を目指して、腰を振る。

 

 

「ぐァ゛ッ!! が! や゛ッ、め! やめ゛、ろォッ! おごァッ!! ッ! う、動きを、速めるんじゃない……ッ! どめッ……ぐぅ、おォォおおッ!!」

 

 アレクは両の拳を何度も、何度もオークの身体へ打ち付ける。

 普段の冷静さを――この状況で保つという前提がそもそも成立しないが――残していたなら、それが何の意味もなく、それどころか逆効果だと瞬時に理解したはずの無意味な行為。

 

「グブゥウウゥ……グゥウウゥウゥ……ウウゥルォォオオォッッ!!」

 

 獲物のか細い抵抗に、オークがより興奮を強めたかのよう鼻息荒く最高速のピストンをただひたすらに繰り返す。

 

 その果てにある射精は。

 膣内へ行われるであろうと確信できる終幕は。

 

「あがッ、ァァあッ!! ぐッ、そォお゛……!! あ゛ぐ! うぐ、ぎ……ッ!! や゛ッ、あ゛ァあッ! だ、すなァッ! ッ、がァあぁッ!!」

 

 今のアレクに持てる手段の何を用いたところで、どう足掻いても決して……避けることは叶わなかった。

 

「グブゥウ……ッ! ブフゥウウゥウゥッ!!」

「ッ……!!!!」

 

 

 またしてもアレクは、自分の身体が爆ぜ散ったと錯覚した。

 

 

「ぎィ、いィい゛ッッ!!」

 

 

 己の内に人のそれと比にならない大量の精液を注がれ、既に限界以上に膨らまされたと感じていた腹が倍以上、内に何かを含めていると傍目にも瞬時に分かるほど通常ではありえない膨張を見せ……胎もまた、納めた濁流にされるがまま、跳ね、震える。

 

 つい先ほどようやく知覚したばかりの、これまでに無かった器官。

 子宮を思うがまま陵辱され尽くす感触は、破砕と錯覚するに充分な苦痛をアレクの脳へ叩き込む。

 

「ッおォォおおぉ……ッ!! がッ、う゛ゥ……ッ、ふぐゥう゛うぅッッ!! ぐうぅう゛ッ、あッ……! が! ッ……ァあ゛アァああ゛ぁあーーーーッッ!!」

 

 膣内を、オークが解き放った白濁に蹂躙されるのを感じながら、アレクは堪えきれぬ痛みと嫌悪に遠吠えを挙げることしかできなかった。

 

「ぐッ……がッ……ッ! ぐ……う゛ォおぉ……っ!!」

 

 腹筋が消え失せ、華奢で細身だった己の腹。

 それが肉棒で膨らまされた時以上に、内へ注がれた精液で膨れあがる様を視界の端に映しながら、アレクは物事を思考する余地さえ奪われるほどの激痛に身を跳ねさせ、それでも、歯を食いしばることで必死に堪える。

 

 注ぎ込む側なら覚えがあれど、これまで思考したことすらない注がれる側の感触。

 

「んぎィい……ッ!! うう゛ぅう、ぐ……ッ! がはァあッ!!」

 

 

 それを無理矢理に叩き込まれた後、一仕事終えたオークの巨根が乱雑に引き抜かれるまでの一部始終。

 

 

 その全てを、睨む眼に焼き付けた後……アレクは改めて、変わり果てた己の腹部に目を移す。

 

「はっ、ぐ……! う゛ッ……! くッ……そォ……っ!」

 

 引き抜かれてなお、以前より膨らんだままの腹部。

 視覚からはもちろんのこと、伝わる感触からも、アレクは身体を内から押し広げる体液の存在を否が応でも感じてしまい……悪態(あくたい)を呼吸と共に吐き漏らした。

 

(これは……最悪だな……)

 

 内に残る体液に、心底からの嫌悪感を抱きながら。

 弱々しくもはっきりと睨みつけるアレクの目に、オークが浮かべる醜悪な笑みと……その直下で震える、精の名残が色濃い男根を差し向ける。

 

「グフゥ~~……ッ、フゥウウゥ……グブゥウウゥ~~……ッ」

「くッ……! い、いかん、このまま、では……っ!」

 

 魔物の類が、一度射精した程度で行為を終えるはずもない。

 アレクは知識のみで知り得ていたそれを目の当たりにしながら、何としてでも逃れようと傷ついた身体に鞭を打ち、オークから身を離さんとわずかに前へ。

 

「ぐっ……うぅ……っ!!」

 

 立ち上がることは叶わず、膝を使って身を捩る。

 少しでも距離を取ろうと床を這いずり、目の前……取り落とした愛剣へ震える手を伸ばしながら、必死に身体を、ただ前へ。

 

(足腰が立たん……っ、こんなの、尻を振って誘ってるようなものだ……!)

