が親友とえっちして最終的に闇堕ちするまでの話。

1 / 1



 属性過積載すき。





限界アラサー男の娘TS魔法少女

 

 空気の壁を破ることなく音を越え、飛翔する。

 

「あー…きつい…つかれた……つらい…つらいつらいつらい………」

 

『目標視認まであと5秒ハピ』

 

 月色の長髪は緩やかに靡く。

 風は肌を撫でることすらなく、耳元で鬱陶しい声だけが響く。

 

 眼下に見えてきたのは、高層ビルほどもある黒い巨影。

 

 怪物の咆哮とともに、周囲のビル群の窓ガラスが一斉に甲高い音を立てて粉砕された。

 

「はぁ………ルミナス〜〜……ホームラン!!!!☆」

 

 僕は眼前の標的に向かって、渾身の力でステッキを振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 20☓☓年。突如として日本に侵略者が現れた。

 

 奴らは『ネガスター』と名乗り、魔物『ネガモン』を各地へと送り込んだ。

 

 ネガモンは瞬く間に首都を蹂躙し、増殖。

 

 日本の保有する現代兵器は一切通用せず、防衛ラインは即座に崩壊。同盟国の支援による空爆ですら傷一つつけられず、絶望的な緊張感が人類全体を呑み込んだ。

 

 だが、そんな窮地の最中、第二の来訪者が現れた。

 

 彼らは『ハッピースター』からやって来た妖精だと名乗った。

 

 人類は新たな侵略者ではないかと疑い、激しく警戒した。あの様な化け物を先に見ていたのだ、当然のことだろう。

 しかし、ネガスター側の反応はあまりにも露骨だった。執拗なまでに妖精たちを抹殺しようと、容赦なくネガモンの群れを差し向けたのだ。

 

 決して平坦な道のりではなかったものの、人類と妖精──『ハピモン』は手を取り合い、共闘の道を選んだ。

 

 そうして誕生したのが『心装乙女(スターハート)』と呼ばれる超人戦士たち。

 言うなれば、魔法少女のような存在である。

 

 エモパワー──突然変異した松果体から分泌される特殊な粒子『感応子』。

 その数値が極めて高い少女のみが変身できるそれは、どういうわけか、ネガモンへ有効打を与えうる唯一の対抗手段だった。

 

 それでも、戦況が一気に好転したわけではない。

 

 ネガモン一体を屠るために必要な戦力は、心装乙女二人から三人。

 まだ十代の少女たちが次々と散っていき、戦線は泥沼の消耗戦になっていた。

 

 だが──そんな運命を変える一人の心装乙女が出現した。

 

 

 『心装乙女(スターハート):ルナプリズム』

 

 

 これまで多対一でしか倒せなかったネガモンを、彼女は単独で撃破してみせた。それもかなりの余力を残して。

 

 彼女の参戦から約半年、人類は首都の奪還を果たした。

 

 二年後にはネガスター本隊を壊滅させ、そのわずか三ヶ月後、ついにネガスター総帥を討ち滅ぼしたのだ。

 

 我々は戦争に勝った。地球外知的生命体との、初めての戦争に。

 

 とはいえ、ネガモンが全ていなくなったわけではない。

 

 何故か、ネガスターが滅んだ後にもネガモンだけは出現し続けた。出現頻度こそ減ったものの……。

 

 心装乙女たちの役目はまだまだ終わっていなかったということだ。

 

 ルナプリズムの背中を追うように他の心装乙女たちも切磋琢磨して力をつけ、今となってはネガモン退治はエンタメのようにメディアで取り上げられている。

 

 ランキングが制定され、人気の心装乙女はグッズなども販売されるようになった。

 

 まるでアイドルか、アニメのヒロインのように大衆の目には映っていることだろう。

 

 そして、そのランキングの頂点に君臨するルナプリズムの正体こそが────

 

 

 ───僕こと、美舟 千隼(みふね ちはや)。28歳、アラサー一歩手前の男なのである。

 

 

 

 

 

 

「みんな〜〜☆ 今日も応援ありがと~〜!☆」

 

 月を思わせる意匠があしらわれた、フリルのミニスカートを揺らし、今日も無敵のヒロインを演じる。

 

 ──ルナプリー! 今日も最高だったぞー!

 

 ──ビジュ良すぎ〜!こっち向いて〜!

 

 空気を震わせるほどの民衆の歓声。毎度のことだ。

 

 大きく手を振りながら最高の笑みを浮かべ、空へと飛翔する。

 

 もう十年以上こういう事を続けているのだ。いい加減慣れた。

 ……いや、嘘をついた。全然慣れていない。

 

 超音速飛行していれば溜息さえ置き去りにできる。だがこの疲労感と、言いようのない息苦しさだけは誤魔化すことができなかった。

 

 

 

 

 小学六年生最後の四月一日。

 

 あと数日で中学生になる僕は、新しい生活に胸を躍らせていた。

 

 駅前の文房具屋に寄り、中学から使用を許可されたシャープペンシルを選ぶ。電気屋の街頭テレビに流れるネガモン関連のニュースを横目に家路についていた、そんな時だった。

 

『そこの君!魔法を使ってみたくないハピ?』

 

「え……?」

 

 謎の生物に声をかけられた。

 

 猫より小柄で、ウサギのような耳を持った白い毛むくじゃら。

 額にはハート型の模様があり、背中には妖精のような羽根が生え、宙に浮いている。

 

 謎の生物は自らを妖精であると言う。当時の僕がそんな存在を信じられるはずもなく、自分の頭の方がおかしくなったのだと疑った。あるいは夢か何かだと。

 

『君にはかつて無いほどのエモパワーが秘められているハピ! どうか助けてほしいハピ!』

 

「あー…えっと、ごめんなさい。僕そういうのは興味なくて…」

 

 当然のように断った。振り返ることもせず、浮かれすぎて幻覚でも見たのだろうと帰宅し、自室のドアを開いたら。

 

『待ってたハピ!』

 

「は?」

 

 いた。

 

 僕より先に僕の部屋へ来ていた。

 

『君の力が必要なんだハピ! 今まさに〇〇モール付近でネガモンが暴れまわってるハピ!』

 

「な、なんで僕なんだよ…! ていうか今…!? まさか今からそいつを倒せって言うの!?」

 

 土下座の体勢で頼み込まれても、そんなのできるはずがない。

 

『でも…でもこのままだとたくさんの犠牲が出ちゃうハピ…! 頑張って戦っている人たちもいるけど、時間の問題なんだハピ…!』

 

「う……」

 

『君の力さえあれば、簡単に倒せるんだハピ…! 誰一人犠牲を出すことなく…!』

 

 必死に情へ訴えかけてくる怪生物。

 

『最悪…ここにもネガモンがやってきてしまうかも…!』

 

「!」

 

 ネガモン被害は年々増えている。ニュースでは戦況が上向いていると報じられていたが、こいつの言葉を聞く限り実態は違うのかな…なんて思って…何よりも、ここに来るかも、なんて言われたら……。

 

「ぼ、僕が…僕が魔法を使えば、簡単に倒せるんだよな…? ほ、本当なんだな…?」

 

『嘘なんて言わないハピ! ハッピースターの住人は嘘をつけないハピ!』

 

 結局、僕は怪生物の懇願を受け入れてしまった。今思えば、魔法を使えるなんて誘い文句も、少し前まで小学生だったガキには魅力的だったのかもしれない。

 

 だが、単に不思議な力が手に入るだけではなかった。

 

「は…え…? な、なに、コレ……」

 

『? 魔法を使えるようにする姿に変身させただけハピ!』

 

 髪が伸びて色が変わり、わずかに胸が膨らむ……しかもなんかこう…あるべきものが無くなった感覚がある…!

 

 慌ててスマホのカメラで自らを見ると、そこには見たことない筈なのに、なぜか見覚えのある女の子がいた。

 

 まさか魔法少女の姿にされるとは思いもしなかった。

 

 説明なんてなかったぞ…! 騙された…!? と思ったけど…確かに魔法は使えると言っただけで、男のままだとは一言も明言されていない。ちゃんと聞いとけばよかった…!

 

 妖精はすでに討伐へ向かう気満々だし、やっぱりやめる、なんて言い出せなかった。

 

 それが良くなかったのだろう。

 

 この日から僕は魔法少女改め、心装乙女として戦い続けることになった。

 

 確かに簡単にネガモンを倒すことはできた。

 

 あくまでも最初は、だが。

 

 僕の存在を脅威と見なしたネガスターは、次々と強化個体を投入し、戦いは回を重ねるごとに過酷さを増していく。

 

 それでも僕は勝ち続けた。

 

 もはや子供じみた憧れなどとうに消え失せていた。

 

 破壊された街の惨状を目の当たりにし、傷つきながらも立ち向かう人々の覚悟に触れ、そして、僕が勝った時に向けられる希望に満ちた笑顔を見て………僕は正義のヒロインを張り続ける事を選んでしまった。

 

 ハピモンや国の上層部にとって、これほど都合のいい存在もなかっただろう。

 

 僕は二年と九ヶ月かけ、ネガスターを壊滅させた。

 

 高校受験も控えていたし、敵の親玉も倒した。これで引退だと思っていた。そうはならなかったけれど。

 

 ネガモンが現れ続けるのだ。

 

 発生理由不明。目的不明。

 

 僕の戦いはまだまだ終わらなかった。

 

 学業と戦闘を両立させる二重生活の中、僕の身体には決定的な異常が現れ始める。

 

 十四、五歳を境に、肉体の成長が停止したのだ。

 思春期の男子が迎えるはずの二次性徴は訪れず、男性ホルモンは極端に少なくなっていた。身長は150センチ前後で止まった。僕の外見は、男性的な成長を遂げることはなかった。

 

 ハピモン曰く、心装乙女として活動するために最適な肉体を保っているらしい。

 

 高校生になっても中学生にしか見えず、それどころか男として認識されることも少なかった。

 公安の補助もあり大学には進学できたものの、成人後も補導員や警察に止められるのは日常茶飯事。ろくに飲酒も喫煙もできない。

 

 精神だけが年を取っていく。何でこんな年齢になってまで、と強く限界を感じ始めた二十歳の時、僕はハピモンに直談判を持ちかけた。

 

「あのさ……もう、その、やめ時なんじゃないかなって、思ってて…」

 

『えっ!? それ、マジで言ってるハピ?』

 

「だ、だって! 僕もうハタチだよ!? 大人の男が、魔法少女とか流石にもう……それに、後続だって育ってるって…!」

 

 大衆の前でどれほど完璧なヒロインを演じようと、僕は男だ。就職活動だって控えている。

 

 見た目だってそうだ。こいつらとの縁が切れれば、変身することがなくなれば、身体も男性らしく成長すると、そう信じたかった。

 

 辞めたい本当の理由は他にあるけれど……。

 

『でも、お給料は良いハピよ? それとも今の額だと不満ハピ?』

 

「そ、そうじゃなくて…ていうか僕は、僕にだってやりたいことが…あるし……」

 

 僕は、教師になりたかったんだ。

 そのための勉強だって大学で学んでいる。

 

 ハピモンはふーーむ…と少し考え込んだ。

 

『それって、世界の平和に代えてでもやりたいことハピか?』

 

「…っな、んだって…?」

 