 

 理解したところで、どれほど改めようと試みても身体は言うことを聞かず。

 それでも剣さえ手に取れば或いはと、アレクは必死に手を伸ばし……。

 

 

「……は?」

 

 

 ――カチり、と。

 弱々しく伸ばした指先が、それに触れる。

 

 

「しまッ、こんな時に罠を……ッ!!」

 

 

 次の瞬間、アレクの目に映る景色は。

 そして彼自身の体勢も、何もかもが変化した。

 

 

◇◆◇

 

 

「ぅ……っ! 転移罠か……ッ!?」

 

 次にアレクが見たものは……四方を包む肉の壁。

 

 薄桃、紅、紫、偏った色彩に彩られた無数の管が全周囲で蠢き、それより生えた先端がアレクへと……四肢を大の字に拘束された身体へと鎌首(かまくび)(もた)げ、粘液に濡れ光る様を見せつける。

 

「ぁ……え……?」

 

 この類の罠は、対象の性を発動の対象として感知する。

 

 当然、アレクも実物を見たのははじめてのこと。

 だが罠も、そして魔物としての触手に関しても知識として知り得ていた。

 

 魔力、もしくは卵子、果ては別の何か。

 ただ搾り尽くすための触手罠。

 

 

 ――それが、女をどのように嬲るのか。

 

 

「……は、は……っ」

 

 笑うしかなかった。

 オークに犯られるより多少はマシかと、自分を慰めるのが関の山。

 

 ――他者の助けなくては抜け出せない類の、ともすれば致命的なものとなり得る罠を踏んだこと。

 

 ――そして自分は、今から……胸を揉むなど比にならない悦で灼き尽くされる。

 

 アレクは、蹂躙がはじまると理解して。

 期待はもちろんのこと、警戒も不安も、一切合切『先』への感情を抱くことなく。

 

 

 ただひたすらに、恐怖した。

 

 

「ッ!?」

 

 見せつける目的は果たしたとばかり、触手たちが一斉にアレクの身体を絡め取る。

 

 既に取り込んだ四肢ではなく、剥き出しのそれ。

 

 身動ぎのたび震える乳房、その頂きで色づいた乳首。

 陵辱の跡が色濃い膣穴、そうした行為は勿論のこと、変質した後に限れば排出ですら未使用な肛門。

 

 そして……余韻に天を向くも未だ皮の内に留まるクリトリスと、その直下。

 同じく、変質後は未だ使われていない尿道も。

 

 

「な゙ッ! あ゛ひッ!?♡ う゛ぎゅッ♡ ぎゅッぐ♡♡ ッンン!!♡♡」

 

 

 大小太細(ふとぼそ)様々な触手たちが掴み、絡め、摘まみ、潜り込み、塞ぎ。

 一瞬の間に、あらゆる全てを支配下に置くと……なにひとつ躊躇のない蹂躙を

開始した。

 

 

「ッひゅぅうッ!!♡♡ うお゛ッ♡ ォおぉおぉッ!?♡♡ ッくゥおォおおおぉおオォオォオォーーーーッッ!!♡♡♡」

 

 膨らんだばかりの胸は、触手たちにとって格好の餌場でしかなく。

 

 根本も先も、谷間すらも己が住処とばかりに潜り込み巻き取った触手達が柔く締め付け、纏う粘液を擦り付けながら揉み潰し、跳ね上がった乳首を瞬時の内に咥え込むと内の触腕で絡め取り。

 

「お゛ッ、ぁ……♡ はぎィッ!?♡ ふぎゃァあぁァああッッ!!♡♡」

 

 包皮に守られ、大気にすらまともに触れていなかったクリトリスもまた同じく。

 

 剥くことすら省き、直で皮の内へ潜り込んだ細長い触手達が食むべき餌とばかりに咥え込むと、内包した細かな触腕で噛み付くかのよう掴み、引き、暴力的な勢いで扱きだす。

 

「んんぐゥうぅッ! うぅ、ぎ……ッ♡ っォォおおぉおぉーーッ!!♡♡」

 

 この身体と化してから、そして男であった時分から手付かずだった肛門も。

 

 予兆なく貫かれたそれは、苦痛と感じるより早く結腸の中程までも貪られ、排泄を覚えるより早く、通常ありえぬほど奧深くまでを蹂躙された。

 

 同じく、排尿を意識することも、失禁さえも許されず。

 未だ何ひとつとして零していない尿道もまた、膀胱までも繊毛状の触腕に埋め尽くされ、道も源泉も構うことなく獰猛なピストンに掻きむしられて。

 

 

 もっとも、アレク自身はそれが尿道を責められた感触だと、最後まで理解することができなかった。

 

 全身で生じる快楽に翻弄され、その発生源が想定よりも数多いことなど思考に混ざる余地はなく、快感と苦痛、それ以外を意識する隙間は何処にもない。

 

 

 ただ、一箇所。

 他の何処よりも熾烈な悦が生じる箇所だけが、アレクの思考を埋め尽くす。

 

 

「ふぎゅゥうぅ゛ッ!♡♡ う゛ゥうぅ゛ぐッ♡ ぐ、ァあ゛ぁあッ!!♡♡ はがあァあッ!♡ あァアァーーーーッ!!♡♡ アアァあぁーーーーッ!!♡♡」

 

 女性器。

 つい先ほどオークにより嬲られた際は痛みしか感じなかった急所に様々な触手が殺到し、入り口も、膣穴の奥深くも。

 

 加えて、先端より伸びた極細の触腕がうねり、矮小な穴を押し広げることで……精液塗れの子宮内までも、悉くが嬲られる。

 

 

「ぐァアあぁッ!!♡ はぎッィい♡ あ゛ッ!♡♡ がァあぁはッ!♡♡ はぎいい゛ィイッ!♡ ッごォう゛おおォおぉ゛ーーーーッッ!!♡♡♡♡」

 

 

 それら全てから生じる、先に触れた際とは比にならない快感。

 ペニスを手ずから扱くのとも、先に一瞬感じた女の身体での悦とも、どちらともまるで異なる雌の快感に、アレクはただ吼えることしかできなかった。

 

 

 あくまで、生まれたての身体である。

 迷宮の罠はアレクを女体と変える際、性感に関しては並程度のそれに留めていた。

 

 完全に未開発の身体は本来、よほど丁寧に愛撫でもされぬ限り快楽が芽生えることもなく。

 

 

 だが、今は……。

 

 

「ぐゥううぅううぅうッッ♡♡ ふんぎゅッ♡ ぎゅゥううぅ゛ゥッ♡♡ うあァあああああぁ゛ッ♡ アアァああんん゛ッ♡ んァあ゛ァああーーーーッ!♡♡」

 

 開発の有無も、素質も一切構うものかと。

 触手達は有無を言わさず纏う粘液、強烈な催淫作用で感度を(とろ)かす媚薬、否、もはや媚毒としか呼べない劇薬を塗り拡げることで性感を跳ね上げ、鋭敏な急所と変えられた全身を余すとこなく嬲ることで、無理矢理に快感を叩き込む。

 

 絶頂どころか、快楽を与えることすら目的ではない。

 獲物の無力化のみを計った、悦の形を成した純然たる暴力。

 

 

「おおォォおォおおぉッ!!♡ んォッ♡ お゛お゛おぉッ!!♡ おぉぐッ♡ うう゛ぅぅうーーッ!♡ ぅうォォおおおぉおおぉーーーーッッ!!♡♡」

 

(ふざけるなっ、抗えるかこんなモノっ!!)

 

 

 堪えるという思考ごと消し飛ぶほどの、猛烈な絶頂に登り詰める。

 アレクがそれを覚悟し、いっそ諦め受け入れてしまうかと惑った瞬間。

 

 

「ぴぎゅッ!!♡♡♡♡」

 

 

 ――全身が、痺れた。

 

 

「ぎィひッ!?♡ お゛ォッ♡ ぐゥ……ォォお゛オォお゛おお゛ォッ!!♡ あがあ゛ァあッ!♡ ががッ♡ ッぶァあ゛ァあ゛ァあーーーーッッ!!♡♡」

 

 表層から神経、それどころか器官の奧深く、内臓全てを責め立てようとばかり電流がアレクの内を貫き、神経に直接悦を叩き込み、無理矢理に性感を引き出さんと激痛を伴い、迸る。

 

 アレクはただただ、絶叫することでそれに応えた。

 

「ぎゃォおッ♡ おォ゛おォ゛ッ! ほごッ♡ ンン゛ごォォおおぉッ!!♡」

 

 直接『快楽を抱け』と命じるかのよう、電流がアレクの神経を灼き尽くし、身を焼かれる煉獄の苦痛と、楽園にも勝る悦とをアレクの脳へと流し込む。

 

(なんだコレはっ、こんな感覚が有り得ていいのかっ!?)