『後続が育っていると言っても、単騎でネガモンと戦闘できるのは今のところ二人だけハピ。それ以外の心装乙女は少なくとも三人がかりでなければネガモンに対応することは不可能ハピ』

 

「…………」

 

『一体のネガモンが出す被害総額は大体数十億から数百億、あるいはそれ以上ハピ。でも君が戦えば、平均して数百から数千万程度に抑えられるハピ。これは国家の予算的にも非常に良心的な額ハピ』

 

「被害、総額…って……」

 

『それに君はもう象徴だハピ。世界中が君という平和の守護者のおかげで安心していられるハピ。そのおかげでこの国はたくさんの支援金を得られていて、信頼も得ているハピ。君が辞めたら、辞めるのを止められなかったこの国の信用は地に落ちるハピ』

 

『あ、もしかして、変身をやめたら身体の成長が進むと思っているハピ? 申し訳ないけど、それは無いハピ。因子はすでに君の魂に一体化してしまっているから、仕事として辞める選択はあっても、存在としてやめることは不可能だハピ』

 

「……えっ」

 

『それでも辞めるハピ? でも辞めるならもっと早くに言ってほしかったハピ。具体的にはネガスター総帥打倒直後ならギリギリ辞められたかもしれないけど……今辞められるのはすごく大変ハピ』

 

『支援金を出してもらっている各国への根回し…若い心装乙女の教育機関の見直し…世間への情報操作…ウ~ン…できればやめてほしくないハピね。対応のための時間と、お金と、信用を考えたら頭痛がするハピ』

 

『もし辞めないなら、ボクへのタメ口はもうやめてほしいハピ。君は成人してるわけだし、立場としては上司と部下になるから、基本敬語でお願いハピ』

 

『あー…でも、副業は別に禁止されているわけではないから、してもいいハピよ? でもいつでも抜けられるような仕事に就いてほしいハピ。あくまでこちらが本業ハピ』

 

『あとこれまでは忙しくてできなかったけど、恋愛は基本禁止でお願いハピね? 君が恋愛した際に、感応現象へどのような影響が及ぶか分からない以上、リスクは取りたくないハピ』

 

『もし恋愛をした際には、相応の対応をしなきゃいけないハピ』

 

『それと、君の家族は“安全保障プログラム”の対象内だハピ。24時間監視されているから、“安心”して心装乙女活動をして大丈夫ハピ』

 

 言葉が出なかった。

 

 あの日の安請け合いが、こんな結果を招くとは思ってなかった。

 

 もっと早く言え、だって……? あの頃の僕に、そんな相談をする余裕なんて………学業も、戦闘も、どちらも満足にできていなかったのに。

 

 国と世界の安心安全を背負っているって?冗談じゃない。家族を人質に取られていることすら今初めて知らされたというのに。

 

 辞めることなんて許されない。

 

 なんでこんなことになってしまったのか。なんで僕が、そんなぐちゃぐちゃな感情が頭の中を駆け巡る中、記憶の奥底で声がフラッシュバックした。

 

 

 ──あんなに強敵で…◯◯ちゃんだって、負けちゃったのに……え…? なんでそんな、余裕そうなの…?

 

 

 ──■■ちゃん、辞めてしまったわ。かわりに彼女の管轄も貴女兼任になったの。お互い良い競争相手だと思ってたんだけど…貴女相手なら…しょうがないわよね…。あはは…。

 

 

 ──あいつはッ!! お前に追いつこうとして…! だから無謀にも突っ込んだんだぞッ…!! あいつが…あいつが死んだのは…!お前のせ

 

 

 

 ──あの、私たちって、いる意味ありますか…?

 

 

 

 僕が見てきた全て(彼女たち)が、僕のせいで全てを捨ててきた者たちの声が、国や世界以上に、重く、重くのしかかる。

 

 辞めたかった本当の理由。

 

 

 じっとりと背中に滲む汗は冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 結局現在までおよそ十五年間、僕は心装乙女として戦い続けていた。

 

 今は営業職に就いている。外回り中に心装乙女として活動し、だいたい二十分以内に仕留める。

 

 愚痴は勿論漏れる。でも人々の前ではキラキラのヒロインになる。こんな暮らしを続けていたら、頭おかしくなる。

 

 後続は少しずつだが育ってきている。

 

 少し前までは二人だった単独撃破可能者も、今では五人。他の娘も二人なら確実に倒せるようになった。

 

 未だに、ネガモンの発生理由は分からないままだが。

 

「ふぅ………」

 

 アパートのベランダでタバコを吸う。

 

 外はもう夜だ。

 

 国から支給される多額の報酬を使いたいとは思えない。だから全て寄付している。なんだか、本当に彼らの意思なき手駒にされてしまうような気がしたからだ。もうすでに手遅れだが。

 

 スマホを立ち上げ、何を見るわけでもなくぼーっとニュース記事を見る。

 

 ──ルナプリ今日も快勝! 無敗記録更新中!

 

「………文面、ほとんど変わんないな」

 

 まあ、仕方がないけれど。

 

 女の子が憧れる有名人十年連続一位。

 

 新規グッズは発売から五分で売り切れる。

 

 正体不明。永遠の十四歳。神秘のアイドル。

 

 それがこんなくたびれたアラサー男だとは誰も思わないだろう。

 

 魔法が使えても部屋は汚部屋のままだし、掃除なんかしてる時間もないのだ。

 

 おまけに、コミュ障、ネガティブ、低身長………童貞…。

 

 本当の僕なんて、誰も見ない。

 

 ブブッ…

 

「ん? あ…そっか」

 

 スマホに来た通知を見て僕はタバコを消し、パソコンの前に座った。

 

『あ、聞こえてる?』

 

「聞こえてるよ」

 

 画面に映った男が笑顔で手を振っている。

 

 彼の名は吉良 春彦(きら はるひこ)。小学生時代からの唯一の親友だ。

 

 今日は彼と通話しながら飲む約束をしていたのだった。

 

「最近、どう? 会社の方も、新しいこと始めたって聞いた」

 

『結構厳しいかな……でもお得意さまが導入してくれるみたいでさ! 良かったら別のとこにも紹介してくれるみたいなんだよ!』

 

「あー、あの、前話してた方? 凄い良い人だって話の…」

 

『そうそう! いや~本当、人の縁って大切だよな〜…起業してから改めて思うよ』

 

 彼は今、一つの中小企業の社長を務めている。

 元々要領も良くて善人だから、人を惹きつけるのだろう。

 彼には学生時代から何度も助けられた。仕事だって、うちに来ないかって誘われ続けている。

 

『それでさ、気は変わんないか?』

 

「うん…ごめん…僕じゃ、力になれそうに無いし…今の生活で十分だから」

 

 心装乙女業と仕事の両立は正直できていない。だから僕の業績は良くなくて、正体を隠している以上、理由を説明することもできない。

 彼の会社に転職したところで、同じことを繰り返すだけだ。せめて親友にだけは迷惑をかけたくない。

 

「それに…僕、コミュ障だし、上がり性だし……僕みたいなのと友達だって会社の人にバレたら、ハルの評価が下がっちゃうよ…」

 

『う〜ん…その自信のなさが欠点だよな〜……千隼、人をまとめるのすごい得意だろ? 中学んときの文化祭とか、めちゃくちゃ活躍してたし』

 

「ず、ずいぶん前の話だね……もう、覚えてないや」

 

『それに千隼、見た目だって相当良いぞ? 自信持っていいと思うけどなぁ……』

 

「はは…ありがとう…」

 

 いやほんとに、と真顔で言う彼のお世辞を軽く流す。

 

 彼のことを凄く買ってくれているけれど、親友補正だと思う。僕はそんな出来た人間ではない。

 

『………どうしても辛かったらさ、言ってくれよ? 俺ができることだったら、何でもするからさ』

 

「……大丈夫だよ」

 

 それから色んな話をした。

 僕の方はプライベートの話題があまりないから、いつも聞き役だ。でもそれが心地いい。

 

『〇〇岳、マジで良かったよ…! 千隼も一度行ってみてくれ! 空気とかめちゃめちゃ美味しいからさ、ていうか今度一緒に───』

 

 時間ができたら、一度彼と遊びに行きたいな。

 

 そう思っている間にも、心の何処かに黒い淀みが生じてしまう。

 

 僕が隠している秘密。打ち明けられないまま、彼に心配をかけてしまっている罪悪感。

 

 その日はあまり眠れなかった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 外回り中、突然の嵐に見舞われた。

 

 同時に耳の奥に声が響く。

 

『ルナプリズム、ネガモン出現だハピ! ステージ5…君の力が必要不可欠だハピ!』

 

 七段階あるステージの五番目。現状、無傷で仕留められるのは僕しかいない。

 

「……了解しました。向かいます」

 

 裏路地に入り、変身して跳躍する。

 

 現着まで長い時間ではないが、とてつもなく憂鬱だ。

 あー…やめたい、やめたい…やめたい……。

 

 十数秒の飛行の後、敵の姿を確認できた。

 

 十数秒の飛行の後、敵の姿を捉えた。

 

 黒雲の塊から蜘蛛の脚が生えたような、巨大な怪物だ。前回の奴よりも一回り大きい。

 

 ──あれルナプリじゃね!?

 

 ──もう来たのか! 頑張れーっ!

 

 微かに届く歓声。まだ完全に避難が済んでいないのか。

 

「みんなおまたせっ!☆ すぐにやっつけちゃうけど、ちゃんと隠れててねーっ!☆」

 

 沸き立つ大衆。

 

 だめだこれは。避難を待つ余裕はない。ならば被害が出る前に、即座に敵を排除する。

 

 敵は紫電を大衆に向けて迷いなく放った。それは予測できている。奴らは僕たち心装乙女よりも、人々を最優先で狙う。

 

「ルミナス・ラケット〜!☆」

 

 僕は紫電を追い越し、ステッキ先端の月を平たく変化させて打ち返した。

 

「あれ~?☆」

 

 弾かれたはずの紫電は蛇のようにうねり、再び街の人々へと向かっている。

 雷を撃ち出す能力ではなく、雷の軌道を操る能力か。

 

「こら~☆ 狙うならボクにしてよ〜!☆ ルミナス・ラリ〜!☆」

 

 打ち返しながら思考を巡らせる。

 

 ずっとこうして弾き続けても埒が明かない。先ほど弾き返した雷が奴の身体をすり抜けたのが見えた。雷撃が無効なのは基本として、実体がないか、あるいは当たり判定が極端に狭いか……。

 

 雷を蜘蛛の脚に向けて返してみても、やはり霧を払うように抜けるだけだった。あの脚には実体があると思っていたが、どうやら違うらしい。

 

 だがどちらにせよ、やる事は変わらない。仕込みは済んでいる。

 

「そろそろ試合は終わりだよっ!☆」

 

 奴の周囲に生じた光の破片が一瞬で集束し、半透明の月のような球体となって標的を閉じ込めた。

 

「ルミナス・ボール!☆」

 

 逃げ場を塞ぎ、一息で仕留めてしまおう。

 

「いっくよ〜…!☆ ルミナス! ホーーームランッ!☆」

 

 巨大な月をステッキでかっ飛ばす。発生する衝撃波はエモパワーで力場を作ることで相殺した。それでも立ち込める雨雲は一気に晴れ渡った。

 

 そろそろ成層圏を突破した頃だろう。

 

「さあトドメだよっ☆ ジャイアント〜……インパクトッ!☆」

 

 一瞬の静寂ののち、昼だというのにまるで三尺玉が花開いたかのような炸裂音。空には三日月型の閃光が光り輝いていた。

 

 街中が歓声で溢れる。

 まるで野球選手が特大の当たりを飛ばした時のような雰囲気だ。実際かっ飛ばしたわけだが。

 

「わるものはやっつけたよ〜!☆ 応援してくれてありがとう!☆ またネガモンが現れたときは、ボクを呼んでねっ☆」

 

 完璧なアイドルとして振る舞ったあと、その場から飛び立った。

 うん、まだ十分も経っていない。これなら仕事への影響もほとんど───

 

『ルナプリズム、新しいネガモン対応だハピ』

 

 な………。

 

「え、…も、もう、ですか? 今倒したばかりなのに……」

 

『言っていなかったけど、同時刻に現れていたハピ。そちらはクロスカイザーが対応にあたっていたハピ』

 

 心装乙女(スターハート):クロスカイザー。ランキング二位の実力者……彼女が戦っているのなら、大丈夫なんじゃ…。

 

『クロスカイザーは敵の手に堕ちたハピ』

 

「は?」

 

 何を…言って……。

 

 苛烈なほどの正義を掲げ、努力を惜しまない彼女が…? そんな事は信じられない。

 

『出現が危惧されていたタイプが出現したんだハピ。我々は奴を“インキュバス型”と呼称することに決定したハピ』

 

「インキュバス………危惧されていたって…僕はそんなの聞いていませんが……」

 

『君がそれを知る必要はないハピ。このインキュバス型は女性に対して極めて高い特効能力を保有しているものと判断されたハピ。奴からの精神汚染を受け続ければ、手駒となるハピ』

 

「……なるほど、それで僕が……」

 

 僕は女の子じゃなくて、男だ。

 

 ステージ5に単独で対応できるのは僕しかいない。だから仕方のない判断とはいえ、僕がそちらに向かったほうが良かったのではないか。彼女にステージ5の時間稼ぎをしてもらって、その間に討伐、のちに彼女へ加勢する、みたいな……いや、避難が済んでいなかった以上、それも難しかったか……。

 

『いや、君だから能力を無効化できるとか、そういうのはないハピ』

 

「へ…?」

 

『君の魂が男だろうが、肉体が女である以上奴の能力は効くものと考えたほうが良いハピ。僕たちはクロスカイザーとの戦闘から、そう結論を出したハピ』

 

「……………まさか…まさかそのためにクロスカイザーを? 僕が戦闘する前の、情報収集のためだけに? ……彼女には、敵がどういう奴なのか、考慮していた可能性を伝えたのですか…?」

 

『君がそれを知る必要はないハピ』

 

 それを知る必要はない。 この数年間で腐るほど聞いたフレーズ。頭が痛くなる。

 

『インキュバス型の能力は、女性にとっては防ぎようがないものハピ。しかし、君の持つ超高密度のエモパワー、それで能力の進行を遅らせることはおそらく可能ハピ。その隙に倒すんだハピ』

 

「……………」

 

『警戒すべきはクロスカイザーだけど、本体もステージ4だから、一応警戒してね』

 

 マッハで終わらせる。これ以上時間を使いたくはない…。

 

 出せる全速力で飛ばす。もはや光の線に見えていたことだろう。

 

 出せる全速力で飛ばす。もはや光の線に見えていたことだろう。

 辺りの建物はほとんど倒壊していた。人々の避難は一応終わっているようだ。

 

 

 ………いた。

 

 

 太陽の光に照らされる水溜りの中心に、ぼーっと立ち尽くしているクロスカイザーと、その身体にまとわりつく黒い気色の悪い触手生物。あれがインキュバス型……女性特攻のネガモン。

 

 彼女の身体は、小刻みに痙攣している。

 ふわりと着地して、近づく。

 

「クロスちゃん?☆」

 

「……ルナ…プリズム……?」

 

 ぎこちないけど、話せない程ではないか。

 

「そいつ、すぐに倒すからちょっと待ってて!☆」

 

「ふ、うふふ…ふふ……♡」

 

「ん?☆」

 

「お、まえに…おまえに、こ、この優しい霧は、奪わせない…わ…ふふ、ふふ……♡」

 

 恍惚とした表情でこちらを見たクロスカイザーは、僕に向けて即座に攻撃を放った。

 数え切れない光の剣が展開され、既に瓦礫と化した街をさらに細かく粉砕してゆく。僕は彼女の攻撃を躱す。

 

「ああ……♡ もっともっと、もっともっともっと壊したい…!♡」

 

 インキュバス型の能力に飲まれているのか。クールで可憐な彼女が普段見せないような表情をしている。

 

 だが突然、表情を歪めて苦しみだした。

 

「あ 、が…! ち、ちがう…! これは、こんなのしたく…ない! ルナ、プリズム…!」

 

「!」

 

「身体が……身体が疼くの……苦しいの…この、快楽が……頭が、蕩けて、しまう……! …私を…私を……!」

 

「うん…☆ 今助けるね☆」

 

 

 

 

 

 

「クロスちゃん…じゃ、帰ろっか☆」

 

 五分。戦闘自体はその程度の時間で片が付いた。

 

 クロスちゃんを無力化し、インキュバス型の攻撃を防ぎながら消滅させる。何の問題も……なかった。

 

 僕は依然として無傷のまま、気を失った彼女を背負って帰還しようとした。

 

「止まれッ…!!」

 

「あれっ?☆」

 

 気がついた時には、完全に包囲されていた。

 

 ざっと二百人ほど。全員が心装乙女だ。中にはまだ見習いで、メディアに出ていない少女まで混ざっている。

 

 数え切れないほどの武器を向けられていた。

 

「彼女を地面に置いて膝をつき、両手を頭の後ろに回せ…!」

 

 声を張り上げているのは、ランキング上位の実力者、心装乙女(スターハート):アグニメイン。

 よく見るとアリスドール、クリアウィング、サンドリヨンもいる。いずれもステージ4ネガモン単独撃破可能者だ。

 

 後方に控える少女たちの顔は強張り、中には怯えて涙ぐんでいる者すらいた。

 

 あー…そういうことか。僕が敵の手に落ちた場合の対応も、すでに発令されていたということだ。

 ここにいる全員が命を懸けて、相討ちになってでも僕を仕留めるつもりなのだろう。

 

「みんなどうしたの?☆ あ!もしかして、ボクに秘密でパーティしてたとか〜!?☆」

 

「っ…! 私の言葉が聞こえなかったか! 膝をつけと言うんだ!!」

 

「アグニちゃん顔怖いよ〜☆ ボク、なんかしちゃったかな?☆」

 

 周周囲の心装乙女たちがざわつき始める。

 アグニメインは冷や汗を流しながら僕を鋭く睨み据えていた。このままじゃ埒が明かない。

 僕は大人しく膝をつき、頭の後ろに両手を回した。

 

「も、もー☆ これでいいんでしょ?☆」

 

「ピュアウェイブ、彼女をスキャンしろ」

 

 探知、サポートタイプの心装乙女(スターハート):ピュアウェイブが恐る恐る前に進み出て、僕の生体データを計測し始める。

 

「心音、感応子、脳波……す、すべて正常値です…」

 

「ほら~☆ 心配しすぎだよ〜!☆」

 

「ほ、本当なのか?」

 

「大げさなんだから〜!☆ あ!君たち〇〇倒したときにもいたよね〜!☆」

 

 僕に異常がないと判明した途端、張り詰めていた空気は目に見えて和らいでいった。

 

 声をかけられた少女たちは、顔を覚えてもらえていたことに感激している。現場はすっかり一件落着のムードに包まれた。

 

 アグニメインも額の汗を拭って深く息を吐き出し、クロスカイザーを担架で搬送するよう指示を飛ばしている。

 

 耳元で声が響く。

 

『ルナプリズム、本当に問題ないハピ?』

 

「問題ありません☆」

 

『良かったハピ、最悪の事態を想定しておいたけど、そうならなくて本当に安心したハピ〜』

 

「あはは☆」

 

 その後は見習いたちにせがまれるまま、何十人分ものサインを笑顔で書き殴った。

 

「ごめ~ん☆ ボクそろそろ時間かも!☆」

 

「ルナ先輩もう行っちゃうんですか!?」

 

「彼女は忙しい、仕方がないだろう」

 

「アグニちゃんもまたね!☆ ばいばーい!☆」

 

 名残惜しそうにする彼女たちに大きく手を振り返しながら、空へと飛び立ち、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 人通りのない路地裏へと滑り込み、壁に手をつきながらふらつく足取りで歩く。

 

 室外機の陰まで辿り着いて立ち止まり、上司へ電話をかけた。

 

『美舟くん!? 君今どこにいるの!? みんなあなたに連絡取れないって困ってるんだけど!?』

 

「すみません…本当にすみません……ごめんなさい、早退します……」

 

『は!? あなたねぇ…! それ本気で言っているの!? みんなに迷惑かけておいて───』

 

「ごめんなさい……切り、ます………」

 

 怒号を最後まで聞くことなく通話を切った。

 力なく手から滑り落ちたスマホがアスファルトに当たり、画面にヒビが入る。

 

「はあっ…! はあっ…! はあっ…!」

 

 だめだ、これは。駄目だ。

 

 みんなの前では何とか隠しきれていたが、もう無理。

 

 心臓が破裂しそうなほど速く脈打つ。脂汗が止まらない。

 胸を強く押さえつけ、薄汚い雑居ビルの壁に背を預けたまま、地面へとへたり込んでしまった。

 

 

 インキュバス型の攻撃はしっかり効いていた。

 

 

 奴の能力によって、僕の脳内にはとてつもない快楽が注ぎ込まれてしまっていた。

 

 中枢から全身へと伝播する痺れに、肉体が芯から疼く……クロスカイザーが何もされていない時ですら痙攣していた理由が、今なら痛いほどよく分かる。

 

 それだけではない。この衝動……理性が働かなくなっているような感覚がある。欲望が溢れ出して、たぶんこれに従って動いたら、さらなる甘美な快楽を得ることになるのだろう。

 

 

 破壊や殺戮を犯すことで、脳が快楽を覚えるようになる……それこそがインキュバス型の能力の本質。

 

 

 クロスカイザーの肉体を無力化した後、危険を察知した奴は僕に音波を発した。おそらく奴は能力を音波に乗せて発動するのだろう。

 

 高密度のエモパワーを纏って防ごうとしたものの、出力は完全に想定を超えていた。おそらくステージ6に匹敵する規模だ。何がステージ4だ。エモパワーで進行を遅らせられるなど、まったく分析できていなかったじゃないか。

 

 完全な不意打ち。エモパワーの障壁はあっけなく突破され、盾を展開しても音そのものを完全に遮断することは不可能だった。

 

 これが女性特攻……やはり僕たち心装乙女を標的にしたネガモンだったのかな。

 

 意識が甘く優しい霧に呑まれかけ、あのまま浴びせられ続けていれば、僕は完全に手駒に成り果てていただろう。

 

 ギリギリだった……。

 ほんの少し攻撃を受けただけの今でさえ、すべてを投げ出して快楽に身を委ねてしまいたくなる。

 

 だが……ゆっくりと着実に、微々たるものだが、奴の能力による影響が小さくなっているのを感じる。

 

 あくまでもこれは余韻か、一時的な後遺症のはずだ。こうして小さく丸まって、じっとして、この疼きと快楽に耐え続けていればいい。

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 変身を解く余裕すらない。

 

 大丈夫。大丈夫……。

 

「っあ………! はっ…はっ…!」

 

 だい……いや、全然大丈夫じゃない…!