 

「ぐぎぎ……ッ、ぎ……!!♡ ぐゥううぅんぅううッ♡♡ んぐゥうう♡ オオォおぉ゛おぉッ!♡♡ ほごォッ♡♡ ッおおォおおぉーーーーッ!!♡♡」

 

(いや違うっ、有り得ないを叩き込まれている、こんなモノ、もはや餌にする振る舞いとも思えん、ただ破壊を目的としているとしか……)

 

「おおォ゛んおォ゛オォッ!♡♡ んォお゛オォッ!!♡♡ ッお゛ォおおおおおおおぉおぉーーーーッ!♡♡ あおォお゛オォおぉーーーーッッ!!♡♡♡♡」

 

 

 アレクはこれまでずっと細めていた瞳を、本来の大きさ以上に見開いて。

 自分自身が涙を流していると自覚する暇さえないほどの激流に、実感なきまま数年ぶりの涙を流しながら、ただただ『刺激』に翻弄された。

 

 

(痛みなら、快楽よりもずっと耐えられると思ったが、これは……っ)

 

「がッ、あ♡ や゛っ、めろ……ぉおッ!♡ あぎゃッ♡ ぎゃあァあッ♡♡ いぎあ゛ァあッ!♡ ンアェッ♡ ぇ゛ひゃァあぁああぁーーーーッッ!!♡♡」

 

("同時"に与えられるのは、無理だ……ッ!!)

 

 

 いつからか、苦痛が消えていた。

 鋭敏な粘膜を抉られ、潰される痛みも、電流に灼かれるそれも。

 

 全ては、体内を駆け回る電流が。

 神経そのものを灼き溶かし、一切を快楽と誤認するよう身体の外も内も、その奧深く、機構そのものを焦がしていた。

 

「ぐォおおぉおぉッ!♡♡ おお゛ォッ!!♡ あがッが!♡ ぴぎッ!!♡ ぎぎぎ……ッ!♡ イイィいいぃいぃーーーーッッ!!♡♡」

 

 アレクは最早、自身の身体が痛めつけられていると知覚することすら許されず。

 

「うがァアァああぁあッ!♡ ああァァあぁあッ!♡ アァアァアアァッ!!♡ ッおおォおおおっごォおおぉおぉおーーーーッッ!!♡♡♡♡」

 

(頭が、割れそうだ。オレが、オレでなくなるッ!!)

 

「んおォォおおぉおぉおッ!♡ おおぉアァッ!!♡ あがァあッ!♡ がァァああぁッ!♡ っはがァあああああぁッ!!♡♡」

 

(これは、無理だ! 耐えるだ溺れるだ、そういう次元ではない!)

 

「ッァあああぁあぁあッ!♡ アァあぁあァああぁ♡ ああ嗚呼ァあああぁ♡♡ ッお゛ォォお゛おおォおおぉおぉッッ!!!!♡♡♡」

 

(オレは今、生死の境目に……いや……もはや、死の瀬戸際に……ッ)

 

 

 あくまでも、身体を弄られたのみ。

 その精神はアレクの、男としてのそれ、そのまま。

 

 

「おお゛ォお゛おオ゛ォオ゛ォーーーーッッ!! ぐゥぉお゛オォ!!♡ オオォおおおぉおぉッッ!! ッお゛ォお゛ォォお゛ォーーーーッッ!!!!♡♡」

 

 

 絶頂を声高に叫ぶ習慣がない彼はただ呻き、吼えることでそれを……無限に続き、決して降りられぬ絶頂に、身も心も灼き尽くされる淫獄へと堕ちていく。

 

 

「や゛ッ、べろ゛ォおぉッ!! ンン゛んッ!! ぎゥう゛ウゥ゛ッ♡♡ ぐうううぅひゅ♡ ひゅぐ……ッ!!♡ ォォお゛オォッ!!♡♡ ほぎょォォお゛オォおぉーーーーッ!!♡♡」

 

 

 手付かずの、粘膜こそ無事であるはずの鼻腔と耳腔からも鮮血を噴き、ぐるぐると乱雑に眼球を回し、口角から唾液と共に血反吐交じりの泡を噴き、思考どころか脳のそれすら、なにもかもを快楽と絶頂の処理に使い潰して。

 

 

 自分が何を叫び、何を噴いているか。

 そんなものはもはや、アレクにとって完全に意識の外側でしかなく。

 

 

 その意識は、今まさに尽き果てる寸前にまで堕ちていた。

 

 

「おごォオォおおぉッ!!♡♡ んん゛ォお゛ッ♡ ぎょはッ♡♡ はッぎゃあ゛ァああぁ゛アァアッ!♡ ぴぎッ♡ ぎゃッひィい♡♡ ぴぎゃァアァアッ♡ はぎゃァアァああぁ゛ァアーーーーッッ!!♡♡♡♡」

 