 

 やばいやばい…! 油断すると快楽と衝動に飲み込まれそうになる…! このまま耐えられ続けるか…? 無理かも…。

 

 心装乙女になってから強いられ続けてきた我慢をやめて、僕を縛るもの全てを壊したい…! そしたらもっと気持ち良くなれるだろうなあ……って、だめだ…しっかりしろ…!

 

 考えないように努めるも、もはや思考はぐちゃぐちゃ…どうすれば………。

 

 

 あ…………そうだ……。

 

 

 こんなにも身体が疼くのならば、自分で一度果ててしまうのはどうだろう。

 

 

 混乱した頭でそんな事を考え始めていた。どうかしていた。

 

 

 賢者タイムだ…!

 

 

 男性だろうが女性だろうが、無くはない…はず。

 そうすれば、この疼きも鳴りを潜める……!!

 

 

 最悪、悪化する可能性もあったのに、正常な判断ができていなかった。

 この時の僕は、後でどれほど後悔することになるか、微塵も想像していなかった。

 

 

 女の子の身体でするのは初めてだけど…一か八かだ…!

 

 僕はスカートをたくし上げ、下着をずらして秘部を露出させた。

 

「ふっ………く………!」

 

 ど、どうすればいいんだ…これ…。

 

 初めて直視する、本物の女の子の性器。自分の肉体とはいえ、なんだか申し訳なくて今まで見たことすらなかった。

 しかし今の僕にはそんなことを考えている暇なんてなかった。

 

「ふーっ…! ふーっ…!」

 

 震える指先をそっとあてがう。

 ビクッと身体が跳ねたが、快感によるものなのか驚いただけなのか判別がつかない。

 

 くち…くち……♡

 

 微かな水音が静まり返った路地裏に響く。

 でも、別に気持ちがいいわけではない。

 

 イライラする。もう迷っている暇は無い。

 

 僕は濡れた秘部の中へ、おずおずと中指を差し入れた。思ったよりも抵抗なく滑り込む。インキュバス型のせいで、すでに内側までぐちゃぐちゃに濡れていたからだろう。

 

「ふっ…♡ ゔっ……!♡」

 

 まだ第一関節が入った程度だというのに、得体の知れない悪寒と予感が走って指が止まる。

 

「だ、めだ……動かさ、なきゃ……!」

 

 半ば自棄になり、がむしゃらに指を動かしてしまった。

 

 その瞬間───

 

「ぉ゙ひっ…!?!?♡」

 

 脳天を直接串刺しにされたような衝撃が駆け抜けた。

 

 腰が跳ね上がり、四肢がプルプルと震えていて、身動き一つ取れない。

 

(なにこれなにこれなにこれ!?!?♡♡)

 

 男の時にする自慰行為では感じたことのない刺激。

 

 頭の中がパチパチしてる。まだ絶頂すらしてないのに。これって普通なの? 僕の身体が今おかしいからこうなっているのだろうか。

 

(ビビるなっ…♡ はやく、すませなきゃ…♡)

 

 にゅぷ…♡ にちゅ…♡

 

「ほっ…!♡ ふぉ…ぅ゙っ♡ ぉ゙…っほ……♡」

 

 は、やく…!♡ イっ…て…!♡ はやくっはやくっ!♡

 

 とめどなく溢れ出す粘り気のある愛液に導かれ、指先は勝手に奥へ奥へと潜り込んでいく。

 

「も゙…っど…♡ しにゃいと…!♡ もっとぉ…♡」

 

 がむしゃらに指先を蠢かせ、水脈を探り当てるダウジングのように、より快楽の強い箇所をまさぐる。

 

 ぐにっ……♡ と、膣内のお腹側の壁を押し上げた時だった。

 

 あっ、あっ、あっ……なんか、なんか来てるかも…?

 

 あ、やばい、これ。やばいやばい。

 

「あ゙っ…!♡ ぅ゙ふぎっ!♡ くるっ!♡ くるくるくる…!!♡」

 

 これ以上踏み込めば取り返しのつかないことになると理解しているのに、本能に支配された身体を制止することなど不可能だった。

 

「イっ…………ぐっ!!♡♡♡」

 

 ぶしっ!♡ ぶしゅっ!♡ しょろろ……♡

 

 いつの間にか地面についていた背を思いっきり反らして、浮かした腰から、向かいの壁を濡らすほどの飛沫を吹き上げてしまった。

 

「ほぉぉ…♡ ぉぉ……ぉ…♡」

 

 とてつもなく無様な格好だろうが、そんなこと気にする余裕もなく、ただ激しい絶頂の余波に身を委ねる。

 

 明滅していた視界が急速に暗転していく。

 このまま気を失う────

 

 

 

 

 ────わけにはいかなかった。

 

 意識が途切れかけた寸前、自分の側頭部を思い切り拳で殴りつけ、強引に意識を覚醒させる。

 

 こんなところで気を失うわけにはいかない。

 

 まだドキドキしてるけど、さっきの強烈な絶頂のおかげでインキュバス型の余韻は一時的に誤魔化せているようだ。今のうちに家に帰らなきゃ…!

 

 足に力を込めて跳躍し、一息で自宅へ帰還した僕は、衣服がどろどろに汚れたままベッドへ倒れ込み、泥のような眠りに落ちた。

 

 明日には、すべて元に戻っていることを祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 翌日、出勤した僕は上司からこっぴどく叱責された。

 

 当然のことだ。会社側にしてみれば、連絡もなしに現場を放棄し、理由も言わずに勝手に早退した非常識な社員でしかないのだから。

 

 だが、僕はそれどころではなかった。

 

 

 身体が、疼いている。

 

 

 明らかにインキュバス型の余波が残っていた。

 昨日の自慰行為は、やはり一時しのぎにしかならなかったらしい。

 

 今朝から何かおかしいと思っていたのだ。違和感をそのままにしておけば、この通りだ。

 

 昼休憩の合間、公園の公衆トイレへ駆け込んで自慰を試みてみたが、まったく駄目だった。

 

 男の身体の、いつもの自慰……前は普通にイけたはずなのに、絶頂の予兆すらない。

 

「なん、で……!」

 

 絶頂に至るために身体が要求する快楽のハードルが、上がっている…?

 

 そして僕は、この身体が求めている快楽がどんなものか理解してしまっていた。

 

 冷や汗が頬を伝う。

 

 やっぱり、女の子の身体になるしかないのかな…?

 

 個室のドアの隙間から外を覗き、周囲に誰もいないことを確認する。息を整え、意を決して変身した。

 

 結論から言おう。

 

 めちゃくちゃイきまくった。

 

 一度イくだけで済むはずだったのに、指先が止まらない。達した直後の敏感すぎる粘膜を擦る感覚すら、身体は快楽へと変換してしまう。

 

 男子トイレで魔法少女が、出しちゃいけない汚い声で煽ぎまくるなんて信じられないことしてる。だというのに、誰かが入ってくる恐怖よりも自慰への没頭が勝っていた。

 

 昨日よりも明らかに感度が増している。インキュバス型の能力は、肉体の感度そのものを開発してしまうのだろうか。

 

 それからの日々は、疼きを抑えるために変身しては快楽に耽る行為の繰り返しとなった。

 

 最初の頃に抱いていた罪悪感も日を追うごとに薄れ、外回りの営業や心装乙女としての任務を終えた後、自室で女の子の快楽に身を委ねることが日常化していった。

 

 明らかにおかしい。

あれは一時的な余韻だったはずだ。影響も沈静化していくはずなのに、どうして身体の疼きと衝動は収まらないのか。

 

 そんなある日、ハピモン経由でクロスカイザーが回復したと知らされ、僕は彼女が入院している病室へと向かった。

 

「クロスちゃんっ!☆ もう大丈夫なの!?☆」

 

「あ……ルナ、プリズム……ええ、身体の方は問題ないわ……」

 

 ベッドの上で身を起こした彼女は、いつもの凛とした苛烈さや華やかさを潜め、弱々しく見えた。

 

「あの…私…謝りたくて…!」

 

「えっ?☆ 何が?☆ あ! もしかしてインキュバス型に操られちゃったこと?☆ それなら大丈夫だよ!☆ ボクは無事だし!クロスちゃんもこうして回復したなら──」

 

「そ、そうじゃなくって…私…あんな恥ずかしいところを見せてしまって…! 正義を担うものとしてあまりにも……!!」

 

 彼女は顔を真っ赤に染め、両手で覆い隠した。

 ま、まぁ…そりゃそうだろう。快楽堕ちした姿を見られたなんて、正気に戻ったら発狂もしたくなる

 

「あ、あ~……そうだ☆ インキュバス型の能力だけど…後遺症とかって、無い?☆」

 

「え?……いえ、今のところないけど……?」

 

 唐突な問いかけに、彼女は怪訝そうに首を傾げた。

 だが、本当に動揺したのは僕の方だ。

 

 後遺症……無いの…?

 

 目の前の彼女から、何かを耐え忍んでいるような気配は微塵も感じられない。

 

 じゃあ僕のこれって一体なん………いや、まさか……自慰行為しているのがダメなのか…?

 自慰行為すれば一時的に誤魔化すことはできるけど、症状は長続きしてしまう…? いや、悪化しているかも……。

 

 ダラダラと冷や汗が流れる。

 

「あ、あの…大丈夫かしら? なんだか私よりも貴女のほうが様子がおかしいように見えるのだけれど…」

 

「そ!そんなことないヨ〜!!?☆ あ、あはは…☆」

 

 これ以上留まれば、いらぬ心配をかけてしまう。

 僕は見舞い品を手渡し、逃げるように病室を後にした。

 

 彼女は数日後、無事に前線へ復帰した。

 ファンも復活を喜んでいたし、僕も安堵した。

 

 その一方で、僕のネガモン退治は無意識のうちに過激さを増していった。もっとも、観衆には気付かれない程度の差だとは思うが。

 

 ネガモンを破壊すればするほど、破壊衝動は膨れ上がり、その衝動に従うほど甘美な快感が全身を巡る。それを抑え込もうと自慰に耽り、また快楽に溺れてしまう。自慰は悪化の元凶だと気付いたはずなのに、断ち切ることができない。

 

 完全にやばいループにハマってしまっているぞ、これ…。まるで麻薬中毒か何かのように、求める快楽も増えていく。

 

 いつしか僕は、自分の指だけでは満足できなくなるレベルにまで症状が悪化していた。

 

(あーくそ…イライラする…こんなんじゃもうイけないし…!)

 

 何をしてても全然集中できない…!

 でもハピモンに相談なんてもってのほかだ。そんなことをしたらどうなるか…。

 

 いっそ欲望に身を任せてしまえばいいんじゃないか? そうすればこうして我慢して苦しむことも無いのに。

 

 だめだ…そんなことしたら。世界はどうなる? それに僕は家族だって人質に取られてる……。

 

 僕の家族が本当に殺されると? だってそれをしたら、後悔するのは公安とハピモンだ。彼らは僕の偽善に寄りかかって、僕なら世界を壊さないと高を括っているだけだろう。

 

 だめだ…また頭の中がぐちゃぐちゃになってしまっている。

 

 あー………壊したい壊したい壊したい…。

 

 

 

 

 

 

 ある夜、ネガモン出現の報せを受け、苛立ちを抱えたまま出動した。

 

「ちっ……後ちょっとでイけるかもしれなかったのに…!!」

 

『?? 何か言ったハピ?』

 

「なんでもないです」

 

 絶対に跡形も残らないくらい木っ端微塵にしてやろう。

 そう思って現地に到着した。

 

 報告にあったネガモンはステージ4が三体。

 

 報告にあった個体はステージ4が三体。

 二体は問題なく叩き潰すことができたが、最後の一体は思いのほか敏捷で、集中力を欠いていた状態では捉えるのに手間取ってしまった。

 

 仕留め損なったわけではない。

 だが、三体目のせいで僕の疼きは最高潮になっていた。

 

 人々の歓声に応える余裕もなく全速力で飛び去り、ハピモンとの通信も切る。

 

 現場からはかなり距離を取れたはずだ。自宅まで戻る余裕など到底なく、最初と同じように人けのない裏路地へ降り立った。

 

「はぁ…!♡ はぁ…!!♡♡」

 

 悪化していた衝動は戦闘の昂ぶりによってさらに加速し、心臓を異様なまでに激しく鳴り響かせている。

 

 まともに歩く事すらままならない。

 たぶんインキュバス型にちゃんと身体を乗っ取られていたら、自分の意思で身体が動かせなくても強制的に操られていたのだろう。

 

 もっと壊したい…♡ この快感をもっともっと…!♡

 

「ぐ…! はあっ♡ はあっ♡ まずい、これ…!♡」

 

 地面にへたり込むように倒れ込み、どろどろぐちゃぐちゃに濡れた下着を引き裂くように脱ぎ捨てる。

 

 理性が本能に屈しかける中、苦し紛れになんとか自慰で誤魔化そうと指を伸ばした。

 

 その瞬間だった。

 

「大丈夫ですか!? すごい音しましたけ……ど……………る…ルナ、プリズム…?」

 

 建物の角から、不意に人影が現れた。

 

「!?!??!!?」

 

 一瞬で思考が凍りついた。心臓が止まりそうになる。

 

 やばいやばいやばいやばい………! 見られた…! 見られてしまった…!

 

 混乱した僕は、その人物をどうにかしてしまおうと思ってしまった。

 万が一この事をネットにでも流されたらどうなろうか。口約束でそれを咎められるか? 信用なんてできない。殺そう。殺さなきゃ。

 

 まともじゃなくなっていた。

 

 顔を上げた僕は、ステッキを振り抜く直前に彼の顔を見て、再びの衝撃を受けたのだ。

 

「は…………? ハ、ル………????」

 

「レ、レイヤーさん、ですか……!? いやっ、君路地裏で何して…!? って……え?なんで俺のあだ名……」

 

 吉良 晴彦。

 

 僕の幼馴染で、唯一の親友とも言える存在。

 そこに立っていたのは彼だった。

 

 なんで? なんで? なんでここにいんの?

 

 一番見られたくない人にこんな場面を見られた。バレた。

 

 親友を殺さなきゃなんて思ってしまった。

 

 次からどんな顔で会えばいいのか。

 

「っ……、ぁ………」

 

 呼吸が止まる。

 

 どうする…どうすれば。

 

「と! とりあえず! 下隠して! 俺の上着あげるから…!」

 

「え…」

 

 彼は顔を真っ赤にして背を向けながら、黒いジャケットを差し出してきた。

 

 身体は疼いて震えて、立っているのも精いっぱいのはずなのに、渡されたジャケットから目が離せない。

 

 そうだ………そうだった。

 彼はこういう人だった。

 

 

 ───どうしても辛かったらさ、言ってくれよ? 俺ができることだったら、何でもするからさ。

 

 

「あ………」

 

 いつかの言葉が鮮明に蘇る。

 

「よ、よくわからんけど…! 俺行くからね!? マジですぐ帰んなよ! 夜とかホントあぶねぇから…!」

 

「………あはっ♡」

 

 ぎゅ……♡

 

「!? ちょ…は!?! なにしてんの!??」

 

 僕は彼の背中に抱きついた。

 

 ちょっと待て! ダメだよボク! それだけはダメだ!!

 

 煩いなあ僕。破壊して気持ちよくなるのと、えっちして気持ちよくなるのだったら、後者のほうがマシじゃん。

 

 でも…それをしたら、何だか戻ってこれなくなる気が───

 

 すぅぅ〜〜……あ゙っ?♡ これやばっ♡

 

 仕事帰りの雄臭さが脳と子宮に刺激を与える。

 

 ほらね? 僕、やるならこっちだよ、こっち♡

 

 ………………ごめん、ごめんね♡ ほんとにごめん♡

 

 一番迷惑かけちゃだめなひとなのに…♡ 絶対に傷つけたくない人なのに…♡♡ 彼の優しさにつけ込んで、都合よく解釈しちゃった…♡

 

 彼の耳元で甘く囁いた。

 

「おに〜さん…♡ えっちしよ…?♡♡ 」

 

 指じゃもうイけないから、おちんちん借りるだけ…!♡♡

 

 それにこれ、恋愛じゃないからセーフ、だよね…?♡

 ちょっとおちんちん借りて、ちょっとえっちするだけだし♡♡

 

「はっ!? な、何言って…!!」

 

「いいから、ね?♡ はやくしよ?♡ はやくはやくっ♡♡」

 

 もう我慢なんてできない。力任せに彼のシャツのボタンを引きちぎり、地面に押し倒して跨った。

 

「いやぁぁっ! 痴女だぁぁぁ!!」

 

「ふ、ふふ…♡ ふへへへ……♡♡ ぁえ……??」

 

 期待して降ろしたパンツから出てきたおちんちんは勃って無かった。

 

 ぎり…と歯軋りし、彼を睨みつけてしまった。

 

「なんで…っ!♡ 勃ってないんだよ…!♡」

 

「当然だろ! こんな状況で勃てるか!!」

 

 ここまで来て、勃ってないからヤラないなんて選択肢は無い。

 だってもう限界だ。このままの状態で野に放たれた暁にはすべてを破壊し尽くしてしまう自信がある。

 

「んぁむ……♡♡」

 

「ほわっ!?!?」

 

 僕はふにゃふにゃの陰茎を、そのまま咥えた。

 刺激を与えれば勃つはず! というか勃ってもらわなきゃ困る。

 

「ぇお…♡ ん~…♡」

 

 にゅぷ…♡ にゅぽ…♡

 

 男のものだという嫌悪感すら麻痺していた。勃たせる事に必死で、一生懸命に舌を動かし、陰茎の特に亀頭を刺激する。

 

「っあ…ふぉ……舌やべぇ……! ……そうじゃなくて! うおお動けねぇこれ…!」

 

 ちゅぼっ…♡ れろ、れろ……♡♡

 

「ん!………♡♡♡ ぷはっ!!♡♡」

 

 口内で急速に熱を帯び、硬度を増していく感触を確かめて唇を離す。

 

「やった…!♡♡ おっきくなった…!♡♡♡」

 

 そそり立つおちんちん。

 僕の唾液まみれなせいで光を反射し、より威圧的に見える。

 僕のモノよりもおっきくて、少し黒い。

 

 目にも留まらぬ速度で体勢を変え、彼の両腕を覆いかぶさるように押さえつける。そして亀頭をおまんこの入口に、ちゅぷ……♡ とくっつけた。

 

「ままままま…待ってくれ、ませんか…?? は、はは……」

 

「むり!♡♡ あはっ!♡♡」

 

 僕は一気に腰を落とした。

 

 ずぷぷぷっ!!♡♡

 

 ぱちっ…♡ぱちぱちぱちっ!!♡♡

 

「ぉ゙お!?♡ お゙っ?!?♡☆♡ ほぉぉ゙!?♡♡☆」

 

 背筋を通り、脳、目の裏側で何かが弾けた。

 

「ぉうっ!! く……な、中キッツ……!! おい大丈夫か…!?」

 

「ぉおぉぉ゙ぉおぉ〜〜………???♡♡♡」

 

 大きく仰け反ったあと、僕は彼の身体の上にかくんと倒れ込んで白目を剥き、気を失ってしまった。

 

「お、おーい!? ちょっとー!? マジで気ぃ失ってるじゃんこの子…………て……え、あれ??」

 

 

 

 

 

 ◇◇(side:吉良 晴彦)

 

 

 

 

 

 仕事帰り、たまには一人で飲もうとうろついていた途中、路地裏から妙な物音が聞こえた。気になって覗きに行ったら、トップ魔法少女の格好をした女の子に性的に襲われた──なんて、誰が信じてくれるだろうか。

 

 でも実際そうなってるんだよなぁ……。

 

 俺は腹の上でぐったりと気を失った女の子を抱え、上体を起こした。

 

 見た目はルナプリズムそのものだった。だからてっきりコスプレだと思い込んでいた。世界を救った心装乙女が、こんなところで暴走するはずもないし。

 

 だが、ただのコスプレ痴女だったほうがまだマシだったかもしれない。

 

 彼女が意識を失った瞬間、淡いクリーム色だった髪が、するすると黒く染まっていったのだ。

 

 なんだこりゃ!? 最近のウィッグってこんな機能ついてんの!? なんて、流石に俺でもそこまでは思わなかった。

 多分この子はガチで心装乙女なんだろう。変身解除?ってやつかな。ルナプリズム本人かどうかは…ちょっとわかんないが。

 

 しかしそれ以上に、目の前の顔から視線が外せなかった。

 

 まつげが長くて、少し唇に色が乗っているが……どう見ても、俺の幼馴染、美舟 千隼の顔そのものだったのだ。

 

「ちは…え? そっ…くり、さん? どゆこと…???」

 

 恐る恐る額にかかる乱れた黒髪をそっと掻き分けてみるが……このびっくりするほどの美少年フェイス……本人すぎる。

 

 あいつ、妹か姉いた…? いや、いないよな……いとことかは、ちょっとわからんけど……。

 

 …………いやまて、そういえばこの子、俺と出会った瞬間『ハル』って言ってたな………。

 

 あ~〜……!くそ!! 訳がわからん!!

 

「………連れてくか…?」

 

 それともこのまま目覚めるのを路地裏で待つべきか。

 見た目は中学生くらいの半裸の少女と、前をはだけたアラサー男……うん、犯罪だね。

 

 やべぇよやべぇよ…! 見つかったらガチで終わる…! やっと新しい事業も軌道に乗りそうってとこなのに…!!

 

 服はボタンが全部ないだけで、着れないわけじゃない。下も無事だしな。

 裏通りの暗がりを抜けていけば、誰にも見られずに辿り着けるかもしれない…??