 それでもなお、性感帯に飽き足らず、身体そのものが常に絶頂へ晒され。

 決して降りることなきようひたすら、絶え間なく刺激と毒液が内と外からアレクの身体を破壊する。

 

 常人が辿り着くことなど決してない無理矢理な興奮に、限界をとうに飛び越えた勢いで跳ね暴れる心臓が埒外の鼓動を繰り返し、血液が沸騰したと錯覚するほど、毒の染み込んだ血流が全身くまなく駆け巡り。

 

 

「ぐォお゛オォッ!! ごぼッ♡ お゛ォごッ♡ ッがはァああぁあぁッ!! アァアァあああぁッ!! はががッ♡ ぎッ! ッぎびィいいぃいぃッ!!♡♡」

 

(――――ッッ!!)

 

「ふごォおぉッ!!♡ おォお゛ッ!!♡ ぎょァッ! あ゛!! が、ごッ♡ ォお゛!♡ オぎょ! ぎょァあ゛ッ!! ……ばッ!!!!♥♥♥♥」

 

 

 緩むことない責め苦により、快楽で滅ぼされた脳が本来の動作を放棄して。

 制御を失った肉体が。

 

 

「ッ……ッ……!! ッ、が……ッ♥ っ……」

 

 

 心の臓が、その脈動の一切を停止した。

 

 

 

 ――――

 ――

 

 

 

 ――その、直後。

 

「ッご♥♥ ッぎょほォ!!♥♥♥♥」

 

 一切を諦め、死の入り口に揺蕩う身体を……それでも、絶え間なく迸る電流が。

 全身を暴れ狂うそれが、停止した心臓をも跳ねさせた。

 

 

(っ!? ッ!! っ!? ぁ……!♥ ごぽッ!♥♥)

 

「ごっほ!! ォ……ッ!♥ お゛お゛ォお゛オォお゛ッ♥ ごォォおおッ♥♥」

 

 

 血流が戻ったことにより、身体が生還を果たしたのみ。

 淫獄に燃え尽きた脳は灼け落ちたまま、身体がわずか、反射だけで再動を果たした。

 

「お゛ッ♥♥ ッ♥ ぐぼッ♥ ごッ……っ♥ ぴぎゃァあぁッ!!♥♥」

 

 完全に破壊されながらも、その身体は死の安寧へ溺れることすら許されず。

 アレクの心臓のみが度を超えた陵辱によって止まる度に異常な脈打ちを取り戻し、繰り返す。

 

 

「ンぎゅぶッ♥♥ ッ……ぐぅうぐう゛ゥうぅ!!♥♥ ォ゛……ッ♥♥ ぎィ、ひッ!?♥♥ ッ……ぁ……ぎょォおッ!!♥ おごォォお!!♥♥」

 

(っ……♥ ッ……♥ っ! ッ……!♥ ォ……ッ♥ っ……♥♥♥♥)

 

「ッ! がぱッ♥♥ ぁ゛……ッ♥♥♥♥ ッ!!♥♥ お♥♥ ッ……♥」

 

 

 力尽きたアレクは最早、意識を取り戻すことなく。

 その身体だけが無理矢理高みへと押し上げられ、イかれた脳髄が灼かれるままに登り詰め、震え、叫び、絶頂し、絶命し、跳ね起き。

 

「……ッ!!!!♥♥ おお゛ォオごォッッ!!♥♥ ごぼッ!♥ ぶぷッ♥ ううぅ゛ううぅ゛ッ♥♥ ンン゛ぅううぅ……ッ!!♥♥ ッお゛ォお゛オぎょォおおおォォおぉおおぉッ!!♥♥ ごぽォお゛ォォおおぉッッ!!♥♥♥♥」

 

 

 ただ、動いているだけの肉塊はそのまま、機能ごと意思が、魂が朽ち果ててもなお、闇の果てへ堕ちることすら赦されず、いつまでも……いつまでも。

 

 

◇◆◇

 

 

「……ッ!! が、はッぁあ!?」

 

 アレクは、薄暗い石室で目を覚ました。

 先刻、女として産まれ変わった際と同じように。

 

「っ……そう、か……そう、だよな……あれは……死ぬ、よな」

 

 死の間際……もとい、絶命と蘇生を繰り返した最中の感触、埒外(らちがい)の悦とそれにより脳を灼かれた淫獄を思い返せる範囲で想起しながら、思わず自身の身体を抱き締めた。

 

 

 ――ぱち、ぱち、ぱち。

 

 

 軽く、雑に叩いたのみ、感情など欠片も篭もらぬ拍手の音。

 アレクは身を縮めたまま、その主に確信を抱きながら目だけを向ける。

 

「……お前か」

 

 