 

 リスクを冒して部屋へ運び込むか、いつ通行人が現れるか分からない路地裏で立ち往生するか。

 

 結局俺は前者を選んでしまった。

 これでガチ他人だったらどうすんだよ俺…! 誘拐じゃねぇか! 頼むから千隼の関係者であってくれ…! いや関係者だったとしても誘拐にかわりないんだけどさ……。

 

 

 

 

 

 幸い誰にも出くわさず、無事に自室まで運び込むことができた。

 ベッドに寝かせ、目を覚ますのを待っていると、彼女は身じろぎして、目をゆっくりと開いた。

 

「ん…んん………?」

 

「だ、大丈夫…??」

 

 まだ焦点の合わない目で俺の顔を見つめた後、彼女は自分の両手を見下ろし、次いで胸元に垂れる長い黒髪に触れた。

 

「……………………!?!?!?」

 

 完全に固まったあと、あからさまに動揺し始めている。

 

「な、んで…!? 僕…変身解いて…!? いやでもっ…これ…!!」

 

「あの〜〜……」

 

 混乱しているところ悪いが、一番気になっていたことを尋ねる。

 

「もしかしてなんだけど…千隼の親戚? だから俺のこと知ってるの?」

 

 彼女は動きを止め、わかりやすいほど引きつった笑みを浮かべた。

 

「ソ、ソウダヨ〜!!!」

 

 怪しすぎるだろ。

 

「…………千隼って妹とか姉いたっけ?」

 

「へ? いやいないけど……」

 

「やっぱそうだよな。俺会ったことないし」

 

 ……………え、この子ワンチャンマジで本人なのか? この、声変わりありました?って感じの声までそっくりなんだけど…。

 

「…………千隼お前いつから魔法少女やってんの?」

 

「!?!!? ちちちちちちがうんだ!! これには深いわけがあって…!!!」

 

「あの…カマかけたつもりだったんだけど…」

 

 暫定千隼はピタリと止まり、口角を引きつらせながら、どんどん縮こまっていき、ベッドに潜り込んだ。

 

「悪かったよ……ていうか、まともに話せるんだな……あんな感じになるのって、変身してる時だけだったり?」

 

「あ、あれは僕の意思じゃなくてぇ〜……」

 

 布団の奥から漏れ聞こえてくる声は、今にも泣き出しそうだった。

 

「改めて聞くけど……千隼なのか? 本当に……」

 

「………………………うん…」

 

 マジか……いや、マジか………。

 

「ルナプリの見た目だったけど……本人…??」

 

「……………うん、そうだよ」

 

 わーお……親友は実は超有名人でした……。

 

 いつから?とか、なんでやってんの?とか、お前ホントは女の子だったの?とか、いろんな疑問は出てくるけど、正直俺だって困惑して言葉がでなかった。だって挿入してすぐやめたとはいえ、親友とヤっちゃったんだぞ…!?

 

「あー……えー……なんで、その…そんな事に?」

 

「えと…その、頼まれちゃってさ…はは…」

 

 布団から僅かに顔を覗かせた千隼は、困ったように力なく笑った。目元には涙が滲んでいる。思っているより重症っぽい

 

「昔君にもよく言われたよね……安請け合いするなって…ほんとその通りだったよ」

 

「いつの話だよ! まあ、確かに昔からお人好しで巻き込まれ体質だったからな、千隼。タケが団地のフェンスぶっ壊したときも、なんぜ千隼が謝ってたりさ……」

 

「あれはその! タケに泣きつかれて……ああいや、ごめん…そういうところだよね…」

 

「…………マジで千隼なんだな」

 

「う………うん………」

 

 親友とはいえ、直接顔を合わせるのは久しぶりだ。何よりこの状況である。気まずさが部屋に満ちる。

 

「あのさ、変な事聞くけど……」

 

「?」

 

「千隼って…女の子だったの…?」

 

「!?!? 違うよっ! 僕は男だ! 女の子になるのは変身してるときだけで………でも…」

 

「でも?」

 

 千隼は布団から這い出て、自分の身体を見回し、股間に手を当てて青ざめている。

 

「今…変身解除してるはずなのに………無い……!」

 

「え? なんで…?」

 

「わ、わからない…! こんな事、今まで一度も無かったのに…!」

 

 冷や汗を流しながら、ブツブツと何事かを呟き始めている。

 理由はともかく、今の千隼は正真正銘の女の子になってしまっているらしい。

 

 昔からコイツは女の子だと勘違いされる見た目をしていて、千隼のことをよく知らない男から告られたりもしていたほどだ。毎度男だと知り、項垂れて去っていく男どもの様子が面白かったのをよく覚えている。

 千隼本人は嫌がらせだと思っていたようだが、中には何かに目覚めたやつもいた。

 それがまさか本当に女の子になってしまうとは。

 

「まさか性行為をしたから…?いや、処女喪失が原因…?? しかし、恋愛を制限されているのは僕だけで、恋人がいる娘も少なからずいるって………」

 

 う~ん…顔といい、正直前とそこまで変わらない様な…。あ、いや…本人にとってはそりゃ重大な事件だろうが。

 

「そ、そうだ…! 仕事とか、どうしたら…!」

 

「………いつも通りスーツ着ていけばなんとかなったりしてな」

 

「そんなわけないだろ!? ま、まったく……」

 

「割とマジで」

 

 千隼は深いため息をつき、ベランダへ通じる窓に目をやった。

 

「あ~…もう……ハル…タバコは…いや、持ってないか…タバコやめたんだもんね…」

 

「あるけど」

 

「えっあるの」

 

 元カノが置いてった奴だけどな。

 キャビネットの一番上の引き出しを開け、まだ未開封のタバコを投げた。

 

「あ、開いてもないし…なんで持ってるんだよ、これ…」

 

「聞かんでくれ…! 消したいけど消えない思い出の品なのさ…! さァ……吸うなら吸いねェ……」

 

「えぇ……」

 

 千隼は流石に吸えないと机に置いた。別に良いのに。

 

「まァ…とりあえずー…あー…なんだっけ…心装乙女たちが所属してるとこに相談したら良いんじゃないか?」

 

「それは……」

 

 ん……分かりやすく表情が曇ったな。何か相談したくない理由でもあるんだろうか。もしかして、結構なブラック組織だったりする?

 

「ご、ごめんね……心配して、アドバイスしてくれたのに……」

 

「いや、結局は千隼がどうしたいかだろ。構わんよ」

 

「………………そう、だね…」

 

「いっそどっちの仕事も一回完全に休んで、ガッツリ休み取るのも良いと思うけどな。全部投げ出してみても許されるだろ、今まで相当頑張ってきたんだしさ」

 

「それは…出来ない…」

 

 この話題は地雷か?

 

 千隼は窓の鍵を開け、ベランダへ出た。

 まばゆい光がその身体を包み込み、思わず目を細める。再び視界が晴れた時、そこには月色の長髪を揺らすルナプリズムが立っていた。

 

「…もう、行くのか? 大丈夫なのかよ…」

 

「大丈夫。ごめん…迷惑かけちゃって……それと、別に心配はしてないんだけど、このことは秘密にしてくれたら嬉しい」

 

 そりゃ、こんな事言えるはずもなければ、言うつもりもないが……結局なんも解決してないじゃないか。

 

 だが……俺が止めて、どうにかなるわけでもないのも事実だった。

 

 飛び立つ千隼を俺は止めることができず、無言で見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 ◇◇(side:美舟 千隼)

 

 

 

 

 

 僕の正体が親友に知られてから、すぐ後のことだった。

 

 明日の仕事はどうすれば………なんて不安を抱えながら夜空を飛んでいると、ハピモンから緊急通信が入った。

 

『ネガモンの発生源かもしれない地点が発見されたハピ!』

 

 すぐに現場へ急行するよう指示が下る。

 

 今…? 今なの? 正直とてつもなく間が悪い。原因不明の常時性転換、今は落ち着いているものの、相変わらずインキュバス型の後遺症は残っている…。こんな状態で、ネガモンの発生源なんて重要そうな場所に行って大丈夫だろうか…。

 

 だが、僕に拒否権はない。

 

 現在地から北へ数キロ。山脈の麓にぽっかりと口を開けた洞穴から、強力な反応が出ているらしい。

 

「ふぅ…………さ、行ってみるか…」

 

『ちょっと待つハピ! 何か奥から……!!』

 

 は? 何かって、な───

 

 問い返す暇もなく、顔のすぐ横を黒い閃光が通り去った。

 

「っあれは…!?」

 

『ど、洞穴からネガモン反応が一切なくなったハピ!! 今のが元凶ハピ!! 追跡を!!!』

 

 もう見えないんだけど!? くそ……!

 

 クロスカイザーの救援に向かった時以上の速度で空を駆ける。

 

 感覚を極限まで研ぎ澄まし、凝視した先に影を捉えた。

 

 子猫ほどの小柄な体躯、ウサギのような耳、黒光りする羽根。

 

 ハピモンに似ている。

 

 だが、迷っている猶予はない。ステッキ先端の月を投擲したが、相手はいとも容易く軌道を逸らして躱した。手元に月を引き戻す。僕にはまともな遠距離攻撃手段なんて無いんだぞ…!

 

 前方に市街地が見えてきた。まずい、と思った瞬間、黒い影は住宅街へ向けて急降下した。

 

「や、やばっ…!!」

 

『何してるハピ!? 急いで!』

 

 全速力を出していた反動で、急激な進路変更に対応しきれなかった。大きく引き離されながらも、着地した地点へと着陸する。

 

「いったいどこに…」

 

 周囲を見渡すが、敵の姿はない………イライラする。

 

 冷や汗が頬を伝う。少し嫌な予感がする。不本意ながらもハルとえっちしたことで落ち着いていたはずの疼きが、早くもぶり返し始めている。急がなければ…!

 

 探す間もなく、遠方で地響きのような破壊音が鳴り響いた。立ち上る黒煙を目印に現場へ駆けつける。

 

 そこはすでに惨状と化していた。深夜の住宅街、寝静まった無防備な人々が避難などできているはずもない。

 

「ルミナス・ボール☆」

 

 視界に入る人々を光の球で保護していく。

 

『探知班からの結果が届いたハピ!現時点での死亡者はゼロ!避難はコチラで進めるから、存分に戦うハピ! そいつはステージ7を超えているハピ!』

 

 立ち込める煙の奥から、人影がゆっくりと歩み出てくる。

 すごく、すごく嫌な予感がする。

 

『間に合ったネガ』

 

「ふふふ…そうね」

 

 黒い風が吹き抜け、煙が晴れる。

 

 姿を現したのは、禍々しいエモパワーを纏った心装乙女らしき女性。その肩には、先ほどの黒いネガモンが乗っていた。

 

「あははっ…! すっごい力! 現役の頃の力なんてゴミだったって思えちゃう…!今なら何でもできちゃいそうだわ!」

 

『調子に乗るなネガ。敵は最強、こちらが挑戦者(チャレンジャー)であることは忘れるなネガ』

 

 女性は自らの力に酔いしれている。僕はその顔に見覚えがあった。

 

「ふふふふっ! 久しぶりねぇ! ルナプリズム! と言っても、アンタはアタシの事なんて覚えていないんでしょうけど───」

 

「V.V……ヴァイオレットヴァイパー……覚えてるよ☆ 10年前、引退した…元ランキング六位の心装乙女……」

 

「─────あ、そう、覚えてるんだ」

 

 そうだ、仕事だって何度か一緒にやったことがある。

 頭が切れて、サポートも前衛もいける頼れるお姉さんとして慕われていたはずだ。

 

「なら話は早いわね? アタシ、この子と契約したの」

 

『お前たちにバレないように、夢を通してな。流石に本契約をするには会う必要があったからバレたネガが。』

 

 ネガモンは短い腕を組んだ。

 

『ど、どういうこと、ハピ…!? ネガモンがしゃべるなんて…それに契約!? あり得ないハピ!!』

 

「……キミがヴァイオレットさんを唆したって事であってるかな?☆」

 

『当たっているネガ。私の名前は……いや、まだ無いから、また今度考えてくるネガ……まあいいや。せっかくだから簡潔に私のことを教えるネガ。私は知能を獲得するまで長らく潜伏し続けていたネガモンだネガ』

 

「……目的は?☆」

 

『ユートピアを作ること。現体制および地球の全ての国家を破壊することネガ』

 

 その返答にハピモンは混乱したように騒ぎ立てている。気持ちは分かるけどうるさいな……。

 ネガモンがユートピア? 何を意味の分からないことを……考えていても仕方がない。

 

『お前の動きは完全に理解している…と言いたいところだけど、お前のデータはまだ全て読み取りきれていないネガ。その前に端末を消されてしまったネガからな』

 

「そっか、インキュバス型はキミのプロトタイプなんだね☆」

 

 よく見ると尻尾がインキュバス型の触手と同じだ。

 

『御名答。強制契約はできなくなったけど、そのかわり契約者の出力を限界以上まで引き上げられるネガ』

 

 ヴァイオレットの全身から、黒い奔流が迸る。

 

「御託はいいからさあ! 早く殺させて!? アンタのこと殺したくて殺したくてしょうがなかったの、よッ!!」

 

『来るハピ!! 気をつけてっ!!』

 

 ヴァイオレットは長く先の尖った蛇のような尾を目にも留まらぬ速さで繰り出す。

 一突き一突きが衝撃波を起こし、余波が瓦礫を吹き飛ばしていく。

 

「あははははっ!! この力! これが当時あれば! アタシはアンタより活躍できたッ! 英雄として歴史に名を残せたのよッ!!」

 

 倒すのは良い。だが生かすのが難しい強さだ。どうしたものか。

 

「心装乙女になれば! アタシはやっと認められると思ったのに! アンタのせいでパパもママもアタシを見なかったッ!!!」

 

 ……………。

 

「アイナちゃんもミホちゃんもリリちゃんもココロちゃんも!! 全部アンタに取られた!! アタシの!アタシのみんなだったのに! 全部アタシの世界だったのに!!」

 

 ……………………。

 

「それ、ボクのせいじゃなくない?☆」

 

「へっ……???」

 

 月を墜とし、尻尾を根元から潰しちぎった。

 

『おっと?』

 

 ネガモンが珍しそうなものを見る顔になる。

 

 ボクが強かったから? 人気だったから? だからヴァイオレットの両親が彼女を認めなかった? 友達がいなくなった? 知らないよ、そんなの。

 

 杖の先の月を四メートルほどの大きさへ変え、彼女を思いっ切り吹っ飛ばす。

 

 めちゃくちゃ気持ちいい。

 

『ル、ルナプリズム……い、一体なにが………』

 

「ごめんね?☆ 今余裕ないかも☆」

 

「はっ…ごばっ……はぁあっ…!」

 

 遠くで起き上がったヴァイオレットの穴という穴から黒い液体が漏れ出ている。ネガモンに取り憑かれた影響か何かだろうか。そんなの、もうどうでもいいけど。

 

 引退後も逆恨みを拗らせ、怪物に魂を売って暴れているなど、あまりに身勝手で反吐が出る。その独善のせいで、無関係な住民が家を失い傷ついているのだ。

 

 うんっ☆ 退治確定☆

 

 そう思考が定まった瞬間、背筋に強烈な快楽が走った。

 

「ん…♡ えへへっ…☆ これ…正解ってコト、だよね?☆♡」

 

『おやおやおや……』

 

『どうしちゃったんだハピ!?』

 

 ボクは破壊衝動と快楽に突き動かされるようにヴァイオレットへと迫り、彼女を叩き潰すべく、高層ビルほどの大きさにした月を振り下ろした。

 

「ひ、ひっ……!? だれかっ助けっ…!!」

 

「!!」

 

 腕がビタリと止まる。次は彼女の鼻先一ミリ程度のところで止まり、風圧すら起きることは無かった。

 

「はっ……はっ……はひ………」

 

 ヴァイオレットは白目を剥き、そのまま気を失った。その身体から黒い瘴気が抜け、肩のネガモンへと還元されていく。

 

 駄目だろ…! 僕!! それだけはしちゃだめだ…! たとえ自分から悪に染まっていても、そんな事をしたら、今までに背負ってきた全てを裏切る事になっちゃう…!!

 

 でも、絶対気持ちいいよ? 気に入らないでしょ? こんなに頑張ってて、こんなに辛いんだから、自分勝手なヤツ殺すくらい良いじゃん。

 

 頭がおかしくなるっ…!! この疼き…! 心臓の鼓動…! 苦しい…苦しい苦しい…!!

 

「くっ…ぁああっ……!!」

 

『ル、ルナ……どう……くっ…! ネ、ネガモンっ!! お前の本当の目的は何なんだハピ!!』

 

『ん…言ったはずネガ』

 

『ユートピアなんてウソに決まっているハピ!!』

 

『くだらない問答をするより、彼女の心配をしたほうがいいと思うネガが………まあ、何も知らないお前たちに教えてやってもいいネガ』

 

 黒い怪異は淡々と続ける。

 

『我々ネガモンは、知的生命体の悪感情から発生しているネガ』

 

『………えっ!? そ、そんなバカな』

 

『お前たちハッピースターの民とネガスターの民、その二種族が現れた事で、我々が発生する土壌が整ったネガ。言うなれば、お前たちが世界の在り方を変えたんだネガ。少女たちの松果体が変異した理由も、お前たちが持ち込んだ女王の遺体に由来するネガ。そこの彼女…いや、彼は少々特別みたいだが……』

 

『何を……言ってるハピ…??』

 

『悪感情から生まれた我々は、悪感情を発生させた要因に復讐するため行動する……最終的には、悪感情を発生させるすべての要因をこの世界から消すネガ』

 

『よ、要因を全て消す…!?』

 

『そう。世界から全ての悪感情が消えたとき、そこはユートピアになるネガ』

 

『出来るわけがないハピ! それに…そんなことしたらお前たちも生まれなくなるハピよ!?』

 

『結果的にそうなるだけネガ。我々が滅んだとて、目的が達成できるのであればそれで良いネガ』

 

 二者の問答など、今の僕の耳には雑音でしかなかった。

 

『少し話しすぎたネガ。それにしても……所詮元六位ネガね。心装乙女/欲転(ネガハート)にしたところで、最強に届くはずが無かったネガ……私はこれで消えさせてもらうけど、彼女(ルナプリズム)、どうにかしたほうが良いネガよ? では、さらばネガ』

 

『ま、待てっ!! う、うぐ…! ル、ルナプリズム! 早く本部へ戻ってくるハピ! 今の君は何かおかしいハピよ!』

 

 うるさいっ…! うるさい!!

 

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

 怒声とともに通信回線を切断し、僕は行き先も定めないまま夜空へ飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁああぁっ……」

 

 どうしてここへ来てしまったのだろう。

 

 気付けば僕は、先ほど親友と遭遇したあの路地裏に立ち戻っていた。

 無意識の選択だった。なぜこの場所を選んだのか。

 

 初めて、女の子としての本当の快楽を知った場所だったからか、自分を助けてくれるかもしれない人と出会えた場所だったからか。

 

 もはや頭の中では、自分が男か女かなどどうでもよくなりつつあった。

 

「ぅ゙うううっ…♡ ぁあぁあ゙……♡」

 

 視界が溶ける、蕩ける。

 もう、だめかも…。

 

 こんな事になるくらいだったら、彼の言うとおり相談すれば良かったかもな、なんて、今更過ぎる。

 

 胸と秘部に手を伸ばそうが、そんな小さな快楽より、破壊衝動によって得られる大きな快楽を身体は求めていた。

 

 僕がコレに飲まれたら、みんな死んじゃうかな……。悔しいな…これまでずっと辛くても頑張ってきたのに……。

 

 

 

 

「千隼ッ!!!」

 

 

 

 

「………………ぇ…?」

 

 そんな事、ある?

 

 この場所ではもう聞くことは無いと思っていた声が、ぐちゃぐちゃになっていた脳内を静めるように突き刺す。

 

 だって、今深夜だよ? それに、今日あれだけ迷惑かけた後なのに、ここにもう用なんてないはずなのに。

 

 朦朧とした意識のまま、振り返る。

 

「おい…! おいッ! 大丈夫か!?」

 

 彼がいた。ハルが。

 

 これ…夢? とうとう都合の良い幻覚まで見え始めたのかな。

 

「ハ、ル……♡」

 

「これ…! あの時と同じ状態か…!?」

 

 ハルは冷や汗を流しながら、恐る恐る僕に近づいてきた。

 

 だめだ…近づかないでくれ…!♡

 

 震えていたけど、彼はふらふらの僕をしっかりと抱きとめた。

 

「お前が飛んでった後さ…何かモヤモヤして、気持ち悪くて…あの時声掛けとけば良かったって…! それで俺、なんでかわかんないけど、ここに来ればいるかもなんて思って…!」

 

「は、る……はる…!♡ はる!♡♡」

 

 だめだよ…♡ こんな事をされてしまったら…僕はもう我慢できなくなってしまう♡♡

 

「はる…たすけてっ♡ ぼくもうっ♡ からだおかしくなっちゃって…!♡ おさえらんなくてっ!♡ だから…たすけてっ!♡」

 

 ごくり、と喉を鳴らす音が聞こえた気がした。

 

「わ…わかった…! 俺は何すればいい…! できることならやってやる…!」

 

「……ん…ちん……」

 

「な、なんだって…?」

 

「おちんちん…♡ ここにちょーだい?♡♡」

 

 顔を真っ赤に染めながらも、僕は室外機に腰を下ろし、笑みを浮かべて両手で秘部を押し広げた。

 

 だってしょうがないじゃん?♡♡ 身体の疼き抑えるためには、これしかないんだもん!♡♡ だからこれはしかたのないことなんだよ♡♡

 

「やっぱそうなるのか…」

 

「あははっ…♡☆ そうだよっ♡♡ 結局こうなっちゃうの♡♡♡」

 

 彼は冷や汗を滲ませながらも、ぎこちない手つきでズボンからおちんちんを出した。

 

「はあっ…♡ はあっ…♡ ごめんね?♡ きもちわるいよねっ…こんなのっ♡♡♡」

 

 心の中で繰り返してきた謝罪が口から零れ落ちる。けれど、もはや形だけの言葉でしかなかった。視線はおちんちんに釘付けになっている。

 

「いや…自分でも驚いてるんだが…思いのほか抵抗感は無いんだよな…」

 

 おちんちんの先と僕のおまんこはもうくっつきそうなほど近い。

 

 はやくはやくはやくっ…!♡♡

 

「ぅおっ!?」

 

 焦れったさに耐えかね、僕はハルの腰に脚を絡め、引き寄せるように一気に突き入れ────

 

 

 

 

 

 

 

 ────ぁえ…??♡

 

 あ、もしかして今一瞬気失ってた?