 視線の先には、女がひとり。

 頬を朱に、恍惚とした溜息を零した受付嬢が――エレフィナが、立っていた。

 

 

「おかえりー♡ 新記録樹立、おめでとー♡」

「新記録、だと……?」

「そーだよぉ♡ まず、一回の探索での最多死亡数でしょ♡ そしてぇ……女の子になってから最初の探索でデスアクメ(イキ死に)♡ どっちも前代未聞だよぉ♡ すっごい幸運♡ もしくは、不運♡♡」

 

 うっとりと笑みを緩める様は正に魔性。

 つい先ほど――自分自身でこそあるものの――とびきりの美少女が悦に頬を赤らめた様を鏡越しに眺めたアレクであっても、それと比較してなお美を感じてしまうほど、エレフィナは興奮を隠そうともせず、アレクの様を嘲笑う。

 

「いくら死んでもへっちゃらとはいえ、死んだ瞬間に蘇生、とはいかないからね。いつかこーゆーコトも起きるだろーなーって思ってたけど、実際に起きたのははじめてだよぉ♡ あなた、思ったよりずっと頑丈なのね♡ かわいそー♡♡」

 

 正しく、目の毒だと感じた。

 

 貫く術を失ったアレクにとって、情欲をそそるためだけの存在は。

 サキュバスは、例え受付嬢の制服を纏っていたとしても直視するだけ悔しさと、燻る喪失感を引き上げる毒でしかないと……。

 

「……む?」

 

 視線を逸らし、改めて己の身体を見下ろすと、引き裂かれ、ぼろ切れ未満の残骸となって散ったはずの衣服が元のよう――寸足らずでヘソが剥き出しとなる様まで忠実に――戻され、加えて、あと一歩のところで掴み損ねた愛剣までも鞘に収められ手元にあった。

 

「あっ、そうそう。いいもの見せてくれたから、その剣はサービス♡ 言っとくけど、ありふれた死に方だったらそーゆーことはしないから、気をつけてねー♡」

「……ありがたいことだが……しばらく、コイツは使えないな」

 

 ――振り回すには、膂力不足が著しい。

 試しの探索で得た結論がそれだった。

 

「おっ♡ それはつまりぃ~……女の子として生きてくってことぉ?」

「いや……いや、ある意味それに近しいかもしれないが。少し小さな剣に変えるつもりでな、この身体には少々コイツはデカすぎる」

 

 叶うならこの身体に見合った、自分用の武器を拵えたいところだが……量販品で当面は凌ぐ他はない。

 

「しばらくは貸し出しの武器を頼るとするか。嘲りも大概にしろと思ったものだが、こうなってはな……今は、その余裕に感謝しよう」

 

 アレクは男としての最期を迎えた際に、荷物の全てを紛失している。

 路銀(ろぎん)も失った今、元手なしで武器の新調が叶うことは彼にとって僥倖(ぎょうこう)だった。

 

「えっ、すごーい♡ 大ハズレ中の大ハズレ、えっげつない罠喰らった癖にぃ、まだヤる気なんだぁ♡」

 

 

 軽口混ざりの問い掛けに、アレクは一瞬……己の内を確かめる。

 

 

 まだ、迷宮に潜る気概があるか。

 今しがた受けたものと同じ、それどころかより手酷い陵辱を浴びるやもしれぬ淫魔の餌場に、贄でしかないこの身体で挑むことができるのか。

 

 それを自身に問い掛けた後、アレクシスは小さく溜息を零した後に顔を上げる。

 

「……逆だ」

 

 心底楽しげに、からかうよう笑むエレフィナを見上げながら。

 

「お前の言葉に嘘がなければ、オレはよほどの罠を踏んだとみる。逆を言えば、あれより酷いものは早々ないと言うことだろう?」

 

 アレクは渦巻く自分の心境を言語化し、それこそ……エレフィナではなく、自分自身に言い聞かせるよう、口から発することで固めていく。

 

「なら……耐えられぬものでもない。なにより、おかげで死に慣れた。死も蘇生ももはや既知、なんら恐れることもない」

 

 罠を喰らって奮起した、違う。

 

 罠を喰らって絶望したからこそ……歩み出すことができる。

 そう、自分自身を解しながら、アレクは確かめるよう己の拳を握りしめ、緩め。

 

 四肢が万全に動くことを確かめると、そのことに心底からの安堵を抱き。

 

「元のよう戦える身体となるまで、改めて鍛える……死が許される迷宮ほどそれに適した地もあるまい」

「……かーっこいぃー♡ そっかぁ、あんな目にあっても怖くないんだぁ♡」

「いいや、怖いさ」

 