 

「ぉ゙…っ…ほぉ……♡♡ ぉ゙お……おっ…♡♡」

 

「い、いきなり…! っおい…!」

 

 目の前に彼の顔がある。

 強引に寄せたせいで前のめりになり、筋肉質な身体が僕を完全に覆い隠す体勢になっていた。

 耳元にかかる荒い呼気が、全身を駆け巡る快感を加速させる。

 

「ぁあぅ゙っ…ぅ゙う、うごいれぇ…♡♡ ずぽすぽっ…してっ♡♡」

 

「っ…わかったよっ…!」

 

 ずんっ…!♡

 

「お゙っ…!?♡♡ ほっ……ぉぉ゙ぉ…♡♡♡」

 

 これっ…♡♡ これこれこれっ…♡♡

 

 脳天に突き刺さるみたいな衝撃…♡♡

 両腕をハルの首元に回す。視界はもう機能してない。

 

 ずんっ!♡ ずんずんずんっ!♡

 

「ふっ…うっ…キツすぎ…!」

 

「ぉお゙っ…ほォ゙ぉおっ♡♡…ぇあへぇへへへ…♡♡♡」

 

 なんかこれ、まずいかも。

 ホントに死んじゃうかもって、そんな気がする。

 

 でも…あ〜……それでもいいか…?

 ぜ~んぶ……快楽で塗りつぶして……。

 

「ぢ…ぬっ…♡ ごれっ…!じぬっ!☆♡♡ あはっ!♡♡☆」

 

 腰の動きが速まり、彼の口数も減っていく。荒い息遣いと、肉が打ちつけ合う水音だけが静寂を満たしていた。

 

 視界の端で、月色だった髪が明滅するように黒へと変色しかけている。

 

 ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡

 

「ごっ、ごわしてっ?♡♡☆ ぐ、ぐちゃぐちゃにしてくらはいっ…♡♡ こわひてくぁひゃいぃ゙っ…!♡☆♡」

 

 口から勝手に言葉が溢れ出る。

 

 たら…と、鼻から血が垂れる。

 歯を食いしばっても口角が上がる。

 

「そろそろ…俺も…!」

 

 あ……♡ 腰引けてる…♡ 出す瞬間おちんちん抜く気かな?♡

 あはっ…♡☆

 

「そんっにゃ…こと…させない、からっ…♡♡♡」

 

「!?」

 

 がっちり腰を固定する。

 

「出……るっ…!」

 

「〜〜〜〜〜っ…!!♡♡♡☆♡」

 

 ぶりっぶりの、ゼリーみたいな精液が子宮の中へと、どぷどぷ注ぎ込まれる。

 ただでさえずっとイキっぱなしだったのに、お腹の中の熱さを感じて、さらに身体が震える。

 

 この時には気がついてなかったけど、僕の身体に残っていた余韻は何か別の、黒い淀みへと変わり始めていた。

 

 路地裏で数度の行為を重ねた後、僕たちはハルのマンションへ移動した。

 

 当初は成り行きに流されていた彼も、最後には貪るように僕の身体を求めていた。

 

 疼きを抑えるためだったはずの行為が、次第に心地良く…ただ快楽を得るためのものに変わっている。

 

 玄関に入ってすぐ、彼の唇を奪ってしまった。

 

「ん…♡ んぁ…ぇ〜〜……♡♡ れぉえぉ〜…♡♡♡」

 

 彼が背をかがめ、小柄な僕を包み込むように口づけを返してくれる。触れ合っているだけで、頭の奥が痺れるように甘く蕩けていく。

 

 ちゅーしてるだけなのに、こんなにも甘く痺れるように気持ちがいい…♡♡

 

 そのまま玄関先で一度交わり、立てなくなった僕は抱き上げられて寝室のベッドへ運ばれた。

 

「まさか千隼とこんな関係になるとは思ってなかったな……告白してたあいつらの事笑えねぇよ…」

 

 自嘲気味に呟く彼を見上げながら、僕は笑った。

 

「あはっ…♡☆ あひたも…あさってもっ…ずっとずっと…えっちしよ…?♡♡」

 

「流石にそれは無理です」

 

 夜が完全に白むまで貪り合い、僕は深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

「ん……あれ………」

 

 目を覚ますと、部屋には僕一人だった。

 

 昨日の記憶が蘇る。

 とんでもない醜態だ。

 

 けれど──以前の僕なら抱いたはずの絶望や罪悪感はどこにもなく、頭の芯はやけに澄み渡っていた。

 

「これ…」

 

 机の上には朝食の用意と、オートロックだからそのまま出ていいという書き置きが残されている。

 

 あ、そっか……僕も仕事……。

 

 …………………あ~…なんかもう、いいかな。

 

 陽光の差し込むベランダへ向かい、ふと思い立って変身を試みた。

 

「ん? なにこれ?」

 

 身体を包み込んだのは、澄んだ光ではなく禍々しい漆黒の燐光だった。

 

 両手には、見覚えのない黒い手袋。

 

 姿見の前に立ち、己の姿を確かめる。

 

「ありゃ」

 

 全体的に黒い。

 

 月色だった髪は、変身前の地毛よりもさらに黒く夜空のような色となり、三日月を湛えていた瞳は、光を一切映さない黒へと変わっていた。

 

『おや……』

 

「?」

 

 背後から、昨日聞いたような低い声がした。ハルじゃない。

 

 横を見ると、どこから入ってきたのか、昨日のネガモンが宙に浮いてこちらを観察していた。

 

「昨日ぶりだね」

 

『まさか、たった一夜でこうなるとはな……私と契約することなく自力で心装乙女/欲転(ネガハート)になるとは…思ってなかったネガ』

 

「ネガハート?」

 

『ネガモンの力を得た心装乙女のことネガよ。予兆はあったけど、まさかプロトタイプの余韻だけでここまでとは、余程我欲を抑えていたと見える』

 

「………えーっと、インキュバス型の余韻に飲まれるんじゃなくて逆に取り込んで、悪堕ちした…みたいな解釈であってる?」

 

『だいたいあってるネガ。今頃、君から発せられる前代未聞のネガモン反応で、国もハピモンどもも大混乱だろうな』

 

 ネガモンは、短くもふもふとした三本指をこちらへ突きつけてきた。

 

『君に残された選択肢は、三つネガ』

 

「それだけ?」

 

『一つ。このまま無限に湧くネガモンを倒し続け、終わりのない戦いに身を投じるか』

 

『二つ。ネガモンの発生源たる、腐敗した者どもを粛清し、ユートピアを築き上げるか』

 

『三つ。この星に現存するハピモン、ネガモン、心装乙女、心装乙女となる候補の少女たちすべて殺し尽くし、星を以前の姿に戻すか』

 

「四つ目はないの?」

 

『例えば?』

 

「何も選ばない。僕は好き勝手に生きる。気まぐれにネガモンを狩って、人を助けて、気に入らないものを壊す。……とか?」

 

『………キミはそれでいいネガ? それはキミ自身が最もしてはならないことだと思っていたはずネガ』

 

「わかるの?」

 

『私がなぜこの姿をしているかわかるネガ? 私はキミがハピモンに感じていた不信感、それが存在の軸になっているネガ。言うなれば私はキミの悪感情そのもの、分からないはずがないネガ』

 

 なるほど、だから容姿が似ていたのか。もっとも、あっちよりは、こいつの方がよほど話が通じそうだが。

 

「もういいんだ。ハルには悪いけど、僕は今のほうが……心地良い…?ってのは違うか……気持ち良いわけでもなくて……えっと…自然、かな?」

 

『それが、本当のキミだと?』

 

「今はね。新しくなったんだ。ニューボーンって感じ? 勘違いしてほしくないけど、君たちの味方になるわけでもないからね。今までどおり大切な子たちは助けるし」

 

 ん……? 耳の奥で微かなノイズが走る。ハピモンが必死に回線を繋ごうとしているのだろう。

 

『わかっているネガ……まあ…もうキミはいるだけで場をかき乱してくれるから、多くは望まないネガ……今警戒すべきは、次代の新芽たち……私はそちらの対処に集中するネガ』

 

 新芽…そっか…ちゃんと新人ちゃん達は育ってるんだね。

 

 黒い怪異は陽炎のように掻き消えた。

 

 直感的に理解できる。この身体がこれ以上成長することはなく、老いることすらないだろう。

 

「……………とりあえず、ドンキでも行こっかな…」

 

 バニーの衣装でも買って、帰宅したハルを出迎えてやろうか。

 

 さ、これからどうしよっかな。

 

 まずはハピモンたちに、新しくなった僕の姿をお披露目してあげなくてはならない。もし本当にハルや家族に手を出そうとしたらどうなるか、身をもって教えてあげよう。

 その後は……会社の上司に菓子折りでも持って、退職届…渡しに行こう……会社の方には、本当に申し訳ないことをしてしまったからね…。

 

 本当の自由は、もう目前だ。

 

 さ、もうちょっとだけ頑張っちゃうよ!★

 

 

 

 







 ステッキについてる月はその気になれば本物くらいの大きさにできる。

 続きはない。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

元剣豪のTS巫女が昔のライバルに抱かれるまで(作者:なほやん)(オリジナル:歴史/恋愛)

狐に魅入られ女となり、剣を捨てた信太新三郎。▼かつて彼には、互いの剣に焦がれ、共に天下一となることを誓った好敵手がいた。▼それから七年。▼山里の巫女として暮らす新三郎の前に、その男——鳴海兵馬が現れる。▼兵馬が七年ものあいだ探し続けていたのは、ほかならぬ新三郎その人だった。▼互いの剣に脳を焼かれた好敵手同士が、七年越しの劇重感情をこじらせた末、元剣豪のTS巫…


総合評価:1025/評価:8.83/完結:5話/更新日時:2026年09月24日(木) 19:06 小説情報

【R18】TSうすほそ転生魔族ちゃんが人間の男に救われて一緒に暮らす話。(作者:ソイレント・グリーン)(オリジナル:ファンタジー/ノンジャンル)

タイトルの通りです。


総合評価:2480/評価:8.94/完結:20話/更新日時:2026年08月27日(木) 07:04 小説情報

主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ!(作者:匿名退場予定)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

いい感じのところで主人公に未来を託して死ぬヒロインにTSしちゃった▼でも、原作再現とかできるなら楽しくね?▼だから死ぬまでの余生を楽しむぞ!▼……なんかいきなり主人公くんと仲がいい状態から物語がスタートしちゃったけど、まあいっか▼そんな話


総合評価:1511/評価:8.6/連載:15話/更新日時:2026年10月12日(月) 09:03 小説情報

【R18】TS獣人の吟遊詩人お姉さんが主人公っぽい少年を襲ってしまった話。  (作者:ソイレント・グリーン)(オリジナル:ファンタジー/ノンジャンル)

TS獣人吟遊詩人お姉さんが主人公っぽい少年を観察して楽しんでいたら、獣人としての本能に負けて襲っちゃう話。


総合評価:1207/評価:8.77/短編:3話/更新日時:2026年09月11日(金) 05:54 小説情報

儚い系うすほそエルフになったので自由を謳歌する(作者:うすほそ~(挨拶))(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

人生に疲れていた社畜は、気がつけば異世界で儚い系うすほそエルフとなっていた。▼当然チートも持っている。▼ちょっと儚すぎること以外、何一つ不満のない状況を手に入れたのだ。▼これからは自由に生きていい、そんな幸福感に満ちながらうすほそエルフ”リリア”の新たな人生は始まった。▼しかし儚すぎる見た目のせいで、生き急いでいるようにしか見えないうすほそは、周囲に多大な心…


総合評価:1514/評価:8.5/連載:5話/更新日時:2026年08月30日(日) 12:35 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>