 それでも、アレクは即答を返した。

 強がりに何の意味もなく、それを否定する材料はひとつたりとも手元になくて。

 

 何より……今しがた死で終えた探索の最中、どれほど恐怖を抱いたことか。

 

「身体は弱り、雑魚でしかった魔物が脅威となったうえ、罠には致命的なものもある。これまで挑んだ数多の迷宮よりもずっと恐ろしい……正直、今すぐにでも逃げてしまいたいと、頭の中はそればかりだ」

 

 オークと戦い、敗れ、その後、身体を穢されながら。

 そして無数の触手に幾重もの死と絶頂を重ねられ。

 

 その最中ずっと、アレクは明確な恐怖を自覚し、本能から恐れ、逃げ出したいとさえ思っていた。

 

 それを偽ることも、強がることも、アレクは決して選ばない。

 

「だが、それが叶わぬなら泣き言を喚く暇もない」

 

 ただ、アレクは……逃げるという術を、知らなかった。

 

「迷宮に挑まなくても生きてけるよ? 逃げちゃってもいーんだよぉ?♡ あなたみたいな人、何人も受け入れてきたからね♡ アタシの迷宮街はぁ、世界でいっちばん♡ 元男の女の子にやさしー街なんだから♡♡」

「言っただろう? オレには他の生き方などできんよ。華を愛でるも、華として愛でられるのも無理な話だ。ここで強くなるしか……オレを取り戻すしか先はない」

 

 

 そして、例え与えられても――それを選ぶことが、できなかった。

 

 

「男とスるのが無理なら、女の子限定のお花になるって手もあるよぉ♡ お金で女の子買いたいって子もたくさんいるしぃ……サキュバスばっかりだけど♡♡」

「それはまた、救いのある話だな? だが……やれる限りは足掻く。折れるなら、その後でも遅くはない……折れた花に居場所があるというのならなおさら、挑まねば損というものだ」

 

 軽口半分、本音半分。

 心が折れ全てに絶望したとしても、女の慰め者となるのならマシというもの。

 

 むしろ、それを知ったことで尚のこと、壊れるまで迷宮に挑み続けることが叶うと……アレクはより決意を固めながらようやく、久方ぶりに笑みを浮かべた。

 

「…………」

 

 その、不敵にすら見える笑みを見つめ、エレフィナの笑みが一瞬消える。

 そして、緩めていたそれよりもなお、一層強く……口角をはっきりと歪め、目元からも、妖艶なそれが消え失せた、心底からの悦を籠め。

 

 

「……キミ(・・)、いいねぇ♡」

 

 

 ――淫魔が(わら)う。

 捕食者のそれで、極上の餌を前にして。

 

 

「決めたっ。もしキミが全部諦めたその時は、迷宮街じゃなくってアタシ個人がもらってあげる♡ 特別待遇で受け入れるから、いつでも言って♡」

「ははっ、御免(ごめん)(こうむ)る」

 

 アレクもまた笑みを強め、目の前の上位者が……捕食者が己を獲物と定めたことに、警戒と……わずかな誉れを感じていた。

 

 玩具から、見応えのある玩具へと。

 ただそれだけ、だが確かな前進を感じ……いずれ全ての評価を覆して見せると、目の前の淫魔を見上げながら。

 

「……だが、特別待遇を望めるなら、そうだな」

 

 アレクは立ち上がると、手元のそれ。

 かつての愛剣を携え、これまでずっとそうしてきたよう構えを取る。

 

 ……重たかった。

 

 馴染んでいたはずの鉄塊はアレクを拒むかのよう腕に、それどころか背や腰にまでのし掛かり、まともに振るのは叶わぬと、改めて彼に知らしめる。

 

 アレクはそのことをもう一度確かめた後、愛剣を鞘に収めると……エレフィナに向けて差し出した。

 

「コイツを預かってはくれないか? 今は邪魔でしかないが……いずれ、お前を打つ刃だ、丁重に頼む」

「すっごいこと言うじゃん? ……いいよぉ♡ 大事にとっとく。キミがもう一度振れるよーになるか、ぜぇんぶ諦めるその日まで♡♡」

 

 エレフィナは笑みを絶やすことなく、アレクがなんとか持ち上げたそれをまるで小枝か何かのよう受け取ると、胸元に――たった今、いずれ自らを討つと言われたそれを、愛し子を抱くかのよう――抱き抱え、熱の灯った眼差しを彼へと向ける。

 

 その様に、なにひとつ応えることなくアレクは振り返り……夢幻迷宮の入り口へと歩き出した。

 

「もう行くのぉ?」

「ああ、死んだおかげで疲れも眠気もないからな」

「みーんなそうやって、カラダは元気だって心が磨り減るまで挑むんだよねぇ♡ そーゆーとこは平凡だねぇ……♡ ま、いーや♡ 精々頑張って♡♡」

 

 淫魔が嗤う。

 極上の獲物が足掻く様を、それが、それだけが悦びであると隠さずに。

 

 

「……無事のご帰還、心よりお待ちしておりまーす♡♡」

 

 

 嗤う淫魔の、軽口染みた見送りを黙殺し……アレクは迷宮へとひた進む。

 

 現状を最悪だと、心底から理解して。

 

 それでも、一かけの希望が残るなら。

 幾度おぞましい死を遂げたとしても、必ずそれを掴み取ると……覚悟と決意を胸に秘め。

 

 

◇◆◇

 

 

 その後。

 『暴風』アレクシスの名は二度と表舞台に現れない。

 

 ただ、これより数年後。

 無限迷宮を踏破し迷宮街エレフィナを平定した爆乳だらけの一行に、光輝く金色の髪を(なび)かせ、身の丈に不釣り合いな大剣を携えた剣士がいた。

 

 

 そして一行で唯一、冒険者ランクを持たなかったことからS級冒険者へ召し上げられた彼女――アレクサンドラの名は、末永く語り継がれることとなる。

 

 





 お読みいただきありがとうございました。
 ここすきなど、皆様からの反応を心よりお待ちしております。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【R18】俺が催眠術にかかるわけないだろ?ほらっはやくチンポ出せよ♡(作者:ハッピーうれピー)(オリジナル現代/恋愛)

幼馴染みの催眠術特訓に付き合わされることになったTS娘の主人公、ハル。▼「催眠術なんて絶対にかかるわけない」と高を括っていたのに、気づいたときには既に術中にハマって幼馴染み専用の性処理係にされちゃった!?▼自覚のないまま、幼馴染みの専属性処理係から、恋人へ、そしてお嫁さんへ……!?▼TS娘ちゃんがオホ声あげながら幼馴染みのお嫁さんとして幸せに堕ちていくなんて…


総合評価:1839/評価:8.66/短編:1話/更新日時:2026年05月17日(日) 20:03 小説情報

【R18】退魔巫女敗北 リウの思考阻害調教(作者:稲荷竜)(オリジナル現代/冒険・バトル)

退魔巫女リウは、思考阻害を受けて調教され、気付いた時にはもう敗北するしかない状態にされてしまった。▼※小説家になろう(ノクターンノベルス)にも投稿しています▼※ピクシブにも投稿しました


総合評価:462/評価:8.67/短編:1話/更新日時:2026年05月16日(土) 16:36 小説情報

【R18】聖女ルシエラの飼育員~おどおど気弱な牛乳聖女は噴乳アクメに泣き叫ぶ肛悦狂いの雌畜性女~(作者:紺真淡希)(オリジナルファンタジー/日常)

牛飼いメルクがが住む村には月に一度、聖女が浄化に訪れる。▼村に訪れる聖女――聖女ルシエラは小柄で容貌はあどけなく、されど聖女でもっとも大きな爆乳と、妊娠せずとも母乳を噴く体質の持ち主だった。▼ルシエラはその豊満な身体に外衣を纏ったのみの艶姿で村外れの牛舎へと赴き、牛飼いメルクに搾乳を依頼する。▼お馴染みとなっている搾乳行為をメルクもまた楽しみ、同時に、自分に…


総合評価:739/評価:8.76/短編:1話/更新日時:2026年06月21日(日) 00:01 小説情報

【R18】TS転生した女児が毒親のコネで違法なJr.アイドルになるだけのお話。(作者:東口ゆゆ)(オリジナル現代/ノンジャンル)

ひょんな事から小学生女児に転生してJr.アイドルに!?▼今世は超美少女だしヨユーっしょ! と思ってたら想像以上に身体を張る仕事でどんな時も笑顔でいないといけないし、アイドルって大変!▼そんな事を考えてた時期が俺にもありました。▼働きたくない母、無茶振りする事務所、逆らえないスポンサー。そんな大人達に振り回されてちょっと違法なJr.アイドルをするハメになった健…


総合評価:587/評価:8.29/短編:1話/更新日時:2026年05月13日(水) 08:00 小説情報

【R18】TS男子高校生が、イケメン幼馴染(♀)に分からされる話(作者:Name>>)(オリジナル現代/恋愛)

朝起きたら、超絶美少女になってた男子高校生が、バリタチイケメン幼馴染JKにバチボコに犯されちゃう話▼現在、番外編執筆中


総合評価:1803/評価:8.88/連載:2話/更新日時:2026年06月23日(火) 22:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>